17.決着?
先に動いたのは『救恤』。その剣を飛び込みながら振り下ろすが、槍に大きく弾かれる。槍に関わらず、武器というものはテコの原理で先端の速度は自分の振るう速度より遥かに速い。ベルゴのような長い槍ならば先端のスピードはかなりのもの。大剣やメイスなどなら兎も角、片手剣ならば槍の方が分がいいと言えるだろう。
「『堕落』」
そして救恤が膝から崩れ落ちる。まるで体全体から力が抜け落ちたように。即座にそれに合わせてベルゴが槍を振るうが、それを彼女が持つ盾に防がれる。さっきまで持っていなかった盾が突如現れ、ベルゴの攻撃を防いだのだ。
「『見えざる盾』か。」
「別に、知っているだろう?」
彼女が盾を手から離す瞬間に盾は消える。見えざる盾とは、使いたいと思った瞬間だけ出現する盾である。少々値は張るが、片手剣や片手斧使いなら持っておいて損はないもの。剣を振るう時に邪魔にならない点や、重量がない点も強い。
「『救済』。さて、仕切り直しだ。」
救恤は立ち上がる。『堕落』で奪われた分の力を自身の強化で相殺させたのだ。二人は互いに武器を構え、再び睨み合う。
「そうか。」
ベルゴが一歩足を出した瞬間に、救恤の背後に立つ。歩く事が怠惰であるが故に、一歩で届く。距離を超越した動き。流石にこのスピードのベルゴの攻撃には対応できず、吹き飛ばされ、救恤は地面を転がる。
「お前じゃ俺様には勝てねえよ。絶対にな。」
「ほざけ!」
『怠惰』は全能力の中で最強級の力を持つ。『何もしたくない』という考えから生まれたスキルであるが故に、何もしなくても何でもできるような力を与える。それこそが怠惰。
「くそ!」
それに対し救恤は誰かを救うための力である。回復、攻撃、強化と何でもできるもののこれといった特出する点が存在しないという欠点が存在する。
「やはり、このままではお前に勝てないか。」
何度か打ち合う中、救恤が止まる。それに合わせて警戒してベルゴも止まる。
「確かにお前の怠惰に比べれば救恤というのはチンケな能力だ。しかし、劣っているという事はない!」
救恤の体が輝き、美しい光に包まれる。ベルゴは敢えて手を出さず、槍を構えるのに留める。まだ実態がよく掴めない状況で無策に飛び込むのは良くない。
「随分と早く奥の手を出すじゃねえか。」
「出し惜しみして負けるなど、以前の二の舞であろう?」
救恤の姿は大きく変わる。その剣も鎧も、形を変えてより美しく。救恤の髪は伸びて金色に染まっていく。まるでその姿は戦乙女のように。光の剣を軽く振るっただけで風は揺れ、存在するだけで周りに圧迫感を与える。
「『神化』。救恤が持つ救いの力を最大限活かした姿。救恤の使い手が決戦形態。」
ベルゴは迷わず救恤の後ろに跳躍した。そして迷わず槍を振るう。
「見てくれが変わっただけか!」
相手が反応しないのを見て、ベルゴがそう言う。そして槍がぶつかった瞬間気付いた。まるで壁に槍をぶつけているような感覚。気付くがもう遅い。
「敢えて、反応しなかったのだ。」
「ッ!!!?」
その剣にはベルゴは反応できなかった。無遠慮に槍を押し除け、剣を振るう。ただそれだけの動きに追いつけなかった。
「あがっ!」
「随分と遅いな!」
肩から腰にかけて大きく斬られる。そして魔法の光でできた刃を用い、もう片手で更にベルゴの体が斬られる。
「『消滅』」
そして手を開いて指の間を閉じ、救恤がベルゴの顔へ手を向ける。その瞬間ベルゴの頭が消し飛ぶ。まるでそこには元から何もなかったように。そしてベルゴの体も崩れ落ちる。
「……随分と呆気なかったな。私が強くなり過ぎてしまったか。」
救恤は元の姿に戻る。そして今や完全に動きを止めたベルゴのもとへと歩く。
「さて、あの珍妙な頭と体の繋ぎ目がどうなっているか見ておくか。」
そう言って近付く。
救恤は気付かなかった。その死体から一切血が出ていなかった事に。
救恤は知らなかった。怠惰が如何なるものであるかを。
救恤は油断していた。自分の強さに。
ベルゴ先生はね。初期プロットにはいなかったんだ。だけどとある怠惰をメインにしたなろう小説を見てたら勝手に生えてきたんだ。




