31.エピローグ4
四人の男女が集まっていた。男女それぞれ二人ずつ。長方形の机を椅子で囲んで座っていた。
一人の男は行儀悪く机に足をかけ、腕を組みふんぞり返っている。顔には大きな切り傷が一つあり、その鋭い目から柄の悪さが伝わってくる。彼はジン・アルカッセルの父にして、剣神最強とも言われる文字通り剣の頂点に立つ男。グラド・ヴィオーガー。
もう一人の男は随分と気怠げに椅子にもたれかかり、その椅子には槍が立てかけられている。体は細く、肌も白い。見るからに不健康そうな男。ベルゴ・ルーフェ。あの馬の頭をした体ではなく、しっかりとした人の体をした奴がここにいる。
ある女は黒いローブを羽織っており、少し埃を被っていることからも古風な魔法使いのように見える。その手にはいくつもの指輪がつけられており、その全てが魔道具だと推測できる。彼女はジン・アルカッセルに魔法を教えた女。ミラ・ウォルリナ。
最後の少女、いや正確に言うなら幼女と言うべきだろうか。小学校中学年ほどの背丈でありながら、あまりにも堂々と椅子に座っている。よくその耳を見ると尖っていることからエルフだということも分かる。何よりただいるだけで放出する魔力の密度からも常人を遥かに越えているということが安易に想像できる。言わずとも分かるだろうが、あえて言おう。世界最強の魔女、グレゼリオン学園学長オーディン・ウァクラートである。
この四人がオーディンの家に集まっていた。
「随分と机が低くねえか?ああ、お前が小さいからか。」
「勝手に自己解決するな。わしだって体を成長させたいと思っとるんじゃ。」
「だけど停止の魔法を解くと反動で体が爆発四散する可能性があるんだろう。成長を止めるのが早過ぎたんじゃないかい?」
「うるさいわい。そんなのもうわかっとるのじゃ。だからあえてつつくな。」
軽く話た後にこれ以上無駄話をさせないようにとオーディンが直ぐに次の言葉を発する。
「わしが何故お主らを呼んだか分かるか?」
「知らんからさっさと話せ。」
「建前とか雰囲気とかいらないだろう?」
「相変わらず煩いなお主ら!わしが一番年長じゃということを忘れておらんか!」
「煩い、眠れん。」
「ベルゴ、お主は寝ようとするな!」
オーディンは耐えきれず頭を抱える。
「さて、結論から言ってくれないかい?あんまり長話は好きじゃないんだ。」
「……ああ、わかったわい。あの時、パーティ解散前の最後の冒険を覚えておるか?」
そうオーディンは問いかける。この四人は昔、パーティを組んで活動していた事があった。その当時冒険者最強の四人だったことから四天王とも呼ばれていた。その最後の冒険。オーディン自身、聞いたものの忘れているはずがないという確信も大いにあった。
「話を続けるぞい。わしらが最後に倒した精霊。それについて最近分かった事があるのじゃ。」
精霊は基本善なる種族である。しかし、知能というものがある以上、悪人が出ないとは限らない。そんな精霊をこの四人は倒した事があった。
「先ず、精霊王の消失。これは手紙で送った通りじゃ。聖剣を破壊しに来たアグレイシア教のやつが精霊王を消したそうじゃが、元よりこれはおかしい点があった。二代目勇者の手記によると精霊王は一人しかおらんかったそうじゃ。これは単純に二代目勇者の勘違いであったという可能性もある。実際三代目勇者より先は複数人の精霊王を確認しておる。」
これは実におかしい事である。二代目から現在の十代目まで。二代目を除く全勇者が精霊王が複数人いたというのに、二代目だけが一人と言い切ったのだ。これは様々な議論が繰り返されるが結論は未だに出ていない。
「じゃが、今回精霊王が消えたとなると話が変わってくる。」
「ああ?そりゃ、つまり、偽りの王だったってことか?」
「その通りじゃ。精霊王は偽物だった。そしてわしの予想じゃと、あの時わしらが倒した精霊が本当の精霊王である可能性が高いのじゃ。」
「確かにあいつは魔力量が尋常じゃなかったね。精霊王に会ったことはないが、それでも上位精霊なんて軽く上回るヤバさだった。」
するとそれまで黙っていたベルゴが口を挟む。
「俺様の怠惰の権利を騙したと?」
「ああそうじゃ。確かに全てを知れる便利な能力ではあるが、相手も伝説技能が使えるのなら、精霊王なら納得できるじゃろ。」
ベルゴの怠惰の権利は検索ツールのようなものである。検索事項を入力し、それについて知れる。しかしその情報を騙す術を持っているやつがいないとも限らないのだ。
「しかし疑問も残る。何故精霊王が闇に堕ち、ダンジョンの最奥にいたのか。誰が偽りの精霊王を作り出したのか。そして、何故アグレイシア教が偽りの精霊王を消失させる事ができたのか。わしの予想じゃとアグレイシア教が偽りの精霊王を作り出し、そして今消し去ったのじゃと思う。」
「・・・三代目勇者の頃から偽りの精霊王がいたんだろ。そんなに昔からそいつらは動いてたってことか。今、現代に至るまで誰にも気付かれずに。」
「そうじゃ。これが一番筋が通る。まああくまでわしの予想じゃ。間違ってる可能性も大いにあるじゃろう。」
そこで一息つき、オーディンは全員の顔を見て言う。
「一つ確かなことは、アグレイシア教は人類を滅ぼそうとしているということじゃ。」
グラドは机を足で叩き割り、オーディンの目を睨むように見る。
「潰しに行くってことだろ?俺たちをここに呼んだってことは。」
「結果論で言うならそうじゃな。」
「ならさっさと行くぞ。久しぶりの冒険と行こうじゃねえか。反論がある奴なんてどうせ一人もいねえだろ。」
四人はそれぞれを信頼し合っている。家族なんかよりも、誰よりも一番信頼し合っているのだ。グラドは直ぐに家を出る。それに続いてオーディン、ベルゴと家を出る。最後に残ったミラが一言ポツリとこぼした。
「……月は半月に欠け、八つの星が集まったとき、深淵と英雄が雌雄を決する。自分で占っといてなんだけど、不思議な占いだねえ。」
ミラは自分の手にあった紙を燃やした。
次回のエピローグ5で、多分五章が終わります。物語の核心へとどんどん迫ってきていますね。




