12.十代目勇者として
扉の先、そこには見慣れた王都と、見慣れぬ異形の者達がいた。既に王都の中へと何千もの悪魔が侵入していた。それだけではない。人も人を襲っていた。それら全員がアグレイシア教の奴らであろう。既に何千人も死んだはずだ。絶望しただろう。悲しんだだろう。この国の精鋭である騎士達でさえ、多過ぎる悪魔に対応し切れない。王都が陥落するのは時間の問題であるのは言うまではない。
「『希望へと続く一振りの星』」
しかし、この王都は沈ませない。この王都こそが、人々の希望である。そして何より、俺達の帰るべき場所なのだ。人の平穏を、幸せを、希望を、他人が奪う権利を誰が持つと言うのか。故に、救わねばならない。ああ、これだけの人が死んでも、まだこれだけ生きていて良かったなどと考える自分が嫌いだ。
「全天の煌めきが無限の生命を与える、星は原初から数多の生物を見送り育んできた、故に今こそが人を、世界を、星を救う時なり、力を貸せ、総てを癒す赤く優しき星よ、生命に祝福を。」
それでも俺には人を救える力がある。一人でも多く救える力がある。例え自分が嫌いでも、嫌になっても、自分の行く道だけはもう決して違えない。
「『冥界星』」
王都を煌めきが覆う。その優しく、薄く赤い障壁は王都を丸々覆った。その結界内にいる守られるべき者を全て癒し、助ける。なら逆に守られるべきでない者。つまり俺の敵は、その結界から弾き出され、王都から追放される。
「人理の逆転、許されざる大罪、されども人はそれを求む、未だこの世界に存在せし魂よ、生命の象徴たる星がその身に再び降ろそう。」
しかし死した人は癒されることはない。魂と肉体があって、初めて生きていると人は呼ばれるのだ。そして人の体から魂が天に登るまでは十秒。
「『不死星』」
そこまでなら、元に戻せる。それで少しでも生きる人が増えるのなら、そうするべきであろう。
「聞け!魑魅魍魎の悪魔共!」
そして声を発する。より広く声を届けさせる魔法を使い、周辺により響かせて。
「俺の名ははジン!ジン・アルカッセル!」
言葉を発する。国民を勇気付けるために、希望を与えるために。
「人の希望。受け継がれし星の意思。最強の剣士。俺こそがお前らの宿敵。聖剣の担い手。」
その鞘から刀を抜く。その黒い刀身は、それだけで悪魔の体を畏怖させる。
「十代目勇者ジン・アルカッセル。」
悪魔達は殺気立つ。四代目勇者が倒した魔王は悪魔。故に魔界にて四代目勇者は破壊の限りを尽くした。故に悪魔から勇者は恨まれている。
「新たな勇者として、お前らを打ち砕こう。お前らの敵は今、ここにいる。」
悪魔達がこちらへと突っ込んでくる。溢れる殺気を抑え切れんように。
「この魔法は俺が死んだら壊れる。お前らは俺と戦わなくてはならない。」
斬る。俺とやることは結局は単純なのだ。ただ、ただ斬るだけ。一匹、二匹、三匹、四匹、五匹。続け様に悪魔を斬る。
「弱いぞ!脆いぞ悪魔が!七十二柱の一匹もいないのか?なら俺と相手になるやつは一人もいなさそうだな!」
相手を恐怖させるために言葉を紡ぐ。返り血で体が汚れるが、構いはしない。ただ我武者羅に斬り捨てるだけ。
王都の住民は最初何が起こっているかは分からなかった。ただ自分達が助けられたということが分かった。そして、それが勇者と聞けば興奮が集まるというもの。人は次第に俺がいる場所、つまり門へと集まった。そして見る、国民を襲っていた悪魔を一人残らず、たった一人で斬り捨てていく姿を。
「もっと強いやつを呼べ!相手にならん!」
背後から歓声が聞こえる。出来れば危ないから引いて欲しいところだが、安心するためにここにいるのは当然の心理だろう。そして、俺の予想が正しいのならもうすぐ。
「なら、私とやろうか。」
「……随分と久しぶりじゃねえか。」
俺の目の前に一人の男が現れる。手には何も持たず、黒い司祭服を着込んだ男。最後に見た姿とは随分と違う。しかし、しかしだ。間違いない。確信を持って言える。こいつが誰かを。
「精霊界以来だな。」
俺をたった一体のゴーレムで瀕死にした男。俺の片腕を容易く奪った男。偽りの精霊王を消失させる力を持っている男。
「今度は、絶対に俺が勝つ。」
「否。今度も私が勝つ。そしてこの国を終わらせよう。」
空間がねじ曲がり、どこから一本の杖が現れる。空間魔法だろう。恐らくあの杖がこいつの武器。
「そして安心しろ。あのエースも敗れ去る。復興など有り得ない。次代の王も、今代の王もこの日に滅びを迎える。」
「ほう。」
俺が敗れるならまだしも、エースが、負ける?
「それは笑えねえジョークだ。」
「いや、ジョークではない。何せあの宿泊所にはこの私より強い悪魔が向かっている。」
「お前より強い悪魔、な。」
ああ、分かった。こいつらはエースを見たことがない。分かっていてこんな事を言えるはずがない。
「じゃあ、勝てねえよ。」
地面を蹴る。いくら強くても、視界にすら残らないだろう。無限加速はまだ切っていない。超至近距離、悠然にして刹那的にその刃を振るう。
「ッ!『六霊の守護』」
「あめえ!」
たかが結界術など、もう意味を成さない。今や俺の絶剣はその域に達している。結界はまるでないものかのように貫通し、刃が右肩から左腰にかけて通過する。
「うぐっ!『転移』」
「……俺程度の実力を見抜けない奴が、果たしてエースの事を知り切れるか?」
男は転移魔法で距離をとる。大分深くいった。回復魔法を使えば治せはするだろうが、宣戦布告としては十分だろう。
「あいつ、まだ生まれてから一度も、本気を出したことがねえってのに?」
「ッ!?」
あいつはどんな敵でも、危機的状況でも手を抜いていた。本気を出したらそこらのものが全て消し飛んでしまうから。手を抜かざるをえなかったのだ。
「何もやらせねえよ。絶対に。」
俺は聖剣を男に向けた。
別にゲームをやっていて更新が遅れたとかそんなわけじゃありません。……嘘ですすいません。




