10.三年生
「キリがないねっ!」
エル・フォン・クライが弓から矢を放つ。その矢はただの矢ではなく、魔力で形成された魔法の矢。だからエルは手に矢を持っていないし、だからこそできることもある。
魔法の矢はある程度進んだところで分裂し、いくつもの矢が対象へと放たれる。対象はゴーレム。このゴーレムは王都から出れなくなった直後に出現した。それに数え切れないほど。
「もう!人類最強は不在だし!エースもいないし!どうして肝心な時に強い奴はいなくなるのかなあ!」
『人類最強』であるディザスト・フォン・テンペストは国王の視察へ付いていったのだ。故に不在であるが、エース・フォン・グレゼリオンが不在の理由は不明。だからこそエルは焦っていた。この王都にも実力者は沢山いる。しかし、本当に強い人。この状況をひっくり返せるレベルの強者がいなければどうしようもない。
「可能性としては学園長だけど……まさか丁度いないタイミングで来るなんて!」
丁度たまたま賢神の定例会議であり、リーダーである学園長が出向くのは当然であった。しかしここまで強者がいないとなれば、相手が狙ったのも確実だった。世界最強の魔女オーディンと、人類最強ディザストがいないタイミングに合わせてきたのだ。
「エルさんだね?」
「うわっ!」
そんなエルの隣に突如炎が出現し、その中から一人の男が現れる。グレゼリオン学園生徒会会長ロウ・フォン・リラーティナである。
「そろそろ学園に戻っていいよ。急な依頼だったのにすまないね。」
「あ、いや、大丈夫だよ。力がある人がない人を守るのは当然だからね。」
「そう言ってくれると嬉しい。」
その一言と同時に、ゴーレムが一気に燃える。決して溶けやすいはずでない土のゴーレムを溶かし尽くす。それも何百体規模で。
「後は任せてくれ。うちの三年生は化け物揃いなんだ。」
エルは即座に離脱した。学園内にいれば結界が守ってくれるが、外なら何があるか分かったもんじゃない。
「流石、『炎神』と呼ばれるだけはあるね。」
それに何より、あの殲滅力の魔法を見ればそっちの方が安全だと対処できる。
「本当に、エースは何をしてるんだか。」
この非常時にエースが動かないなど有り得ない。何かしらの事情はあると分かっていながらも、エルは少しエースに怒りの感情を向けていた。
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何故ゴーレムの数が減らないのか。それは常に生産され続けているからだ。減らした分だけ増え続ける。しかし倒さなければ増え過ぎて対処し切れなくなる。だからこそ倒さなくてはならない。
「『深淵との遭遇』」
白と黒の画面をつけた男。即ち帰宅部部長ジョーカーがゴーレムを消す。全くの予備動作なく、痕跡すらなくゴーレムが消失し続ける。
「これいつまでやるんだい?」
シグマ・チーティがその二丁拳銃を次々とゴーレムに打ち込む。それは一体に当たっただけでは止まらず、その一直線にいるゴーレム全てを消し飛ばす。
「終わるまで、だろ?」
フィエン・オウマットがそれに答える。特別なことはしていない。ただ殴る蹴るだけでゴーレムは吹き飛び、死んでいく。
「というか俺はこういうの向いてねえんだよ。オメガに行かせれば良かっただろーが!」
「先輩としての面目は守らないとねェ。」
「いらねえよんなもん!」
帰宅部三年生はそうやって次々とゴーレムを沈める。
「まあ、それに直接学園に攻め込む奴がいるだろうからねェ。開けるわけにもいかないのさァ。」
「はっ!それこそ有り得ないだろ。学園長が作った悪人を弾き出す結界があるんだ。そこらの奴じゃ破れねえよ。」
学園には学園に悪意を持つものを自動的に弾き出す結界が張ってあった。だからこそこの状況にありながら生徒は安心していたのだ。
「『伝説技能』か『夢想技能』かァ。どっちか分からないけど、これだけの規模で攻撃してくるんだぜェ。ヤバイ奴は持ってるだろうよォ。」
「そうかよ!」
そう言いながら三人はゴーレムを倒し続けた。
入れたかった話が入れられなかったから5.5章出すと思います




