4.空にて
剣を振るう。アクトが未来を見るなら、見えても勝機がない戦い方をすればいいだけのこと。俺もアクトも越位魔法クラスは使えないが、単純な技術勝負でもいい練習になる。その相手の戦い方を考察し、無駄なく最善手を撃ち続ける。まるで将棋をしているかのように緻密に、休みなく戦い続ける。
相手は未来が見える。だから俺の攻撃は全て読まれている前提で策を組まなくてはならない。アクトが打ち合いの中、一瞬で間合いを詰め踏み込みと共に槍を突き出す。受け流し、掴み、防ぎ、回避、弾き。受け流せばその方向を予知しているはずだから相手の防御が間に合う。掴めば霊槍の魔法の力でダメージを喰らう。防げばそれを予知しているから直前で狙いを変えてくるだろう。軽い回避なら確実に追撃がくる。体勢を悪くするだけ。なら大きい回避。横に転がり込むか後ろに大きく下がるか。横への回避は体勢を悪くする。後ろへの回避は相手の追撃の勢いを上げさせてしまうやもしらん。なら弾く。どう弾くか。相手の槍の持ち方は利き手である左手を後ろに右手をなかほどに構えている。だから右に弾くほうがやりやすい。
俺は右に槍を弾きながら距離を詰め、隙を作らぬよう木刀を振るう。それをわかっているからこそ、アクトは後ろに下がりながら構えなおす
「相変わらずやりにけえな。」
「お互い様だ。」
先程の緻密な計算を毎回の勝負で行うことによって、これを瞬時的な判断で行うことができるようになる。これが俺が前世から積み上げてきた『経験』。俺のチートの一つなのだ。
「俺はまだ速くなるぞ。持久戦になれば俺が有利だ。」
「俺と違って魔力が保たねえだろうが。持久戦は俺の方が有利だ。」
俺とアクトは睨み合う。互いに武器と足の微妙に動かし、相手を牽制しながら仕掛けようと隙を窺っている。そして一瞬の隙を捉え、俺が地面を蹴り、アクトへ襲いかかる――
「はい、終わりですよ。」
――ことはなかった。俺は襲いかかる直前で止まり、アクトはそれに合わせてカウンターするタイミングで止まっている。
「そろそろデルタ大陸に近付いて来ましたよ。見えてきました。」
「だってよ。」
「かーっ!もう終わりかよ!」
「もう十分やったじゃないですか。もう何時間やってるんです?」
「ああ、ああ、分かったよ。止めますよ。」
そう言ってアクトは槍を俺から離し、俺も木刀を引く。アクトはその場に座り込んで槍を置いた。俺はアクスドラの頭の部分へ進む。
「……あれが、デルタ大陸か。」
「そうですよ。私は一度お父様と見たことがありますね。」
シルフェが横からそう言う。遥か遠くに薄ら見える程度の距離なのに膨大な魔力を感じる。あまりにも異常な魔力密度。何故あんなに魔力が濃いのだろう。なにか原因があるのだろうか。……まあ考えても仕方ないことか。あれほどの魔力ならば魔王が生まれるのも納得。最奥部に行けば俺達も無事では済まないだろう。
「それと、魔物が来ますよ。飛竜は複数体、大型鳥もかなり。」
「よし、斬るか。」
「短絡的ですね。まあ、否定はしませんが。」
シルフェの隣に蒼き光が集まり、竜の姿を成す。無論、青竜である。
「アクト、エル。お前らはいいのか?」
「俺はいい。得意じゃねえし。」
「僕もいいかな。魔力がちょっと勿体無いし。」
「そうか。」
俺は木刀を構える。アクトは空中戦を得意としていない。その眼の力で全部が見え過ぎるから、自由度があがる空中はキャパオーバーらしい。飛翔の魔眼を使えるはずだから空中戦はできないわけではないと思うけど。
「乗りますか?」
「いや、いいよ。」
シルフェは青竜に乗って突き進んでいく。俺はというとまずアクスドラから飛び降りる。そして魔力の壁を作り、それを足蹴にして進む。これが俺流の空中戦闘だ。風属性魔法に飛行があるにはあるが、あれは無限加速と相性が悪い。身体能力を上げるだけだから魔法の力が上がるわけじゃないし。
「無銘流奥義『天幻』」
竜の中に突っ込んでいき、剣を振るう。瞬く間に竜や鳥が落ちる。体が魔力となって消えていくことはない。あれはダンジョンの中だけだ。まあグレゼリオン大陸には地上に魔物がいないから最近はずっと見ない光景ではあるが。
「やってるなあ。」
シルフェの方では青竜の圧倒的速度で魔物にドンドン突っ込んで行っていた。過剰威力と言わざるを得ない。そして数分たったころに俺達は再びアクスドラのもとへと戻る。
「終わりだな。」
「ええ。」
見晴らしのいい空が広がっていた。どうせ危険度5以下の雑魚だ。時間がかかるはずもない。まあ別に無視しても良かった。アクスドラの周りにはアクスドラによって結界が張ってあったし、この速度でぶつかるだけで魔物は消し炭になっていただろう。しかしまあどうせ暇なのだ。多少運動したって困るまい。
「あとどれくらいかかる?」
『二時間ほどだろうな。』
俺の頭の中に声が響く。今が昼頃だから日が沈む前に着きそうだ。アクスドラは速いからな。飛行機なんかよりずっと。これでも随分ゆっくりしてる方だし。
「折角だからゆっくりしたらどうですか?アクトさんなんてもう寝てますよ。」
そうシルフェに言われ、アクトの方を見てみる。アクトは槍を抱えながら寝ていた。さっきの模擬戦で少し疲れていたのだろう。エルはまあ、何もせずにシルフェとお喋りしたりしてるだけだからのんびりと座っているが。
「といってものんびりしてると暇だろ?」
「疲れないんですか?いえ、もちろん肉体的な疲れはないでしょうが精神的に。」
「俺は何もせずにいると落ち着けないタチなんだよ。」
「そうなの?黙って寝転がってゆっくりするのも楽しいもんだと思うけどね。」
話にエルが入ってくる。まあ、ネコ科動物の獣人らしいな。偏見かもしれないが猫はずっと丸まっているイメージがある。獅子も、まあ近しいものがあるんじゃなかろうか。
「そうか。……いや、駄目だ。どうも落ち着かん。素振りでもしてるわ。」
何もしていない自分がイメージできなかった。俺は黙って素振りをし始める。
「なんというか、らしいというか。」
「ジンさんはそういう人ですからね。」
こんな性格の俺が受け入れられているということが、少し嬉しかったというのは心の奥底にしまっておくとしよう。
やはり現実はクソですね




