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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第5章〜大罪と美徳と未知〜
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22.英雄願望

倒れ込むフィーノの腕を抑え、一応関節技を決めておく。聖剣は既に手から離すことにより光となって、俺の体の中にある。取り敢えず意識を刈り取る為に木属性魔法で首を締め付けようと木の鞭を首へと振るわせる。



「ッ!」

「大人しくしろよ。」



俺はシルフェに手伝ってもらおうと辺りを見渡してシルフェを探す。しかし、いない。



「あ?」



先ず最初は自分の見間違いを疑った。サッと見たから見逃してしまったという事や、背後にいるかもしれないという可能性。だから魔力を放出し、感知魔法を即座に使った。しかしいない。少なくとも闘技場内には。



「どういう――

「がッ!」



一瞬の気の緩みを突かれ、俺は下にいるフィーノに蹴飛ばされる。威力は高くないが俺をのけぞらせるには十分。抑えていた手を離してしまった。



「ゲホッ!ガハッ!」

「……取り敢えずお前から対処しねえの駄目か。」



シルフェは気になる。しかしどちらにせよ、こいつを気絶させなければいつ後ろから刺されるか分かったもんじゃない。探すのはその後だ。それにシルフェは俺に勝利した数少ない人間の一人だ。特に持久戦という分野においてあいつより優れた奴を俺は知らない。きっと無事であることを信じるしかないだろう。



「なんで……」

「あ?」

「なんで、勝てないんだよっ!」



苦しそうにしながらもこちらをしっかりと睨む。まるでこの世の不条理を見るような目で。



「こんな、嫉妬之罪レヴィアタンっていう強いスキルも手に入れて!俺の力の全力を尽くして!何で勝てないんだよ!」



こいつはどこか俺に似ている。才能がない故に他者を妬んだ俺と。しかし俺とこいつでは決定的な違いも同時にある。それは絶対に超えられない、大き過ぎる壁だ。



「俺はこんなに、冒険王になる為に頑張ったのに……」



きっと、フィーノ自身も頑張りはしたのだろう。自分自身に問いかけ、創意工夫を重ね、自分のできうる最大限をこなしてきたのだ。だが、しかし、まだ足りない。



「そんな軽い夢で、」



そんな半端な覚悟の夢で、本当に英雄になれるわけがない。



「俺の夢に勝てるわけねえだろうが。」



何より、俺の夢はその万倍大きい。『冒険王』という英雄を目指すフィーノと、英雄を目指す俺。夢は同じでも大きさは段違いだ。それが大き過ぎる差。



「俺は自分の意思で、英雄に憧れたんだよ。格好いい自分になる為にここまで這い上がって来たんだ。他人に指図された夢しか見れないお前とは違う。」



他人の期待を気にしている時点で、それはもう軽い夢だ。



「焦がれる程の、その夢で自分自身を潰すほど夢中になる夢を見ろ。決して気軽に辞められるつまんねえ夢なんか見るんじゃねえ。」

「ッ!」



俺は少なくとも、一つ人生を使い潰せるぐらいの夢を見た。その夢は一時期忘れてはいたが、今はもう絶対に忘れない。



「だから、お前は俺に勝てない。」



絶対に。シルフェにも、アクトにも、父さんにも、エースにも、シンヤにも。強者には何か、その人の全てを決定付けるような夢が絶対にある。それに例外はありはしない。



「ぁ…っ……」



何か言葉が出るようで出ない。そんな感じの表情を浮かべ、最後には歯を食い締める。



「黙って寝てな。少なくとも、今のお前に興味はない。」



そう言って地面を蹴る。無限加速アルガ・アクセラレート。それは無限に加速し続ける力。止まることなく、一歩、二歩、三歩と、次々に速度を増す。そしてそれは容易に音速をも超える。そこまでいけばもう知覚できない。分からないんだったら魔法も通用しない。それは魔法としての基本原則だ。



「違うッ!」



その瞬間、大気が歪んだ。重力も光も、何もかも全ての方向が変わった。無作為に変更させられた。



「『絶剣』」



しかし何が見えなくても刃は振るえる。躊躇いなく、その魔法を切り裂く。



「俺は、俺自身の意思で!爺ちゃんに憧れたんだ!誰かに期待されたからじゃなくて、自分の意思で!」



攻撃の密度が高い。残り魔力を一切考えない計画なしの魔力運用。確かにこの一時なら俺の攻撃は凌げるが、途中で魔力が尽きて負ける。



「俺の英雄への夢は!誰にも否定させない!誰にも否定できない!」



――不味い。



「俺は誰よりも自由で、誰よりも優しくて、誰よりも強かった!あの『冒険王』に憧れたんだっ!まだ諦め切れないほどに!強く、深く、鋭く!」



なんだよ。



「しっかり夢を見れてんじゃねえか。」



この時の感覚は似ている。あのアクトが夢想技能オリジナルに目覚めた時と。強力な思いの発露、そして強靭な闘争心。何よりあの決意に満ちた目。理由はないが直感する。



「『遥か遠き英雄へ至る為ザ・グレイテスト・ヒーロー』」



あいつは夢想技能オリジナルに目覚めたのだと。

ちょっと補足説明なのですが、ジンもフィーノも英雄願望はありますが、それは同じではありません。フィーノは『冒険王』であるお爺ちゃんに憧れましたが、ジンは英雄になった自分に憧れたんたんです。フィーノはお爺ちゃんみたいな英雄になりたいのに対し、ジンは自分らしい英雄になりたいわけですね。

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