16.救恤
男はただ無心に肉を食いちぎり、骨をかみ砕く。しかしエルの手を喰らう男は途中で違和感に気付く。食事という行為に深く結びつく『味』がしないのだ。それに気づくと同時に、男の体を無数の鎖が飛来し、縛る。
「アクトとやらは面白かった。武闘祭の頃より甘さが消えている。油断がほとんどない。まあ、ジンほどではないがな。肩を並べるとまでは言わずとも役に立つであろう。」
もはや言わずとも分かるであろう。エースである。その手に気を失ったエルを抱き、その周辺では今も鎖が生成されている。
「しかしまあよくもやってくれたな。幻術とはいえエルを傷つけるなどと。」
その抱きかかえるエルにはしっかりと手がある。エースはいつもは無想剣『ヌル』で武具を生成し戦うが、魔法も武術も一流レベルの能力がある。その気になればオーディンを最強の魔法使いの座からひきずりおとせるぐらいには。
「貴様、『暴食』だな?その能力からみて間違いあるまい。」
男は鎖を食いちぎろうとしているがかなわない。むしろどんどん拘束は強くなり、動けなくなっていく。
「しかしその紐はちぎれまい。猫の足音、女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液。この六つからなる魔法の紐。その名を『神狼殺しの拘束具』」
鎖に見えるそれは本来は紐。しかしあまりにも硬い硬度を持つがゆえに金属ですらないのに鎖と錯覚させてしまうのだ。
「さて、貴様の存在を以て、その罪を償わせようではないか。」
アクトの選定に時間をかけたり、城でゆっくりしていたのが遅れた原因にも関わらず、エースは一切自分が悪いとは思っていない。自分の行動が真実であり、行動が遅い自分に責があるのではなく、危害を加えてきた相手が悪い。そういう完成されたエゴイズムで思考が構築されているのだ。実力がある故に、なんでもできてしまうからこその発想。
「魔剣『アグドゥセル』。古代の言葉で変換するものを指す剣。」
そしてその手に生み出した剣で男の首をはね飛ばした。しかし一切血は出ない。むしろ接合部分は皮で覆われており、元々首無し騎士のように離れていたとさえ感じる。
「貴様の体は元々そういう風だったと改変され、もう二度と体と顔が繋がる事はない。」
そう言いながらエースは男の髪の毛を掴み、持ち上げる。背後のグレイプニルによって拘束された体はもがくのみで何もできない。
「エルに手を出したのが間違いだったな。そうでなければただ死ぬだけで済んだものを。」
その瞬間、体に無数の刃が刺さり動かなくなる。そして刃が炎を発してその体を燃やし尽くした。そして更に不思議な事が起こった。壊れた家が元に戻っていくのだ。火は消え、まるで何もなかったかのように削れた地面や家も修復されていく。
「『瞬間移動』」
エースがそう言った瞬間、エルと男の頭部が消える。エルは学園の自室へと送られた。しかし、男は一体どこへ行ったのか。
「いつまで、意識を保っていられるか。見ものだな。」
それは、エースしか知らない。
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さて、少し時間は遡る。ちょうどゴーレムが町中に現れ始めたころ、路地裏に二人の男女がいた。男は馬の頭をしているが、人の体を持っていいる。見方によっては魔物とみられかねない人間。長いミスリルの槍を持つ男。名をベルゴ・ルーフェ。
それに対するは鋭い目つきの女。オリハルコンの片手剣を手に、金色の鎧を身にまとっている。名は分からないが、その能力ならベルゴが知っている。
「また、負けに来たのか。『救恤』」
「今度こそ殺すために来たんだ。『怠惰』」
二人の視線が交差し、無言で武器を構える。
「あの時、お前に負けてからずっとお前を倒すことを考えて生きてきた。」
「っは!救恤が人のためじゃなくて、人を殺すために頑張ったのか!随分とその名に恥じてるじゃねえか。」
「黙れ!我が主を殺したことを未だに私は忘れていないぞ。」
女の目は復讐に染まっており、逆にベルゴの目は冷めている。
「逆に言えば俺様も忘れてねえぜ。てめえの主とやらが俺様たちを陥れようとしてたことをな!」
ベルゴは若いころ冒険者としてパーティを組んでいた。その時にこの女となんらかのことがあったのだろう。しかし、それは今語るべきことではない。
「……殺す!」
「さあ、殺り合おうか!」
ただ、この二人が殺しあうほどの因縁がある。それが重要なのだ。
無想剣『ヌル』って結局なんじゃ!ようわからん!って人への解説。
ヌルはグレゼリオン王家に受け継がれる三大秘宝の1つだよ。ヌルには形がなくて、使用者の念じる姿へと自動的に変わるよ。
変わってくれるものはアグレイシア、つまりこの世界に存在する武器全て。あとは地球の有名な武器だけだね。地球の有名な武器はフィクションも多いから、逸話とかから能力が色々と派生しているよ。だから元の能力とは違う力を持っていることも多いよ。
武器は光の粒子によって作られてて、それを身の回りに発生させるとノータイムで武器生成も可能だよ。この事から光の粒子が本体とも言えるね。




