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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第5章〜大罪と美徳と未知〜
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6.怠惰

目が覚める。しかし、さっきの感覚は夢じゃない事はわかる。はっきり記憶に残っているし、何より『絶剣』を使った反動でまだ少し腕が痛い。



「戦え、ねえ。」



正直に言って叶えて欲しい願いなんざない。まだ伸ばしどころはあるし、他人に力をもらうのはあんまり性に合わない。それに、もう人から力は奪わないと決めたしね。追加で言ってしまうなら、実は代償がありましたっていうオチが待ってるかもしれないわけだし。



「食堂行くか。」



まあ考えても仕方ないだろう。全世界で十四人しかいないんだぜ?そんな頻繁に遭遇するはずがない。そう思いながら扉を開く。



「……」



そこには馬がいた。否、正確には馬の頭をした男。最近では違和感を感じなくなってきて、それが少し怖くなりつつある人。



「あ、すいません。」



反射的に謝って扉を閉じる。まあ、ベルゴ・ルーフェ先生だ。慣れてきたのだが、いきなり朝から馬の顔はキツい。胃もたれしそう。



「お前の部屋本当にすっからかんだな。」

「ナチュラルに不法侵入した挙句、部屋に文句言ってんじゃねえよ。」

「俺様は教師だからいいんだよ。」

「そういうのを職権濫用って言うんだよ。」



そう言って図々しくベッドに腰掛ける。この人転移魔法が得意から壁なんてないに等しい。防ぐには専門の結界を張る必要があるわけだが、まあ面倒だし、あんまり来ないしで張る事はないんだが。



「客人に茶も出さねえのか。」

「お前は客人じゃなくて犯罪者だろうが、不法侵入の。それにここに茶なんてあるわけないだろ。食堂で飲めるんだし。」

「普通家に常備してるもんだろ。」

「俺は水を飲む。」

「渋いなあ。」



水道は魔道具にて成り立っている。だから俺の魔力を供給し続ければ水は永遠に出てくれるし、なによりお茶は作るのに多少手間がかかる。時間短縮の点において水は最強なのだ。



「んで、何のようだよ。あんたしっかりとした用事がないと自分から動かないだろ。」

「ああ、そうだな。本題に入るか。」



そう言ってベルゴ先生がキリッとした感じになる。……まあ頭が馬だからなんかしまらねえけど。



「朝、夢で見たはずだ。また戦いが始まる。」

「……知ってるのか?というか()()?」

「ああ、知っているぜ。『怠惰』として、今回が二回目の戦いに挑むわけだ。」



ベルゴ先生が、『怠惰』だったのか。しかも二回目?何度も行われているのか。



「あの神、『技能神』は大体十年に一回ぐらいでこの戦いを始める。俺は前回の戦いを生き残ってここにいるわけだ。」

「ちょっと待て。なら、ベルゴ先生が前回願いを叶えてもらったのか?というかそれなら何故全ての十四技能をベルゴ先生が持っていないんだ?」



生き残ったという言い方じゃあ決着がついたはず。ならば誰かが願いを叶えたはずじゃあないのか?



「この戦いのリミットは一年だ。あの神は明言をしなかったが、丁度一年で戦いが終わる。そしてこの戦いは仕組み上、絶対に全てを集められない。」

「集められない?」

「ああ。俺みたいな『怠惰』を持ち越す奴がいるように、他にもずっと持ち越し続けてる奴が存在する。その二人を誰も殺せなかったんだよ。」



なる、ほど。この世界には寿命がとんでもなく長い奴がいる。ならば百年単位でずっと参加し続けた奴もいるのだろう。



「それが、『忍耐』と『色欲』だ。『色欲』は七十二柱の悪魔で、その中でも相当強い悪魔だ。『忍耐』はそもそも所在が掴めねえ。」

「なら、『色欲』が他の十四技能を持ってるんじゃないのか?」

「それは違う。俺様もだが、権利を放棄している。つまり受け取らなかったんだよ。」

「なんで貰わないんだ?毎回十年毎に面倒ごとが来るのに。」



十年毎に来るのなら全てを持っておけば戦いは永遠に始まらないはずだ。



「十四技能は奪ったとき、性格をねじ曲げられる。例えば『憤怒』を手に入れれば怒りに理性を呑まれる。自分が自分じゃなくなるんだ。」

「それ、意味なくねえか?」

「ああそうだ。意味がねえんだ。俺様も一度手に入れた時に、即座に放棄を選択してなかったらここにいなかっただろうよ。」



性格が変われば願いも変わる。例え全てを集めたとしてもその時の願いなんて、『自分を元に戻してくれ』って願うのが関の山だろう。自分の中で異なる性格が十四もあるならな。



「だから、共闘をしに来たんだ。敵は極力少ねえ方がいいだろ?」

「まあ、確かにそうだが。」



つまり他の十四技能の所持者を安全に倒しながらやっていくというわけだ。そのためにはやはり手数が必要だろう。



「他の十四技能の所持者はファルクラムが『慈悲』、シンヤ・カンザキが『強欲』、エース殿下は『傲慢』ってところか。『忍耐』と『色欲』は基本動かねえことを考えると、最高でまだ七人敵がいることになる。」

「仲間は俺とシルフェ、ベルゴ先生あたりか?シンヤは多分ここには来れねえし、エースはそんなもん俺らが勝手にやれって言うだろうしな。」

「敵は七人、仲間はまだ三人ってわけだ。だからファルクラムに伝えておいてくれ。あと、アクトも丁度いいし巻き込んどけ。パーティの3分の2が関係してんだから他人事じゃないだろ?」



そう言いながらベルゴ先生は窓を開け、そこに足をかける。



「俺様は俺様で動く。背後は気をつけとけよ。」



そう言って窓から飛び降りる。一応窓から下を見てみるが、もうどこにもいなかった。

実はベルゴ先生が怠惰っていう。転移能力とかも『怠惰』の能力の一つなんですよね。

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