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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第6章~人という無限の可能性へ~
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5.森林

そんなわけで。先に着いていた先生に確認をしてもらって、無事デルタ大陸に到着できたわけだ。そして寝泊りをするのは木でできた宿のような場所。毎年生徒がここで二泊三日の間寝泊りする。



「エースはいないみたいだな。」

「そうらしいですね。大陸内のどこかにいるのでしょうか。」



しかしその宿の中をシルフェと探してみてもエースはいなかった。まあ用事があるとか言っていたし、そっちが忙しいんだろうが。



「どうする?日が沈むにはまだ少しあるが。」



俺達があっちを出たのが丁度夜中。つまり裏側であるこの大陸はその頃昼ぐらいであった。そこから日が昇るまでだから大体猶予は二十時間ほど。そこから大体六時間ぐらいかけて来たわけだから、もうほとんど日は沈んでいる。しかし若干まだある。それこそ今から山に登って日が暮れるのを見に行くのもありなわけだ。そういう意図で聞いたわけだが。



「いえ、今日はやめておきましょう。まだデルタ大陸がどんなところか分かっていません。ゆっくりと調査を行うべきでしょう。」

「そうかい。」



ふむ。そうならやる事もない。まあいつも通り修行をするってのもいいのだが、どうも味気ないしな。わざわざこんな魔境まで来たんだちょっと遊んでくるぐらい良かろう。



「なら軽く見てくるよ。」

「……話を聞いていましたか?直に暗くなりますよ。」

「軽くだっての。危なそうなら聖剣を使えばいいさ。」

「はあ。どうしてあなたはそんなに自由なのか。じゃあいいですよ。しかし、三十分以内に戻って来てください。それと不必要な戦闘は避けること。それまでに夕食を作ってますから。」

「はいよ。」



そうか。今日はシルフェが作ってくれるのか。『家事』なんてスキル持ってたぐらいだし、美味しいのだろう。



「じゃあ行ってくる。」



そう言って俺は地面を蹴った。現在位置は海岸近くの平原。そしてそれを囲むように森がある。恐らくこの平原部分は木を斬り倒して作ったのだろう。森の中に入った瞬間、魔物の気配を嫌というほど感じた。


いくつもの木が根を張り、根強い自然を感じさせる。日が沈んでいるが故に少し肌寒くなってきており、その分気配をより濃く感じる。静かなはずなのに、あまりにも数多くの生命が動いているのだ。ここはデルタ大陸の中でもまだマシな場所だ。暑いわけでも寒いわけでもなく、天候が荒れているわけでもない。普通の森のようにも見える。



「……懐かしいな。」



そもそも俺は森の中で育ってきた。馴染み深いのは当然である。そしてこの気配も懐かしい。ダンジョンの中でこいつと会うことは一度もなかったのだ。



森林狼フォレストウルフ共がよ。」



俺の目の前にいる森林魔狼マジックフォレストウルフ森林大狼アークフォレストウルフを睨む。あちらは俺の姿を見て警戒の姿勢をとる。苦々しい思い出だ。まだ十にも満たない頃。こいつらにこっ酷くやられたのは今でも覚えている。あの時はただのフォレストウルフにも勝てなかった。しかし今は違う。



「久しぶりにやり合おうぜ。」



それが別個体であると分かっていても、どちらにせよ魔物とは知性なき人類の怨敵に他ならない。ならばあの時の借りをここで返すぐらい良かろう。


森林大狼アークフォレストウルフは通常種より一回り大きく、強靭な肉体をしている。それに対し森林魔狼マジックフォレストウルフは通常種より少し大きい程度。あまり差異はないが、その代わり口から火の球を出したりと魔力的攻撃を仕掛けてくるのだ。どちらもあの時の俺では手も足も出なかった敵。



「斬れろ。」



その一言と同時にいくつもの狼が斬り捨てられる。狼達は後退り、一部は逃げようとしている。



「いるんだろ。あいつが。」



俺はあの時、途中で気を失った。しかしその後のことを、しっかり父さんから聞いている。ならば仇敵はあいつに他ならない。


狼達の一部が遠吠えをし、そして地面を踏みつける大きな音が響く。少し足が震える。子供の頃、殺されかけた敵だ。そりゃあ怖い。絶対勝てると思っているが、万が一負けてしまえばと思うとやはり怖い。しかしそれでもそれは父さんの子として恥ずべきことだ。借りは返す。絶対に俺が。



森林狼王フォレストマスターウルフッ!」



王者の風格を感じさせるその毛並みと魔力は、敵を否応なく圧倒させる。その宝石のような緑色の目は立ち塞がる敵を射殺さんとばかり睨み、そしてあの王者が体を伏せ、戦闘態勢をとっていることから俺がそこまでの領域に達しているということを教えてくれる。危険度は7。これ以上に強い敵に何度も会ってきた。しかしそれでもその敵と並びえるほどにその姿は俺にとっては大きな姿だった。



「無銘流奥義」



だからこそ敬意を以て、この戦いを刹那に終わらせる。我が剣は万物を切り裂き、事象を捻じ曲げ、未来を作り出す。



「『絶剣』」



呆気なく、それでいて俺の腕は重く、狼の首を斬った。潜血が舞い、狼達が戸惑う中。



「おし、帰るか。」



俺はこの場を後にした。

ジンの中でこいつとは軽く因縁みたいのがあったので、それを丁度いいし回収しにいった感じですね。

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