21.新しい聖剣
俺は黙って木刀をを右手に持ち、フィーノへ向ける。
「……なるほど。確かに聞いたことがある。あの冒険王には一人、それも天才な孫がいたってな。」
しかし、あの冒険王の孫がこんなんだとは。さぞ苦労したことであろう。
「さぞ悲しんでるだろうよ。たった一人の孫がただの私怨で国家を敵に回したんだってな。」
「……お前には分からねえよ。俺の気持ちは。」
ああそうだ。努力の天才だったこの俺にとって、努力ができないやつの気持ちは永遠に分からない。苦しいからやめるだとか、やりたくないからやめるなんて考えたこともなかった。
「お前は間違っている。」
「そんなん知ってる。」
空気の流れが変わる。見えこそしないが何かが俺に迫っているのがわかる。ここでこの空気を斬ってしまうのは簡単だ。しかしそれは根本的な解決には至らない。だからこそ斬るのはそこじゃない。
「『絶剣』」
それが魔力的干渉であるなら、こっちに来る前に斬ってしまえばいい。フィーノと魔法との繋がりを。
「うぐっ!」
魔法との繋がりを絶ったのだ。言いようのない不快感に襲われたことだろう。そしてそれは確実に相手に隙を作る。
「ァ」
大きく肩から腰にかけて斬る。殺すつもりはない。というかミゴのが緊急事態だっただけで、できれば犯罪者は捕縛して騎士団に突き出すに限る。シルフェがいるから疑われることもないし。
「ふ、ふふふ。」
「……悪いが拘束させてもらうぞ。」
俺はフィーノの頭を叩き、そのまま意識を落とさせようとした瞬間。
「ジンさん!」
体から急速に力が抜けた。これ、は。
「嫉妬之罪。その能力は相手の力を失わせる。」
「随分と、厄介じゃねえか。」
勤勉じゃ間に合わない。神位技能では伝説技能に並ぶのは不可能。なら、それ以外の力を使うまで。
「顕現せよ……」
木刀を飲み込むが如く、光が収束する。その形は日本刀の形へと変化し、木刀に置き換わるようにして鞘に入った一振りの刀へと変わった。
「『希望へと続く一振りの星』」
それこそが形を変えた聖剣。稀代の天才である鍛治王クラウスター・グリルが最高傑作。
「なんだ、それは。」
「さあ、なんだろうな?」
鞘を滑らすようにして刀を引き抜く。その刀身は真っ黒に染まっている。おおよそ聖剣とは思えない色。しかし力を感じる。聖剣が、自分が何をできるかを全て伝えてくれる。
「『超過起動』」
新しいこの聖剣に与えられた権能は、至って普通のもの。付与自体ならそこら辺の魔剣にありふれたものばかり。それが数千を超えるほどの量で付与されている事を除けば。
「『切断特化』『鋭利化』『魔力適性』『魔力放出』『魔力収束』『速度増加』『筋力増加』『魔力増加』『範囲拡大』」
聖剣に文字列が走る。普通の武器なら、できても数百の付与が限界。それを、見えない場所へ付与する力を持つ『無の加工』だけが成し得る。故に数千規模での付与を使用可能。
「主流付与『刹那』」
付与の種類は二つ。主流付与と副次付与。特に主流付与に至っては、この世に数が限られる程の強さ。そしてそれが五つ。
「無銘流奥義ニノ型『天幻』」
戦源によっていくつにも増えた飛ぶ斬撃が、音をも置き去りにして放たれる。
『勤勉の能力制限が解除されました。伝説技能勤勉之徳への進化を実行します。』
そしてこれで、能力の差も、なくなる。
「『乱反射』ッ!」
俺の飛ぶ斬撃は一つ残らず四方八方に弾かれ、フィーノには当たらない。しかし、それでいい。
『副次的に加速の進化を実行。伝説技能無限加速へ進化しました。』
「お前が、防いでくれると信じていた。」
「ッ!?」
既に俺は背後に立っている。
――『筋力増加』『速度増加』『魔力超圧縮』『威力増加』『治療不可』主流付与『無法』
「無銘流奥義一ノ型『豪覇』」
今度こそ、仕留める。俺は悠然と、それでいて強固な一撃をいとも、容易く振り下ろした。鮮血が舞う。
「お前の負けだ。」
フィーノは糸が切れたようにその場に倒れた。
ここから盛り上がる気がする




