11.魔の頂へ
そして翌日。色々と事情を話した後、父さんからの手紙を渡し夕食を食べさせてもらった後に家に泊めてもらった。大体朝6時頃だろうか、今はそれぐらいだ。俺は立てかけている木刀を握り家から出る。まあやる事はただの素振り。朝はいつも五千本だけだが。俺が素振りをしていると、家からミラが出てくる。
「そんなに剣振っといて、本当に魔導を習いたいのかい?グラドから剣を教えてもらってて、魔法も教わりたいなんて図々しいにも程があるよ。」
俺は素振りを止め、ミラの方を見る。図々しい。ま、確かにそうだろう。RPGで前衛職も後衛職もどっちもできるオールラウンダーになりたいって言ってるわけだから。しかしここはゲームじゃない。
「ただやれる事を全部やり抜きたいだけだ。」
「お前は私の魔導を習いたいと?このミラ・ウォルリナの数十年かけて作り出した叡智の数々を。」
「もちろん。」
できるできないの話ではない。やるしかないのだ。やり方は一択だ。
「ふむ。なら、お前は弟子にとってあげよう。これから私の事は師匠と呼ぶといい。」
やったぜ。第4階位以上の魔法は独学じゃかなり難易度が高いらしいし、人から教われるのはありがたい。
「まあまず飯だね。朝食を食べるよ。」
そう言いミラ、いや師匠は家に戻っていった。俺は素振りを終え、木刀を家に立てかけ入る。
「なんだそれ。」
俺が家の中に入ると不可思議な光景が広がっていた。黒い球状の異物が何匹も存在し、料理をしているのだ。黒い球体から手や足が生えている。
「ん?ああこいつらは私の使い魔みたいなもんだよ。名前はディック。これから色々と手伝ってもらうんだから、挨拶ぐらいはしときな。」
「え、あ、はい。」
なんだろうこいつ。普通に気持ち悪いんだが。なんだろうそういう趣味なんだろうか。グロ物体収集家みたいな。
「よ、よろしく頼む?」
俺は軽く頭を下げると、料理の腕を止め俺に少し頭を下げてきた。あ、思ったより動きが軽い。小動物みたいな感じがする。
「それじゃあ食おうか。」
ディックが料理を持ってきて、俺と師匠は食べ始める。俺は一応手を合わせてから。朝ご飯の内容は白米、味噌汁、焼き魚。異世界だが日本食はある。地球からやってきた日本人が伝えたらしい。まあ元々東洋の方では親しまれていたらしいがね。
「さて、まずはどの程度の魔法を理解してるかを分からなきゃ意味がない。魔法の理論っていうのは高難易度の魔法を使う上で必須だ。」
魔法のことをどの程度理解しているか。まあ最低限の事ぐらいはわかっているとは思う。といっても俺は入門書を読んだぐらいだからな。
「まず魔法は魔法でもいくつか種類がある。それは主に三つ。神々が定めた力を使う『法則型魔法』、神々が定めた言語を使う『術式型魔法』、全てを一から創造する『理論型魔法』の三つ。」
「へえ。」
「あんたは多分法則型魔法しか使えないんじゃないかい?」
まあ多分そうだろ。やってるのはイメージして魔力を流すだけだ。
「術式型魔法を使うには、魔法言語を覚える必要がある。魔法言語は魔導具に刻めば魔道具も作れるし便利だよ。」
ふーん。多分地下道の腕輪も魔法言語が刻まれているのだろうな。
「術式型魔法は魔法言語を習わなきゃ話にならない。後で本を一冊やるから空いた時間で……そうだね。一年で覚えな。」
「一年!?」
一つの言語を、たった一年で覚えろと?先生とかが付く学生期間でさえ、かなりの時間がかかるんだぞ。
「できると思う?」
「大丈夫だよ。そこまで難しくない。私は半年で習得したからね。」
何度も言うが天才と凡人を一緒にしてもらわないで欲しい。天才でそれぐらいだったら俺は7、8年ぐらいかかるかもしれねえんだぞ?
「精々頑張るよ。」
「死ぬ気で頑張るといいよ。」
俺と師匠は食べ終わり、食器を片付ける。皿洗いはディックがやっている。
「それじゃあジン。地下室に行くよ。」
「地下室?」
俺は師匠の後ろに着いて行く。すると師匠が階段の隣の壁をすり抜けた。そして姿が見えなくなった。俺は恐る恐る手を突っ込む。すり抜けた。魔法、だろうか?見たことがないな。俺は取り敢えず下に降りて行く。すると体育館ぐらいの大きさの地下室があった。
「地下道と家の間ギリギリに作られている。まあ私の結界魔法が張ってるから決して壊れる事はない。修行部屋なんかと思ってくれたらいいよ。」
決して壊れない地下室。どうもありきたりのような場所だ。
「じゃあ魔法を打ってごらん。私に向かって。」
「師匠に、ですか?」
「ああ。まさかお前ごときの魔法で私に傷一つ与えられると思ってるわけかい?」
「いや、そんな事は。」
俺は即座に魔法を構築する。放つは第3階位魔法。
「『水撃』」
水が四方八方から師匠を覆い隠し、一気に襲う。並大抵の敵なら血まみれになって終わりだが、まあそんなに上手く行くはずはない。一滴たりとて師匠には当たらず、円状の結界のようなものに阻まれる。悠然と立つ師匠に向かい再び第3階位魔法を放つ。
「『水人形』」
飛び散った水が四肢を形成し、人型の人形が師匠に向かい襲いかかる。
「『操作権奪取』ほれ、行け。」
しかし師匠には効かない。それどころか、俺と水人形の魔力回線を奪い取り操作権を強奪した。一瞬で俺の水人形を解析し、俺の魔力を理解しなければできない芸当だ。
「はっ!」
俺は魔法で木刀を作り出し、水人形を切り刻む。木刀はすぐに砕け落ちるが、相手も水に戻る。
「剣術はあの馬鹿が教えただけあって、中々のもんじゃないか。」
「それは嬉しいことで。」
「魔法操作も独学にしては大したもんだよ。今すぐにでも第4階位の魔法を教えてやってもいいけど、その前にこれを着けな。」
師匠が腕輪をこっちに投げる。何だこれは。いや、まあ着けるけど。
「それは魔力消費量を10倍にする代わりに、魔力増加量を5倍にする腕輪。少々値が張るけどね。」
「え!?」
なんてものを着けるんだこいつ。俺の魔力量は大した事がないんだ。直ぐに尽きてしまう。
「これはお前の魔力量を増やす訓練でもある。魔力増加量は魔力消費量に比例する。単純に考えるなら、効率的には50倍だね。」
「そんな効率で俺の魔力が持つわけないだろ。」
そう言った瞬間、師匠の手の上に一本のマナポーションが現れる。二本、三本と更に増えていく。
「ん?なんか言ったかい?」
「……」
いつもギリギリまでやってるから慣れてはいる。しかし、何度もその状態を味わうのは正直に言って辛い。まあやるけど。
「お前はどの属性が得意なんだい?」
「一応、水属性。」
「ならこれからは水属性だけ練習しな。さっきのを見ればよく分かる。あそこまでの魔法操作ができて、その魔力量は典型的な努力タイプそのものだ。私ですら全属性を完璧に収める事はできていない。だからこそ一点集中。多様さは確かにありとあらゆるシチュエーションに対応できるけど、それらが全部弱きゃ話にならない。元々水属性は凡庸性が高いからそうするといい。」
ま、そうか。水属性に専念した方が無難だな。
「了解。」
「よろしい。それじゃあ魔法を教えてあげよう。」
多分、というか確実に辛いし後悔もするだろう。まあ、だかしかし。精々頑張らせて頂きますか。




