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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第5章〜大罪と美徳と未知〜
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12.黄金王子

クラウスターは淡々と金槌をふるい、その聖剣に『無の加工』を施していく。



「『究極之鍛治(ルーク・ヘパイストス)』」



彼女が呟いたのは彼女自身の伝説技能レジェンドスキル。初代鍛治王と彼女以外誰も手に入れられなかったスキル。これこそが無の加工を可能にする正体なのだ。



「多次元構造展開ッ!」



確かに聖剣は完成された武器である。そこには余す所なくコードが走っており、改良するところも付け加えるところもない。ならば、それすらも加工して新たに加工するスペースを作り出す。それこそがクラウスターが見つけた答え。初代鍛治王が二次元ならば、自分は三次元にコードを走らせる。



「『神性球体(トゥルースフィア)』」



それは、球体となる。彼女にしか見えない究極の概念。その球体の中にはいくつものコードが渦を巻き続け、その球体を余す所なく使い果たしている。この武器が耐えられる限界ギリギリ。そこまで完璧に調節を行なって。



「でき、た。」



そうやってクラウスターは倒れる。全集中力が切れたように。そして安心して、その目蓋を下ろした。






そして、そこに二人の男女が近付く。



「多少手間取ったけど、問題なさそうだなあ。」

「ええ。節制さえ奪えれば何の問題もなく計画は進行する。」



節制の力は増幅と抑圧。単純が故に最強級の力。しかし戦闘系の人物が目覚めることは殆どない力。だがこうやって奪えてしまえば関係ない。



「残念に思わないでくれよお?これも全て理想の世界のためだ。」



そうやって男がクラウスターに手を伸ばす。純潔の隔離の力は容易く肉体と魂を隔離するだろう。しかし、ここにはもう一人いる。



「薄汚れた手でそいつに触るんじゃねえ。」

「……まだ動けたのかい?」



アクトの槍が男の首を押さえつける。その眼はしっかりと二人を睨んでいる。



「霊槍『アランボルグ』はありとあらゆる法則型階位魔法の使用を可能とする。それは回復魔法も例外じゃねえ。」



既に貫かれた腹は再生し、元に戻っている。ファルクラムよりは練度は低いが、世界中から魔力を集めるアクトにとってそれは苦でもなんでもない。



「それならさっさと追いかけてくればよかったじゃない。」



そう言って女が短剣を構える。男のレベルは7。つまりアクトと同じだが、女のレベルは9。アクトが正面から戦って勝てる相手ではないだろう。



「悪いが、勝機がない戦いをするのは無謀ってやつだぜ。」



アクトは未来を見ている。つまりこれから先も既に知り得ているということなのだ。



「そう?なら悪いけど今も随分と無謀よ!」

「いや、違うね。」



女の短剣を振るう手に鎖が巻きつく。黄金の鎖であり、まるで意思を持つかのような動き。それは間違いなく闘技場で見たことがあるもの。


アクトは槍の柄で男の頭を寄せ、掴む。相手が抵抗するより速く足を動かし始める。



「面貸せよ。」



アクトは地面を蹴り、男の顔面を掴んだまま校庭の上空に辿り着く。そして迷いなく地面を叩きつけた。辺りには砂埃が舞い、静寂が満ちる。



「あっちは……心配するだけ無駄か。」



アクトは一瞬、女の方へ気を向けたがそれを直ぐに消した。決して女が弱いというわけではない。相手が悪過ぎる。






==========






空から悠然と一人の人間が降り立つ。女の腕を拘束する鎖を短剣で幾度も斬りつけるが、斬れる事はない。相当丈夫な鎖であることが分かるだろう。



「我が国に、何の用だ?」



エルがいれば間違いなく『まだお前の国じゃないでしょ。』と言われるような言葉を吐き、そして女の前に立つ。



「観光にしては些かマナーがなっていないと言わざるをえんな。」

「黄金、王子……」



黄金王子。それはグレゼリオンが第一王子につけられた二つ名である。黄金の武器で戦うということと、その自信過剰な様などからつけられた名前。それは間違いなくこの王子の全容を語っているといえよう。



「ああ、それともまさか。」



恐怖を感じる。それは頭から来たものではない。理由は分からないが、女を恐怖させた。その事実が彼女を更に恐怖させる。



「この国を、敵に回すつもりだったのか?」



悠然と、王子は、エース・フォン・グレゼリオンがそう言った。

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