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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第5章〜大罪と美徳と未知〜
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24.憤怒

黒焦げになり、荒れ果てた闘技場の真ん中に一人の男が立っている。その髪は黒く、目も真っ黒。その手に持つ日本刀をもう一人の仰向けに寝転ぶ男へ突き付けている。



「……ありがとう。」

「被虐体質かテメエ。」

「違う。俺はお前のお陰で大切な事に気付けた気がするんだよ。」

「それはテメエが勝手に気付いただけだ。それに、どれだけ取り繕ったところでお前が最悪の犯罪者だってのには変わりないぜ?」



こいつは間違いなく、道を踏み間違えた。それも有り得ないほど。その罪は償わなければならない。まあ、勿体ない気もするが。



「まあ、減刑ぐらいなら願っといてやるよ。またお前とは勝負したいからな。冬季にまた、武闘祭があるだろ?」

「……ああ。それまでに出所できるといいな。」



また生々しい。俺の手から聖剣が消え失せ、なくなる。



「俺を捕まえないのか?」

「ばーか。自分で騎士団に行きな。それで自首しろ。自分でやった事全部報告するんだよ。それぐらいできんだろ?」

「まあ、そうか。」



俺は再び闘技場内を探知魔法で探す。やはりいない、か。



「おいフィーノ。シルフェがどこにいるか知ってるか?」

「ファルクラムか?そういや、いつの間にかいないが。」

「やっぱりお前のせいじゃないか。」



なら、誰だ。まだ他の十四技能所持者がいるって事か?兎も角、アクトのところに行かねえと。下手に探すよりあいつの目で見てもらった方が早い。



「ぁ。」



俺はそこで少し倒れそうになるが、踏ん張る。回復魔法を自分にかけながら進む。ダメージは半端ないぐらいある。しかし止まれない。一秒でも遅れて、後悔するなんてことは絶対にしたくない。だから、一瞬も無駄にしない。



俺はスキル(無限加速)を使用して、地面を蹴った。






==========






真っ暗闇の中。松明がいくつか壁につけているだけであり、明るさも乏しい。現在地もよく分からない。どこだろうか、ここは。



「さっきまで、確か闘技場にいたはずなんですが……」



私は体を起こしながらそう言う。



「『幻影青竜(ファントム)』」



そして即座に青竜を出現させる。状況が分からない今は、取り敢えず対抗手段を用意しておくのが最重要となる。その中、音が響く。誰かの足音。それがコツン、コツンと響いてどんどん大きくなっていく。



「随分と怖がってるじゃないか。」



声が響く。男の声。それもかなり前に聞いたことのある。しかし、もう死んだはずの人間の声。



「……何故、貴方がここに?」

「久しぶりだな。ジルフェードォ!」



よく知っている。ミゴ・ティスメイン。ティスメイン家の次男坊。入学直後邪宗教と結託し、その身に悪魔を宿らせた男。確かにあの時ジンさんが殺したはず。死体も確認して埋葬も既に終えている。



「アグレイシア教が、この私を蘇らせたのだ。そして、私はお前と、ジンを殺すためにここに来た。この肉体は長くはもたない。恐らく一週間もあれば良い方だろう。だが、貴様らを殺すには充分だ。」

「随分と舐めてますね。あれから、私達も何倍も強くなったんですよ?」

「それはこちらの台詞だ。」



口では強いことを言っているが、かなり危機的な状況だ。ミゴは決して馬鹿ではない。自分より劣っていると思っている相手にも不正を使うぐらいには、かなり慎重な男だ。それにしてもアグレイシア教。聖剣の時にも聞いたが一体どれほどまでの力を持っている。



「青竜。」



油断はせずに殺す気でやる。私の手の動きと同時に青竜が飛び出す。その青竜がミゴの体を貫く寸前、ミゴの右手が青竜へと振り下ろされた。あまりにも呆気なく、容易く、青竜が地面に叩き落とされたのだ。



「ああ、ああ!恨めしいぞ!苛立たしいぞ!こうして相対した時に、いつもの何倍もの憎悪がお前へ立ち昇る!」

「ッ!『万物変化(メタモルフォーゼ)』」



私は倒れた青竜を氷に変化させ、大きな壁とする。しかし直感する。これは時間稼ぎにもならないと。容易に砕かれてしまうと。



「燃えろ!」



ミゴが氷の壁を殴ると同時に、そこが大きく弾け飛ぶ。まるで爆発したように。黒煙が周囲に立ち込み、視界が悪くなる。その中からその目を憎悪に染め、ミゴが現れた。



「ああ、燃やせ、壊せ、滅ぼせ。『憤怒之罪(サタン)』よ、その憤怒を以て、全てを焼き尽くすがいい!」



火が走る。恐らくこれはただの火じゃない。憤怒の怒りを火という形にしたもの。



「『聖域(サンクチュアリ)』」



絶対防御魔法。それこそが聖域サンクチュアリ。有効範囲が狭いことと、魔力消費が大きいことを除けば文字通り最強の結界。外と中を完全に遮断する魔法。



「燃やせ!」



しかしその魔力ごと火は結界を燃やす。そして爆発する。これは火属性魔法とはわけが違う。スキル的な炎。原理やルールが通用しない炎だ。



「ならば……『神聖領域グランドサンクチュアリ』」



だが、私のスキル。慈悲パシエンティアなら、それも防げる。慈悲は救済の力。守り、癒す力。私の回りを再び結界が包み、今度こそ火を妨げる。



「燃えろォ!燃えろォ!」



しかしそれすらも関係ないと言わんばかりに辺りに炎が生み出される。



「なんとかしなければ……」



逃走は不可能。あの炎が有る限りは少なくとも。だからといって戦闘で勝つにも、一筋縄ではいかない。何か対応策を考えなければ、死ぬ。

コロナウイルス気をつけてね!

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