10.海底
ほんの短い繋ぎの話です
男女二人ずつ、計四人。その体内から溢れる魔力、そして立ち振る舞いが常人とは次元が違うさまを表していた。
「敵襲だ!急ぎ転移魔法陣を起動しろ!数多く逃げることを優先するんだ!」
そしてたった四人を前に、数千を超える人間が逃げ惑う。それはあまりにも異様な光景でありつつも、納得できる光景であった。
「まさか、海底にいたとはねえ。」
黒いローブを羽織る女性がそう言う。そう、ここは海底。彼らは地上のどこにもいなかった。地上には、だ。たかが末端の宗教が、現代地球ですら成しえなかった海底都市を実験するなんて誰が考えただろうか。だからこそ現代に至るまで生き残ってきていた。
「シンウォト・バッシュ・テラ・パライズ・アルスト『逃れられぬ檻』」
その女性が天に手を向け、魔法を行使する。天空に巨大な魔法陣が形成された。その海底空間の空を埋め尽くすほど巨大な。
「ここは、どうやら空間魔法を使っているようじゃの。常に地上と微小な窓で繋げて空気を補強し、更に水に耐える結界を常時張ってるおる。じゃから結界を壊したら殲滅は終わるが、情報が欲しい。最悪拷問もするために殺さずに残しておくのじゃ。」
世界最強の魔女、オーディン・ウァクラートはその右手の杖を逃げ惑う人々を見ながら構える。
「壊さない、殺さない、楽をしない。ああ、めんどくせえ。」
それに槍を持つ男、ベルゴ・ルーフェが答える。自分の武器であるのに槍を引きずって、気怠げに前へ足を進める。
「先に始めるぞ。」
「勝手に行きな。誰も止めやしないよ。」
「そうか。」
そして剣を持つ男が誰よりも速く、地面を駆ける。言わずもがな、グラド・ヴィオーガーである。
「無銘流奥義二ノ型『天幻』」
グラドが剣を振るう。それだけで百の人間が倒れる。これは戦いでは決してない。殲滅なのだ。一方的な蹂躙劇でしかない。ベルゴが歩いて行くだけで近くの人間は深い眠りにつき、オーディンか魔法を唱えるだけで人々は様々な方法で気を失う。いくら人がいても、制圧はあまりにも呆気なく、容易に終わった。
「……おかしい。」
「ああ、そうじゃの。」
そう、呆気なさすぎた。四人は即座にそこら辺にある建物を調べ、活動に関する記録を探した。例え今ここにいない教団員がいたところで、それがどこにいるかが分らねば意味がない。
「おいテメエら。これを見ろ。」
そしてグラドが決定的な記録を見つけた。
「これは……!」
「グラド。即座に移動で構わんな。それでも転移にはそこそこ時間がかかるのじゃが。」
「ああ、頼む。緊急を要する話だ。」
オーディンは魔法陣を展開する。それは転移の魔法。それにあのオーディンが魔法陣を使うクラスの距離。ここが海底であることを吟味しても近場ではないことは確かであろう。
「まさか、まんまと騙されるとはな。」
少し苛立ちながらグラドが言う。
一つ、実際の居住区の大きさと人数が合っていなかったこと。
二つ、レベル10が一人もいなかったこと。
三つ、現在オーディンが王都を離れ、王都の守りが手薄になっていること。
ここから相手の行動を読むのは大して難しくなかった。




