12.それからまた数ヶ月
「さて、今日はこれで終わりにしようか。」
師匠はそう言って上の階に戻っていった。今日もそんな感じで1日が終わる。父さんは自分のやりたいところまで、つまりかなり自分本意なやり方で俺を教えていた。しかし師匠は違う。俺の限界ギリギリを適切に見極めて、今後に影響が出ない範囲で綺麗に切っている。
「もう何ヶ月たったけか?」
こっちに来てから既にもう何ヶ月もたった。魔力量もかなり増え、第4階位魔法も使えるようになってきたし、順調と言えよう。俺は立ち上がり、自分の部屋へ向かう。魔法言語の習得は、まあそこそこと言ったところだろうか。魔法の鍛錬はもちろん、剣や闘気の訓練を怠るわけにもいかない。そのためにある程度は時間をとってくれるが、どうしても足りないと思ってしまう。
「時間が無限になったりしねえかな。」
時間がたくさんあったら全部一つずつ延々と続けられる。死という終わりまで走り続ける必要はなく、自分の思うだけ修行ができる。だが、まあしかし。限られた時間を生きるのが人間の醍醐味でもあるのだろう。それに、時間制限があるから頑張れるわけだろうし
「さて、久しぶりに確認してみますか。」
俺は一つの石板に手を当てる。無理矢理削り取ったような長方形型の石。これは叡智の石板という。10000ルドもする馬鹿高いものだ。しかしその分、とてつもない効果を持っている。俺の体の中から何かが抜けるような感覚と同時に目の前に半透明な板が現れる。
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【ジン・アルカッセルLv1】
[スキル]剣術、水属性魔法、闘術、完全耐性
[闘気]9
[魔力]10
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叡智の石板の効果は持ち主の能力を出す。この石板は最初に使った人物の魔力を記憶し、そのもののみのステータスを映し出す。これを売っている教会にとって大きな収入の一つなのだ。闘術は戦闘の術ではなく、闘気の術のことを指す。完全耐性は、まあ、無理矢理毒物を食わされたりして勝手に身についた。今なら生半可な毒は効かない。
闘気と魔力の欄は下から1から10まである。練度ではなく、量なので気にしないように。これを見るとまあ、かなり高めに見えるだろう。しかしこれはレベル1の段階での評価。レベル2はデフォルトでこれを簡単に超えてくる。それぐらいレベルというのは大きいものなのだ。
「よし!魔力が10まで上がった!」
最高ランクに到達したわけだから、やっと一区切り着いたわけだ。しかしこれはあくまで基準。限界はまだまだ先にある。これからもこの腕輪は外せないのだろう。
「取り敢えず晩飯食いに行きがてら、報告しに行くか。」
俺は部屋を出て、リビングに移動する。そこでは既にディックが料理を作っている。相変わらず異物感が凄い。
「師匠。魔力が10になった。」
「おや、随分と遅かったじゃないか。」
「遅い。」
これで、遅い。毎日あんなに修行して、遅い。
「あれは目安だからね。貴族の子供とかだと、もっと幼い頃にそれぐらいになってる奴が多いよ。」
「マジで?」
貴族はマジキチ集団だったんだね。近付かないようにしておこう。
「じゃあどれぐらいになれば十分なんだ。」
「そりゃ、第10階位魔法を一つ習得するぐらいかね。まあ今のあんたじゃ魔力すら足りないよ。」
第10階位って最終奥義みてえなもんだろ?本当に無理難題を押し付けるな。
「まさか、できないとは言わないだろうね?」
「当然だろ!」
できないなどとは言わぬ。我が辞書に不可能の文字はない!
「それじゃあ夕食を食べようか。」
そう師匠が言うとほぼ同時にディックが食べ物を持ってくる。
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俺は完食し終わった皿の前で手を合わせる。
「ご馳走様でした。」
俺は食器を持って台所に置く。するとディックは食器を掴み洗い始める。
「それじゃあ俺は先に寝てるよ。」
「明日に備えてよく眠りなよ。」
明日に備えて?なんかあったけ?まあいいや。俺はさっさと自分の部屋に移動し、ベッドの上に座る。
「ふう。」
俺は息を吐き、座禅を組む。集中して闘気を増加させると同時に、今日のことを見直すのだ。どんな課題があるか、どんな事を成功したか、何をすれば良いのか。闘気も増えるし、自分の事も深く見直せる。
「よしっ。」
だいたい30分ぐらいだっただろうか?俺はベッドから降り、柔軟や筋トレを始める。筋トレはもちろん強靭な肉体作りのために。柔軟は体のしなりを強くすると同時に、体を丈夫にしてくれる。こういう基礎的な事も欠かしてはならないのだ。
「そろそろ寝るか。」
俺はベッドの中に入り、目を閉じる。今日も大変だった。俺は自分の体を癒すために、死ぬように眠った。




