15.vsホブゴブリン
話は飛んで第五層を降りてボス部屋への扉の前。雑談しながら特に苦戦なく着いてしまった!
「次がボス部屋か。」
「危険度2のホブゴブリンが出るそうですよ。」
ここで軽く再び危険度の説明をしておこう。危険度とは、その危険度の数と同数のレベルで危なげなく倒せる魔物のことを指す。しかしゴブリンは同じ危険度2の中でも身体能力が低い代わりに、知力が高いことからそのような危険度がつけられているのだ。ま、知力は高くても危険度2の中では弱い方だけどな。
「行くぞ。」
一応俺はそう言いながら扉を開ける。石で作られたいかにも重そうな扉だが、思いのほか簡単に開いた。そして入ると同時に扉が勝手に閉まる。特に目立った感じはなく、草が生い茂るそこそこ広めの空間。そこの真ん中が歪む。何かずれるような違和感とともに赤色の肌が見えた。
「あれが……ホブゴブリン。」
その肌は、ゴブリンが緑だったのに対し赤色。ゴブリンの2倍ほど、つまり3メートル近い巨躯。攻撃力、防御力共に俺らを上回るだろう。しかし、パーティを組んだのは今日が初めてだが俺もシルフェも優秀と言える部類に入る。負ける気は微塵もねえ。何より師匠が行けと言ったということは、倒せるということだ。
「行くぞ!」
「ええ!」
今日組み立てたばかりのパーティで連携なんてできるはずがない。だから自由に戦うと決めている。
「らっ!」
俺が目の前に立ち、木刀を振るう。しかしそれは斧で防がれる。これは想定内。人数が二人いるなら片方が壁になって片方で削るのが定石だ。
「ふっ!」
シルフェが示し合わせたかのように右足へと剣を振るう。避けられたせいでかすりはしたが、深くは刺さらなかった。俺は剣を振るい隙を見せるシルフェの前に立つ。
「こいよ!」
俺はホブゴブリンが振り下ろす斧を木刀一瞬受け、体を斜めにずらしてすべり落とす。そして手首を狙い斬る。流石に骨までは斬れないので、半分ぐらいで戻して後ろに二人同時に下がる。いくらさばけるとはいえ、避けれるならそれに越したことはない。
「『水の砲撃』」
大きい水の塊が、相手に向かって放たれる。水球より大きいバージョンに見えるがその本質は攻撃ではない。
UGA!?
当たると同時にゴブリンを呻き声を上げ、ぶつかった水の砲撃も変化する。瞬時に拡散して行き、霧となって辺りを覆う。水属性とその派生属性の霧属性の合成魔法。霧の中では大きければ大きい程目立ちやすい。
「はっ!」
「オラァ!」
俺とは眼を狙い、シルフェは足を狙う。どちらも機動力を削ぐためだ。不意打ちは混乱している最初しか効かないが故に、最初に重要な部分をかっさらう。俺は目元に向かい横一線に木刀を振るい、シルフェはホブゴブリンの両足にナイフを突き刺している。
「一気に決めるぞ!」
シルフェは一回距離を取り、俺はホブゴブリンを向きゆっくり駆け出す。ここで一気に畳み掛ける。目が見えず、足も碌に動かせないホブゴブリンならば隙のある技も打てる。
「アルフォス・ゲルト・ウヌ・ベイン『木々の怒り』」
詠唱魔法。術式型魔法の一つで、魔法言語を利用して放つ。少し地面が揺れた後、先が尖った木がいくつも放たれる。標的は全てホブゴブリンだ。
GUGYAGYA!
何回かは斧で防がれるが、防ぎきれず一撃刺さる。その隙を逃さずに、いくつもの木がホブゴブリンの体を抉って行く。無数の木がホブゴブリンを貫く中、俺は真正面で上段に構える。体を守る分を無視し、木刀に全てを集中。
「終わりだっ!」
俺は即座に木刀を落とし、相手の頭から全部一刀両断する。結構体がボロボロだったから斬りやすかった。
「おつかれ様です。」
「おつかれ。」
俺とシルフェは片手でハイタッチをして、体から力を抜く。
「報酬は山分けで構いませんか?」
「いいぜ。つーか終わった後に直ぐ金の話か。」
「大切なことなので。」
俺は大きく息を吐き、体を安らげる。ホブゴブリンがいた場所にはゴブリンの2倍近い大きさの魔石が落ちていた。売ればそこそこの金にはなるだろう。まあ、そこそこではあるが。
「久しぶりだな。こんな緊迫した戦い。」
「久しぶり?」
「ああ、いや気にするな。」
昔、剣道をメインにだが様々な武術を修めた。その時に色々あってルール無しで幼馴染と戦う機会があったのだ。アレは、まあ惜しかったんだけどな。
「それじゃあ取り敢えず帰りましょうか。」
「ま、そうだな。」
俺たちは帰路に着いた。疲れてはいたが、とても充実したものといえた。
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それで夜遅くに師匠の家に帰った。
「とまあ、こんな感じだな。」
今は結果報告をしている。もちろん、一回衛兵にお世話になった話はしてない。あれは墓まで持っていく。
「そのシルフェードって子。中々強いんだね。グラドから剣術を教わったあんたが遅れを取るなんて。」
「いや、剣は多分俺の方が上だ。だけど魔法操作が上手くて、詠唱魔法もしっかりと使いこなしている。」
俺はまだ詠唱魔法を使えないので、正直な意見を言った。そしたら師匠が目を細める。
「ほう。同い年の女の子に、私が教えていながら魔法で負けた?」
「いや、え?」
ヤバイ地雷踏んだ。気付いた頃には遅く、宙にナイフが浮いているのを知覚した瞬間。ナイフが超高速回転しながら移動して俺の首元で止まる。
「まだ鍛錬が足りないね。これからはもっとキツくする必要がありそうだ。」
笑みを深めて師匠はそう言った。俺は明日、死ぬかも知れない。




