13.理想の世界
謙譲の女と、エースの目が交差する。
「これ以上の問答は必要なさそうだな。」
エースの背後からいくつもの武具が錬成される。光が集まり、どんどん形を成していく。それらは全て黄金の武具であり、全てがそこら辺の武器より遥かに強い性能を持っている。そしてそれを使い捨てるかのように、武器が射出された。
「『標的譲渡』ッ!」
しかしその一撃は全て逸らされ、外れる。謙譲の力で向かう方向をズラしたのだろう。しかしそんな小細工が何度もエースに通用するはずがない。
「ぁっ!」
「この国の全ては我の所有物だ。その所有物を勝手に壊される、というのは気分が悪い。特に街に不純物を作り出す貴様はな。」
背後から足を剣が貫き、それと合わせて四方八方から武具が降り注ぐ。しかし流石にそれは短剣で弾き、体を逸らして避ける。
「我が王家に伝わる三大宝具の一つ。無想剣『ヌル』よ、その真の力を見せよ。」
エースがそう言うと同時に、エースの周りに光の粒子が現れる。それはエースの周りを回っており、ただ形を得るのを待ち続けている。
「『ブリテン王の聖剣』」
そう呟くと同時に即座にエースの右手に光り輝く剣が現れる。そしてそれを躊躇いなく振るう。光の波動が極太のレーザーのようにして放たれ、女を滅ぼさんとエネルギーを放ち続ける。
「無想剣『ヌル』は、ありとあらゆる武具を模倣する力を持つ。」
これこそがエースが使っていた無限の武具の正体。神代から存在するグレゼリオン王国が三大宝具の一つ。
「光の粒を使い武具を構成するが、強過ぎる武器は作成に時間がかかる。しかしこうやって光を纏っていればロスタイム無しで即座に発動できるわけだ。こんな風にな。」
エースがエクスカリバーを手放した瞬間に光となって消える。
「そして生憎と、貴様を殺す武器も腐る程ある。」
ダメージを一部『譲渡』したのか、まだ原型を留めている。しかし既に顔は恐怖に染まっている。
「た、助けてッ!」
「貴様は、害虫を一々捕まえて逃す趣味でもあるのか?」
一切間を空けず、ノータイムでエースはそう返す。エースにとって自分以外の生物の殆どが劣化種。人類として認めている奴ならば百人にも満たないだろう。
「我が箱庭を荒らした報いを受けるが良い。」
エースの周りにいくつもの武具、否。無数の武具が現れ、放たれる。
「果たして貴様は、どこまで耐え切れるのだろうな?」
万、億を超える武具が放たれる。その全てが神器クラス。そのダメージや標的を譲渡するにも、間に合うはずもない。
勝敗が決した瞬間であった。
==========
今度は逃がさない。腹に槍を既に突き刺し、今度は俺が頭を踏みつける。
「てめえらの負けだ。万が一にもうちの王子に勝てるはずがねえし、もうお前も逆転の手がない。随分と大層な襲撃作戦ご苦労様だな。」
王都と外との隔離もこいつを殺せば解除される。無残とは言うがこんだけの事をやったんだ。どっちにせよ死刑だし、こういう緊急時なら早急な解決のために寧ろ殺すことが推奨されている。
「あ、があっ!」
殺すために槍を動かそうとしたん瞬間、槍から男が弾き出る。まるでピンボールのように凄い勢いで。さっき俺の手から消えたのもこれか。まあその時とは違って傷があるから地面を這っていく感じになったけど。
「遮断する部分と密着している時は弾け飛ぶんだな。まあ、もういらない知識だがな。」
槍に魔力を込める。小さい球体がいくつも形成され、それが合わさり一つの球が出来上がる。
「『宇宙の原初』」
槍の先端にその丸い球は現れ、ゆっくりと男へと飛んでいく。
「俺の理想を、妨げるんじゃあない!」
しかしぶつかる前にそれは消える。宇宙の原初の弱点は飛んでいくスピードが遅いこと。こういう風に無理矢理遮断して無効化できるような奴にはあまり意味がない。
「何故理解できないんだ……理想の世界だぞ?俺が願うのは誰もが苦しまず、誰もが傷つかない。誰もが安定した暮らしができ、優劣など存在しない。そんな理想な世界を否定するのか!」
「……くだらねえな。」
こんな事をして願う願いがそれかよ。まだ金持ちになりたいとかの方が笑えるぜ。
「それで人を殺すなんて馬鹿げてるな。」
「必要な犠牲だ。これさえ終われば誰も死なない。寿命もなくなり、外的要因で死ぬこともなくなるんだぞ!」
「どっちにせよ馬鹿げてるぜ。考え方が子供以下だ。」
俺は地面を蹴る。
「そんなん、つまんねえだろ?」




