27.あなたと共に
ミゴが発動した『復讐者の怨炎』は己の肉体すらも炎と変え、憤怒之罪いう伝説技能と並列させることにより大きな効果を得るもの。つまり炎そのものとなったミゴは、この炎全てを消し飛ばさなくては決着がつけられない。
「『永遠と続く絆』」
夢想技能は当然強い。しかしシルフェードも使えるのなら話は別だ。
「抜かるんじゃねえぞシルフェ!」
「そちらこそ!」
同時に地面を蹴り、大地を駆ける。その二人の体には蒼き光が薄く纏われており、その道筋に蒼き光が走っている。ミゴは気付かない。怒りに身を呑まれ、そもそも人間ですらなくなってしまったが故に。ミゴは気付かない。さっきよりも何倍も速くなっているその二人に。
「私の夢想技能は、仲間との絆の分だけ力を増します。」
先程まではシルフェードを恐怖させていた炎も、今は怖くない。新しい力があるというのも当然だが、彼女の隣に彼がいるからだ。
「つまり、私の力は決して一人では強くなれない。」
シルフェードの夢想技能の欠点を挙げるなら一人ならその効果は一切発動しない点。仲間の数とその想いの分だけ力を増すのだから当然と言えば当然だろう。
「しかし、その分仲間がいれば力は何百倍にも何千倍にも膨れ上がる!」
彼女の夢想技能は、彼女の想いは個としての強さを欲さなかった。だからこそ共に戦うことによる強さを求めた。守るべき人がいるからこそ強くなる力を求めた。
「シルフェ!デカイの一発打ち込むぞ!」
「ええ!」
再び青竜が現れる。先程よりもより神々しく、蒼く煌めいている。それはまるで神竜のような。
「無銘流奥義ッ!」
「神の息吹よっ!」
二人はまるで示し合わせたように技を選択する。あの時、ぶつけ合った時と同じ技を、今度は一緒に。
「七の型『神鬼乱血』」
「『神たる蒼き竜が息吹』」
最初に形となったのは後者。シルフェードの技。以前とは違い、青竜の口からではなく、身体中から蒼き光が走り、光線となって放たれる。無数の一撃がありとあらゆる場所に当たり、その炎を『浄化』させる。
そして遅れて形になったのはジンの技。蒼き光線とは対照的な紅い刃。振るうと同時に地面から紅き刃がまるで爪のように現れ出る。そして炎すらも飲み込み、鮮血のような薄黒い紅が火柱のようにいくつも立つ。
「……おつかれ。」
「そちらこそ。」
その言葉と同時に二人はまるで糸が切れるようにして崩れ落ちた。
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二人が力尽きた場所。それはダンジョンである。王都バースの真下に存在する学園に使われているダンジョン。ミゴがそこに二人を引きずり込んだのだ。そしてそこには勿論魔物が存在する。
「アガっ!うぐぅ。」
何よりまだミゴは生きていた。殆ど炎は消滅したが、ほんの少し、ほんの少しだけ炎が残っていた。そこから再生を果たしたのだ。
「フハ、フハハハハハ!!!!」
しかし二人が目覚めることはない。体力も魔力も殆ど空。そんな状態じゃあ何もできるはずがない。ミゴは少なくともそう確信した。だが、しかし、やはりどこまでいってもミゴ・アルスフレインという男は愚かだった。
何故、床を一つ残らずぶち抜いてジンが降りてきたのか。
アクトに居場所を聞いたのにも関わらず、アクトがいないのは何故か。
まだダンジョンの中だというのを少なくともジンは知っていたはずなのに、どうして使ったら動けなくなる技を使ったのか。
その他にもあるが、些細な違和感を気に留めるどころか気付きもしなかった。そして直ぐに二人を殺さなかった慢心。それが命運を分けた。
「よお。」
その直通で空いた縦穴を一人の男が降りてきた。その手に握るのは人一人ぐらいの大きさの大剣。そして射殺すような鋭い目。ジンにまるでヤクザのようと評された顔。
「ガキが。随分と楽しそうだな。」
それこそが『剣神』。しかしそれは彼の与えられた称号に過ぎない。過去に遡るなら人々、特に冒険者は彼をこう呼ぶ。『竜殺しの剣鬼』『修羅の化身』『四天王の赤』『最高到達地点』。様々な呼び名があれど、一つだけ全てにおいて共通していることがある。それが彼の武勇を称えたものであること。
「俺の息子を、随分と可愛がってくれたじゃねえか。」
ジン・アルカッセルの一つ前の世代。そこには大きな出来事がなかったが故に歴史に埋もれたが、有り得ないほどの強者を輩出した世代。『無冠の英雄』と呼ばれた、今の世代を作る礎となった者達。
「礼は、しなくっちゃあなあ!」
その代表の一人。後に『英雄王』と呼ばれることになったジン・アルカッセルの父。『剣鬼』グラド・ヴィオーガー。
「邪魔だ!退け!」
ミゴは何も考えずに炎を放つ。しかし、その瞬間、ミゴは自分の体を反対向きに見ることになる。
「こっちの台詞だ。」
ズルリ、という風にミゴは首を斬られた。あまりにも速く、力強い一撃。シンプルが故に最強、最速。数少ないレベル10の一人。それこそがグラド・ヴィオーガーなのだから。
「かぁー!」
グラドは自分の額に手の付け根部分をあて、大きく溜息を吐く。
「久しぶりの再会がこんなんになっちまうとはな。」
そんな事を言いながらグラドはジンとシルフェードを抱え込んだ。
グラドさん久しぶりの登場。主人公の父親のくせしてあんま出せないんだよなあ。




