28.エピローグ1
第五章がもう少しで終わりますが、これでようやっと半分ぐらいです。区切り目なので少し長め。
俺達が目覚めた頃、その頃には事件は殆ど解決していた。十四技能の使い手の討伐もほぼ終了し、国王様達が帰ってきたこともあって建て直しはあまりにも容易だった。
今回、死亡者は一人も出なかったものの負傷者は何人もいる。特に民を守ろうとした冒険者に怪我人が多かった。そのため同盟国であるオルゼイ帝国から協力を要請し、そちらの対処も終了。建物の倒壊はエースが殆ど直したらしい。どうやったかは不明だが。
あとダンジョンの床をぶち抜いたことに関しては、ダンジョンには自己修復機能があり、それが直るまでの一日の間は立ち入りが禁止されたが、問題なくこれからも使える。聖剣の使用も、緊急時ということで許してくれた。
「……」
牢屋の前に俺は立ち、フィーノを見る。流石にこれほどの大犯罪を計画したとなると、相応の刑が処される。下手したら終身刑どころか、国家反逆として死刑にされかねなかった。だがそこはその能力を一生国に奉仕し続けさせるという条件で、勇者である俺と、王子であるエースの協力でなんとかなった。
「どうだ?奴隷の首輪をつけられた気分は。」
「最悪だよ。」
「だろうな。」
奴隷制度は既に禁止されており、世界でも奴隷を所有する人には厳しい処分が下される。だが、特例で奴隷の首輪が使われるケースがある。それが今回。まあつまるところ、刑罰の中に犯罪奴隷化というのが存在するわけだ。奴隷の首輪をつければ主人の命令に逆らえなくなるし、魔力の使用も制限されたりする。こういう風に国に管理される奴隷は何人もいたりする。
「それじゃあ精々、国中駆け回って経験積んでこい。冬季大会来るんだろ?」
「ああ、エース殿下の見張りの上特別に、だが。」
「それなら今度こそ後腐れなく全力でやろうぜ。」
あんな戦いは本意じゃない。俺は全力と全力をぶつけ合う勝負が一番好きなのだ。
「あばよ。また会おうぜ。」
「ああ、また。」
俺はこの場を後にする。すると刑務所の出口に一人の男がいた。いつも通りやけに偉そうで。
「なんでここにいんだよ。」
「なに、刑務所の視察に来ただけだ。」
「嘘つけよ。」
エースの行動パターンは本当に予測できない。とてつもない意味があるのかと思えば、急に意味がなくなったりするし。よく分からん。
「ああ、そうだ聞きたいことがあるんだが。」
「貴様如きが我に質問するのか、と言いたいところだがまあ良い。質問を聞こう。」
黙って話を聞けないんだろうかこいつは。まあその程度を気にしてたらこいつと会話なんて成立しない。
「なんでフィーノを助けたんだ?」
「……ふむ。確かにあいつは取るに足りん雑魚ではあるが、まあ、我の小間使いとしては丁度いい。前から命令を黙って聞く部下が欲しいと思っていた頃だ。」
「はは!あいつがエースの部下か!」
それも面白そうだ。まあ思ったより刑罰が重くなくて上々といったところで。
「さて、それでは我はフィーノとやらの様子を見てこよう。ああそれと、貴様に来客が来ている。王城の方にいるから寄っておけ。」
「来客って誰だよ。覚えがねえぞ。」
「それは見て確認すれば良い。我がそこまで手を焼く必要はない。」
「はいはい分かりましたよ。」
来客、ねえ。父さんはなんか用事があるって言ってフラっといなくなったし、シルフェもアクトも用があるらしいから俺自身そんな大した用はない。折角だから行ってみるか。
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王城では今回限定的に開城されており、怪我人の受け入れがされている。教会も治療を行なっているのだが、それだけじゃ足りないぐらいの怪我人がいるのだからしょうがない。そして王城で治療を行なっているのがオルゼイ帝国の第二騎士団。今回特別に派遣してもらったわけだ。
「怪我人のために解放されてるからか、簡単に入れたな。」
俺に用があるのは誰だろうか。見れば分かるって言ったから、あっちは俺を知ってるってことだと思うが。
「おや、ジンさん?」
「ん、シルフェか。」
シルフェは支援属性を持つ優秀な回復魔法の使い手だ。用とはここへの手伝いのことだったのか。
「どうしてここにいるのですか?」
「俺はエースが来客がいるって言ったから来たんだが。」
「来客、ですか。第二騎士団の誰かですかね。誰ですか?」
「いや聞かせてくれなかったんだよ。」
「それは、また……ふむ。もしかしたら彼女かもしれません。案内しましょうか?」
「あ、いいのか?忙しいんだろ。」
「いえ、もう重患患者の治療は終わっているので。後は第二騎士団と方がやってくれますよ。」
「そうか。なら、頼もう。」
シルフェは振り向き進んでいく。俺もそれについていく。王族関連の人なら騎士を使って呼び出せばいい。恐らくはオルゼイ帝国の人間だろうが、俺にオルゼイ帝国の知り合いはシンヤしかいない。まさか今回わざわざ来るとも思えないしなあ。
「あら、どうしたのシル。もう今日は帰るって言ってたのに。」
「いえ、恐らくあなたがこの人に用があるのではないかと思いまして。」
そう言いながらシルフェが俺を突き出す。話しかけてきた女性は白い救護服のようなものを着ていた。左胸にはオルゼイ帝国の国旗があり、その立ち振る舞い、容姿からも、服装とは見合わず、高貴な出であると予想ができる。
「あら、あなたがジン・アルカッセル?」
そう言ってその女性が俺の手を取り、胸辺りの位置にあげる。
「そうだが。」
「ずっと会いたかったのよ。シルの友人って聞いてたし、例の精霊界のことからずっと前から興味があったの。」
この人、俺が勇者だということを知っているのか。だがそれは秘匿されている情報のはずなのだが。俺の手を放し、右手を握って胸元に添える。
「私の名前はティナラート・オルゼイ。七大騎士の一人、第二騎士団団長にしてオルゼイ帝国の皇女でもあるわ。」
この人が七大騎士?あのシンヤと同じ。
「色々と話したいことがあるのだけれど、生憎仕事がたくさんあるから手紙だけ渡しておくわ。オルゼイ帝国の第七騎士団団長からの手紙よ。」
そう言って懐から手紙を差し出す。俺は少し手紙と彼女の顔を見た後に、その手紙を受け取る。
「第七騎士団団長というとシンヤ・カンザキでいいのか?」
「ええ。七大騎士筆頭のシンヤ・カンザキで間違いないわ。それじゃあ私は仕事があるから。また会いましょう。」
そう言って皇女様は去っていった。さて、この手紙はなんだろうか。
エピローグは三つか四つぐらいあります。




