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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第6章~人という無限の可能性へ~
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8.世界樹

「絆を紡げ!『永遠と続く絆(オールフォーオール)』!!」



シルフェの夢想技能オリジナルが俺達の身体能力を上げる。シルフェの力は仲間の数だけ力を増す。今回の仲間は四人。これだけでも相当速いはずだが、振り切れない。



「『無限加速アルガ・アクセラレート』」



だが、俺はまだ速くなれる。俺達の真後ろで木々を薙ぎ倒し、地面を抉りながら進む怪鳥。これでやっと同速。しかし流石にこのスピードに二人は付いて来れない。



「エル。風除けの魔法を使う余裕はないからな。自分で使えよっ!」

「わかってる!」



アクトの眼が金色に染まる。そして槍を構えながら振り返る。



「アクト!」

「任せな!この強化値なら足止めぐらいはできる!その間に距離を離せ!」



一瞬で思考を巡らす。一度距離を離せばアクトは追いつけないだろう。その状況でアクトを置いていくのはキツい。チラリとシルフェを見て、俺は止まりそうになった足を再び動かす。俺は何も思いつかなかった。だが、シルフェなら思いつく。こういう時の咄嗟の判断に弱いのは相変わらず俺の欠点だなクソッ!



「『空間停止(エア・ザ・ワールド)』」



アクトの槍が光り輝き、鳥王マスターバードが一瞬止まる。その一瞬あればかなりの距離が離れる。そしてシルフェの魔法で作られた木の鞭が、アクトの足に巻き付く。



「ジンさんッ!」

「おうよ!」



そしてその木の鞭の反対側をシルフェが俺に渡した。俺は走りながらそのままアクトを引っ張る。そして速さを利用してその木をぶん投げる。走る速度と投げる速度。投げる速度の方が速いに決まっている。



「シルフェすまん!」



アクトは多分あのままの勢いで世界樹に着くだろう。だから俺たち三人が着くことを考えればいい。そしてここまで走ればかなり俺の足も速い。俺はシルフェを横抱きにして持ち、走る。背中にはエルがいるからおぶることはできない。お姫様抱っこではない。横抱きだ。アレはこのスピードでやるには安定感が足らな過ぎる。


俺の加速する足は二人分の重量をものともせず、そのまま走る。何も考えずに我武者羅に走る。俺は前世ではありとあらゆるスポーツを学んでいた。その知識と技術を詰め込んだ俺の動きに数瞬たりとて無駄な部分はない。しかし当然と言うべきか鳥王マスターバードの方が速く、徐々に徐々に差を詰められる。そして追いつかれると思った寸前。鳥王マスターバードが止まった。そして羽ばたいてどこかへ去っていった。



「やっと、着いた。」



へたり込み、シルフェを地面に置く。少し雑なのはもう許してほしい。そして俺の背中から重量が減る。



「ごめんね。足手まといになって。」

「いえ、私の夢想技能オリジナルは仲間の数だけ力を増します。むしろいてくれて助かったぐらいですよ。」



シルフェも地面に寝転がってそう返す。



「そういやアクトは……」



そう言って俺は辺りを見渡すと地面に突き刺さるアクトがいた。こいつ……着地ミスりやがったな。俺は精神的な疲労から気怠く感じる体を動かしながらアクトを地面から引き抜く。



「ふふっ。」

「おいエル!笑ってんじゃねえよ!」



俺はアクトの足を離す。アクトは直ぐに手をつき、綺麗に着地をする。



「うげえ。土の味がするぜ。」

「それは着地をミスったお前が悪い。」

「だけどよ、気付いたらもう目の前に地面があったんだぜ?流石に無理だっての。」

「嘘つけ。未来視できるやつが言うことじゃねえよ。どうせめんどくさがったんだろ。」

「ちぇっ。バレたか。」



俺は呆れて溜め息を吐き、頭上を見上げた。そこには青い空、ではなく緑の葉。それが一面に広がっていた。そして視界を下ろしていくとそこにはあまりにも太く、堂々した木の幹が見えた。



「これが、世界樹か。」



ただ圧倒される。その巨大さと、その木から微かに漏れる膨大な魔力。この木は一体何年前からここにいるんだろう。



「凄いね。僕ちょっと登ってくるよ!」



そう言ってエルは世界樹の方へと走っていった。やはり獣人だから僅かな窪みや引っ掛かりを利用して、どんどん世界樹を登っていく。

俺は腰にさしていた木刀に手をかける。俺の制服は少し改造しており、木刀をさせるようになっている。両手を使えるという点から考えても腰差しは便利だ。



「……斬れないな。」



そして木刀から手を離す。アレを斬ろうと考えたが、どうも斬れる気がしなかった。恐らく世界樹が持つ天然の魔力防御があるのだろう。こんな適当に置いていても誰も倒せないぐらいには強力な。



「それにしても、まさかいきなり鳥王マスターバードに追いかけ回されるなんてよ。運がねえなあ。」

「ああ、確かに運がねえ。というかああいうのは最奥にいるもんじゃねえのかよ。」



そもそも王種なんて数が少ない。更に言うなら必ずそれぞれ一匹しかいないらしい。何でそんな低確率を今引き当てるのか。



「まあ、無事に着いたんですからよかったじゃないですか。」

「もっと心に余裕を持って辿り着きたかったぜ。」



まあ、それは俺もだけど。



「折角ここまで来てなんだが寝させてもらうぜ。ちょっと体力使い過ぎた。」



そう言ってアクトは世界樹のところへ行き、木にもたれかかった。



「……シルフェ。ここら辺はやけに魔力が薄いんだな。」



俺はそれを見ながらポツリと言う。



「そうみたい、ですね。世界樹が魔力を吸っているんでしょうか。」



この世界樹の回りだけ異様に魔力が薄い。恐らくデルタ大陸の中で一番魔力が薄いんじゃなかろうか。



「だけど魔力が集まった結果がこの世界樹じゃねえのか?ならここに魔力が集まるもんだと思うんだが。」

「ふむ。ジンさんは植物が自己生産ではなく、空気中から魔力を集めているのを知っていますか?」

「知ってるが。」

「恐らくですが、その能力が異様に発達していのではないでしょうか。辺りの魔力を一つ残らず吸い尽くすみたいな。」

「そうなんだろうか。まあ世界樹と呼ばれるぐらいだしどんな力があってもおかしくはねえだろうけど。」



そう考えると少しこの木が怖くなってきた。

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