32.プロローグ5
自分の手の中で手紙を握り潰す。そしてなんとなく、空を見上げた。
「アグレイシア教、か。」
シンヤからの手紙にはアグレイシア教への独自調査の内容が載っていた。思ったより厄介そうだ。これからは騎士や軍隊が捜索し始めることを考えても、見つかる気がしない。結局警戒だけあちらからの攻撃を待つしかないのだ。なんせ三代目勇者の代、数百年前から隠れ続け、人員を集め、水面下で行動し続けたってことだ。ベルゴ先生の能力でも、アクトの眼でも存在が確認できないほどの隠密能力を持っている相手。受け身になってしまうのは防げないだろう。
「アクスドラ。お前悪魔だろ。手っ取り早く強くなる方法とかねえのか?」
『何度も言っているだろう主。何事にも代償が必要だ。悪魔が使う魔導とはそういうものだ。』
俺は溜息を吐き、その手に聖剣を呼び出した。
「ステータス閲覧」
そして聖剣が持つ所有者のステータスを確認する能力を発動させる。
××××××××××
【ジン・アルカッセルLv8】
[伝説技能]英雄剣術、無限加速、勤勉之徳
[神位技能]水神
××××××××××
伝説技能が三つと、神位技能が一つ。この水神は水王スキルから進化したものだ。先のミゴとの戦いでレベルが8に上がった。その時のレベルアップボーナスの恩恵である。
「神器閲覧」
今度は俺の神器のステータスを除く。
××××××××××
【希望へと続く一振りの星】
[基本能力]人武一体、切断特化、鋭利化、魔力適性、魔力放出、魔力収束、速度増加、筋力増加、魔力増加、範囲拡大、筋力増加、速度増加、魔力超圧縮、威力増加、治療不可、(その他多数)
[特殊能力]勇者保管
二代目勇者ーヴァザグレイー極光属性魔法
三代目勇者ー不明ー不明
四代目勇者ーバルザードー断罪
五代目勇者ー不明ー不明
六代目勇者ーオルギラスー決闘
七代目勇者ー不明ー不明
八代目勇者ー不明ー不明
九代目勇者ー不明ー不明
××××××××××
勇者の力で解放されていないのは後五つ。これを解放していくのが一番強くなるのには手っ取り早いわけだが、まあ、やたら認めてくれない。一回それぞれの魂の部屋に訪ねたんだが、断られた。九代目に至っては門前払いを喰らったぐらいだ。五代目には殺されかけたし。
「ああ、そうだアクスドラ。聞いておきたいことがあったんだが。」
『なんだ。』
ベルゴ先生に聞いたのだが、この王都内にはまだ『忍耐』がいるらしい。だから注意しろって言ってたんだが、俺の予想が正しければその必要はなくなる。
「お前が忍耐なんじゃないかって思ってるんだが、違うか?」
『……ふむ。何故そう思ったのだ?』
「勘。お前が一番それっぽかった。」
『クハハハハハハ。確かにそうか。我輩は怪しいものな。』
うん。アクスドラは相当怪しい。そもそもアグレイシア教は悪魔が住む魔界と、この世界の境界を緩めていると考えられている。なら悪魔の最上位であるアクスドラが怪しいのは当然のこと。
『しかし、気にすることはない。この忍耐も我輩が魔界から出ずにいたら勝手に手に入った力であるからな。』
「そうか。ならもう一つ質問。」
まあ目に見えていることではある。今、まだ俺が生きていることから予想できることだが一応聞いておこう。
「お前は味方か?」
『当然よ。元より我輩は悪魔の中でもハグレモノ。他の悪魔から忌み嫌われる存在であるが故にな。』
「ま、やっぱりそうか。」
だが悪魔であるからこそ知っていることもあるだろう。
「じゃあアグレイシア教について知ってることは?」
『あまりない。だがやりたい事はなんとなく分かる。』
「ほう。」
『だが奴らがいつからいるか、どこにいるかなど見当もつかぬことだ。』
「ま、そりゃそうか。」
こいつあいつらが悪魔を信仰していたとして、その悪魔の中でもアクスドラは異端。敵扱いと言われた方が納得がいく。
「それじゃあ今日もやるか。」
考察だとかは専門に任せるとしよう。どちらにせよ、俺ができるのは強くなることだけなのだから。
これで五章が終わりです。これで大体半分ぐらいまできたので、少し語らせてください。本編には一切関係ないので読み飛ばしても構いません。
この作品を書く以前、いくつもの作品の構想を作り上げ、そして壊してを繰り返していました。なろうでよくある異世界転生ものを書こうとも考えたのですが、どれもしっくりきませんでした。そして最終的にあまり大衆には受けないだろうけど、とことん普通な努力の天才が、普通に勇者になって、普通に世界を救うという物語を書くと決めました。そしてこの作品において過去に作り出したキャラクターを死なせてしまうのは申し訳ないと思って、無理矢理出しているキャラクターが多数います。特に帰宅部はその最たる例です。彼らは過去に作った物語に登場したキャラクターだったのです。
そんな中で、初期段階の頃から変わらないキャラクターが二人います。エースとシルフェードです。エースという自信過剰で、何でもできるキャラは私の憧れでした。シルフェードが持つ優しさと前に出て戦える力強さは私の理想でした。
そして今、私の理想と欲望を詰め込んだこの作品はあまりにも汚く、淀んでいると思います。しかしそれでも私の理想であり、欲望なのです。なんか馬鹿がいるなと思って見てくれると嬉しいです。




