7.節制
夜。人々の殆どは寝静まり、明かりも消える。冬に近付いている頃であり、どんどん寒さが増している。そんな中、月明かりが今日も王都を照らしている。
王都バースには王城を中心として、様々な施設が存在する。世界最高峰の育成施設グレゼリオン学園を始め、巨大な闘技場、世界最大の国立図書館。その他にも『世界の宝物庫』と呼ばれる商業区画や、魔道具を開発する研究施設など。王都バースに行けば『何でも』あると言われるほどだ。
そんな王都バースにも、少し問題の地が存在する。南門付近の未開発土地。昔は魔法研究が盛んな地であったが、一人の研究者が実験を失敗。大きな爆発を起こして、甚大な被害を出した。そしてその魔力はその地を汚染した。まるで、原子力発電所の事故のように悪質な魔力がその地の魔力を今も乱し続けているのだ。
――そして、そんな場所に少女が一人。
「ちくしょう!ンだよアレっ!」
暗い道をただ走っている。少女の名はクラウスター・グリル。当代の鍛治王である。そして、彼女の背後には暗闇に紛れ姿は見えないが確かに一人存在する。
「オレの『節制』を狙ってンのかよ!」
彼女には襲われる覚えがあった。彼女自身が十四技能の一つである『節制』の持ち主であり、丁度今朝の夢で戦いを強要されていたのだ。
全力で逃げてはいるが、後ろから何度も雷の槍が放たれ、自由に逃げることもできない。少なくとも居住区には近付けさせないようにしているのはクラウスターも理解していた。
(居住区にじゃあ騎士がいるカらな。だから近付かれたくねえダろうよ。)
だからこそ、クラウスターは居住区に近付くことを優先して動く。生まれつき鍛冶しかやったことのない彼女に戦闘などできるはずもない。武器を試すために魔物を倒したことがあるので、多少はレベルが高いが、あの雷の槍を弾くことすら不可能だろう。
「『抑圧』」
しかし、『節制』の力は使える。『節制』の力は抑圧と増幅。雷の槍は抑圧の力で押さえつけられ、拳程度の大きさになる。今も逃げることができているのはこれが理由である。
「よしっ!もう少しで!」
クラウスターはその目に街の仄かな明かりを見て、更に速く走る。
――しかし、届くことはなかった。
「流石にそれより先に行かせられないねえ。」
地面に頭を掴まれ押し付けられている。声から男だという事は分かるが、もうそんな事を知っても意味がない。
「ずっと鬼ごっこをしてたから、もう君の能力は分かったよ。絶対に今の状態から逃げれないこともねえ。」
声を出そうとするが、土の味がするだけで口を開くこともままならない。鼻が潰されるほどの力で押さえつけられている。
「ああ、やはりこの世界というのは嘆かわしい。こうやって簡単に人が死ぬんだから。」
天を仰ぐような仕草を見せ、そして残虐的な笑みを浮かべる。
「それじゃあ、死んでくれよ?」
クラウスターの顔は恐怖に染まり、必死に抵抗する。
(なんで、なんで、なんで!おかしいダろ。なんでオレが死ななくちゃならない。なにもしてネえだろうが。なんで、こんな自由じゃない人生を送ってきて、死に場所まで人に決められなくちゃならねえンだよ。まだ、何もできてネえのに!動けよッ!誰かどうにかしろよっ!いつもあんなに持ち上げて、いて欲しくない時にもずっといるのに!なんでこんな時に居ないんだよッ!)
魔法がいくつも放たれるがその全て当たる前に消える。あまりにも、実力差があり過ぎるのだ。
「安心しな。痛みはないように殺すからよ。」
そうして辺りに魔力が満ちた瞬間、クラウスターは死を覚悟した。しかし受け入れることは叶わなかった。
「だれ、か!」
無理矢理前を向いて言葉を発する。
「たす、けて。」
あまりにか細い声。こんな夜、必ず聞こえなかったであろう声。
「『完全支配』」
しかし、世界は。否、人は彼女を見捨てなかった。
「こんな夜中に、幼女を襲うなんざ人として終わってんなてめえ。」
金色の眼と、薄く輝く白い槍が辺りを照らす。
「よう、気分はどうだいロリコン犯罪者。」
悠々不適に金色の眼を持つ少年、アクト・ラスは笑った。
ここどういう話にするか物凄く迷った。結果、シリアスに走る。とある銀色の魂みたいにギャグとシリアスが混在できればいいけど。駄目っすね。無理っすね。




