26.守りたいなら
炎が吹き荒れ、今まさに私を襲う瞬間。大地が揺れた。
「なんだ、これは。貴様が何かしたのか!」
大地を揺らす魔法。確かにそれは存在する。しかしそれは土属性だから私には使えない。私に使えるのは木属性と光属性のみ。この揺れは一体。
「らあっ!」
声が響く。それと同時に頭上の天井が崩れる。その中に一人の男が見えた。幼い頃からずっと一緒にいたのだ。見間違えるはずがない。
「ジン、さん。」
「よし!まだ生きてんな!」
その黒い刀を振り、ミゴへと向ける。その向かい来る炎を何の躊躇いもなく切っていく。
「ジン・アルカッセルぅ!貴様ァ!」
「おいおいまだ生きてたのかテメエ。しぶといにも程があるぜ。」
「ジンさん!気をつけてそいつは!」
私が言い切るより速く、炎がジンさんへと放たれる。
「斬れろ。」
しかし呆気なくその炎を切り裂く。
「俺の『絶剣』に、斬れないものはない。」
その背中を見た。あまりにも頼りになる背中。全てを委ねたくなる背中。
「おのれぇ!」
「全部まとめて斬り裂いてやるよ!」
私が、いや、全世界の子供達が夢見た姿そのもの。どんな危機的な状況でも乗り越えて、人を救ってくれる。正にジンさんは私の英雄そのものだった。どんな時でも、私の力になってくれた。私と一緒に戦ってくれた。永遠の友であり、私の憧れ。
「うぐっ!」
ジンさんが転びそうになる。しかししっかりと地面を踏み込み、眼前の敵を斬る。身体中が傷ついている。本来なら立つことさえも困難であるはずなのに。私を守るためにそこに立ってくれている。
悔しい。私がジンさんの力になれない事が。悔しい。私に勇気がない事が。悔しい。彼の隣に立てない事が。
『優しき者よ。』
頭にに声が響く。安心するようで力強い声が。
『君は全く嬉しいなんて思っちゃいない。助けられているのに、もう戦わなくてもいいのに。』
嬉しいはずがない。自分が倒すべき敵を、ジンさんに押し付けて、彼を更に傷つけることになるのに。
『ミゴは所詮死人だ。その目覚めた『夢想技能』も大したものじゃあない。恐らくジンだけでも倒せるだろう。』
確かにそうだ。復讐者の怨炎は確かにオリジナルであろう。しかしその割には弱過ぎる。ジンさんでも倒せるはずだ。
『だけど、嫌なんだろう?』
ああ、嫌だ。初めて出会った頃から、ずっと切磋琢磨してきた友人に置いていかれたくない。何より、もう並べないのが嫌だ。
『なら、その悔しさを夢に変えろ。悔しいから、結局君は何になりたい?』
何に、なりたい?
『ああそうだ。自分が許せないなら、許せる自分をイメージしろ。何になりたい。強い自分か?敵を倒せる自分か?それとも完璧な自分か?』
違う。そんなものになりたいんじゃない。私は―――――
「私は、人を守れる自分になりたい。」
誰も傷つかせない。確かにジンさん一人でもミゴは倒せるだろう。しかしかなりの傷を負うはずだ。それじゃあ、意味がない。
『見えたなら。』
私は立ち上がる。
『自分の夢が見えたなら。』
前を見る。
『後はもう、』
地面を蹴った。
『簡単だろ?』
「はああああああああああ!!!!!」
蒼き光が走る。心臓の辺りに手を押さえつけ、そこから光が溢れ出る。
「シルフェ!」
まるで待っていたと言わんばかりの顔でジンさんは一度ミゴから距離を取る。ああ、やっぱりジンさんには敵わない。
「友がいるのなら!」
これこそが私の夢想。
「守りたい友がいるなら!」
私だけの、夢想。
「私に、一度でいいから守らせてくれ!」
その名は、
「『永遠と続く絆』」
私は、彼と戦える。
シルフェード・フォン・ファルクラムというキャラクターは、最初は青竜の力も持たず、剣も持っていない回復、支援特化キャラクターの予定でした。しかしジン・アルカッセルというキャラクターを支えられる人間というのは、後ろから見守る存在ではなく、共に横に立って戦えるキャラクターだと考え始め、現在に至ります。まあその代わりヒロイン的なイベントの殆どが消し飛んだんですけど。




