23.太陽と雷
幻視する。フィーノにもう一人の影がかかる姿を。巨漢の、大剣を手に持つ男の姿を。それは確かに、そこに見えた。雷が舞い、フィーノの体を包む。
「『無限加速』ッ!」
「『幻速』」
俺は地面を即座に蹴り、加速する。それに対してあいつは、一瞬、瞬きをするような時間で俺の目前からかき消え、そして再び俺の目の前へ現れた。
「『幻撃』」
その右手から放たれた拳が、確実に俺を貫く。フィーノの体では有り得ない程の力。更に無数の拳で同時に殴られたような感覚。
「ッ!」
そのまま闘技場の壁へと叩きつけられる。これが、夢想技能。勝てるビジョンが全く浮かばない。俺の目で捉えられない移動方法、更に強力無慈悲な攻撃。単純過ぎて隙がない。更にきっとまだ何かを残しているはず。
「無銘流奥義四ノ型」
『筋力増加』『速度増加』『魔力増加』『威力増加』『魔力放出』『魔力超圧縮』主流付与『浸食』
「『竜牙』」
飛ぶ斬撃が超スピードで放たれる。周囲にあるもの全てを削り取りながら、全てを切り裂かんと進み続ける。
「『幻壁』」
しかしそれは当たる前に容易に霧散する。あまりにも呆気なく、容易く。そしてまた、一瞬で目の前にフィーノが現れる。いくら速く動けても意味がない。その度にこいつは目の前に現れる。
「うがっ!」
今度は顔にその拳がぶつかる。吹き飛び、まるで石投げのように地面を跳ねながら再び闘技場の壁へぶつかる。
「は。」
勝てない、と確信しかねない程の力量差。しかし俺は絶対に諦めない。それどころかワクワクしてきた。俺は顔に笑みを浮かべる。
「そうこなくっちゃなあ!」
ここは丁度良く闘技場だ。勇者の中には闘技場にまつわる男が一人いる。アクトが夢想技能を得て、黙っているほど俺は優しくない。もちろん、新しい力を手に入れている。
『戦え!』
「言われずとも!」
俺は地面を駆ける。ああ、楽しい。相手が強ければ強いほど、自分が強くなっているという確信を得られる。そしてそいつを乗り越えた時に、俺は更に英雄へと近付ける。
『一対一である事ッ!』
「『決闘之英雄』」
六代目勇者にして、この世界で最も有名な剣闘士の名。フィーノと俺、一対一で発動できる力。
「『決闘の流儀』」
そして、盤面を塗り替える。
「夢想技能には夢想技能でしか太刀打ちできない!」
それは間違いない。絶対不変のルール。それ程までに強大な力。
「ま、まさかッ!」
フィーノが気付く。しかしもう遅い。
「なら、使えなくしてやればいいッ!」
これなら、問題なんかありゃしない。
「よく聞けっ!第一ルールは、『公平の流儀』。俺が夢想技能を使えねえんだからお前も使えねえんだよ!」
絶対公平。それが一つ目のルール。闘技場のありとあらゆる絶対的な差を取っ払い、ありとあらゆる人類が、その力だけを競えるようにするためのルール。
「だが、それなら俺は一つしか伝説技能を持っていない!お前も一つしか使えなくなるはずだ!」
「ああ、だからこそ提示しよう!俺が使えるのは無限加速だけだ!」
もちろん。相手が不利な条件があるなら、こちらの力を削がれる。英雄剣術は使えなくなるが、その差は微々たるもの。剣神レベルの剣術が使えれば十分。
「ッ!だかッ!俺も負けるわけにはいかない!」
俺が進む方向を曲げられる。否、これは地面が歪んでいる。嫉妬之罪で俺の力も奪われてきている。早々に決着をつけなきゃな。
「見えなくても、いなくなったわけじゃねえだろ!」
「捉えられなきゃ一緒よ!」
無銘流奥義六ノ型――
「『絶剣』ンッ!」
「『法則曲解』」
フィーノの体を斬り、鮮血が舞うのと同時に全ての感覚が狂う。
「これでどうだっ!」
全ての感覚が狂う。平衡感覚も、左右感覚も、何もかも。立ってもいられないほどの感覚。
「くたばれっ!『天雷』」
この世界のどこかには、毎日のように落雷が降る大陸が存在するらしい。その大陸から百を越える落雷を無理矢理引っ張ってきたら。魔力は相当喰うが、それは有り得ない程の一撃になる。
閃光に染まる。あの時の感覚と酷似している。エースの、雷霆のような。俺の視界は再びあの時のように白く染まった。
だが、
決して、あの時と同じではない。
「『極光之英雄』」
それが、悪しき行いでない事。極光属性が最強の全天二十一魔法。
「神の炎星、総てを燃やし尽くす最強の業火、焦がせ、燃やせ、溶かせ、暴虐の化身にして、太陽の写し身、全天が究極の炎を欲している!」
それはまるで太陽。赤く、ただただ赤く。燃え続ける炎の球体。存在するだけで全てを滅ぼさんとする強大な炎。そして、俺は聖剣を振り下ろす。
「『太陽星』」
雷は確かに喰らおう。しかし、タダではもらわん。相打ちだ。防ぐ手段なんてないのだから。
そうして、その時。太陽と束ねられたら数百の雷が、闘技場へと振り下ろされた。
この作品を作るにあたって、ジン以外の主人公ポジションを初期プロットから作成していました。フィーノもその一人です。彼は一度罪人として沈みますが、その生き様は正に主人公というものになるでしょう。つまりまだフィーノは出てきます。




