5.願いを叶えよう
俺の目の前には十三の席があった。俺の座っているのも合わせれば計十四。柱の上に椅子は置いてあり、柱がない場所は底が見えないほど深い穴になっていた。聖剣の中を彷彿とさせるように、案の定人は全員黒か白に染まっている。中には、少し見覚えがある奴らもいるが。
「ようこそ。七つの大罪と、七つの美徳の所有者よ。」
上空に一人の女が現れた。正によく言われる女神のような見た目をした。
「私は『技能神』。この世界に君臨する神が一柱。」
この世界の宗教はほぼ一つに定まっている。それは、神が実在するという確証が存在するが故である。ルスト教が実際に定めた神の中にも、技能神は確かいた記憶がある。容姿もしっかりと一致している。
「私の存在を信じてもらう必要はありません。ただ、事実のみ今から述べます。まあどちらにせよ話せないという事にそろそろ気付いている人も多いと思いますが。」
話せない。というか口や舌は動くが、肝心な息を吐き出す機構が成り立っていないように感じる。
「ここは夢の中です。そして今は、夢を繋ぎ合わせています。そしてここにいる全員は七つの大罪、又は七つの美徳のスキルを取得しているはずです。今回はその秘密を伝えるためにこうやって干渉しています。」
ただ技能神は淡々と喋っていく。よくよく見てみるとその顔は生気はなく、まるで機械のような感じさえある。
「七つの大罪や七つの美徳は殺せばその能力を奪う事ができます。つまり例えば憤怒の所有者を殺せば、その憤怒の力を奪う事が可能なのです。」
「……それが、どうかしたのか?」
「おや?」
技能神以外の声が響く。その声には聞き覚えがある。それは確実に。
「周りくどい言い方はよせ。端的に目的を告げよ。この我の時間を貴様如きが奪う権利が得られると思っているのなら、傲慢が過ぎるぞ愚神が。」
間違いなくエースだ。体こそ黒く染まってはいるが、間違いなくエース・フォン・グレゼリオンであろう。
「ならば、端的に言いましょう。要は奪い合ってください。全ての力を集めた人には、私がどんな願いでも叶えて差し上げましょう。」
なんでも、か。神様がそんな事言うなら多少は現実味も出てくるモンだ。まあ、俺は興味がないがな。というか恐らくこの中にシルフェもいるしね。あいつは『慈悲』を持っていたはずだから。そう思いつつ俺は手刀で軽く空気を斬る。右腕に鈍い痛みが走るが、気にしない。
「なら、お前の目的はなんだ?」
「あなたまで。今回は中々強い力を持つ人が多いようですね。」
「いいから質問に答えな。」
『絶剣』で俺を喋れなくしてる力を斬った。というか、なんでエースは平然と喋れてんだろう。確かにあいつは何できても違和感ねえがよ。
「言わば救済処置です。この世界で最も生きづらい十四人への。」
「救済処置ぃ?んなもんお前にメリットがないだろうが。」
恐らくだがこいつに善悪の基準なんて存在しない。可哀想だから助けるってのはかなりの確率で有り得ない。
「ありますよ。ですが、それを教える必要はありません。」
すると俺たちの下にあった柱が突如消える。浮遊感を感じ、そのまま落ちていく。しかし俺はずっと神を見据えている。
「ただ、今、この時に必要だっただけです。」
その言葉が最後になって、俺は目が覚めた。




