4.鍛治王の苦難
国の中でも優秀な鍛冶師を父に、細工師を母に持ったクラウスター・グリルはその二人の才能を余す事なく受け継いでいた。それは幼少の頃から発揮されており、一人前の基準とされるミスリルの加工をたった五歳にて行ったというのは有名な話の一つである。
そして、その才能を証明するかのように様々な偉業を成し遂げた。
七歳にて魔道具を製作。直ぐにコツを掴み、首飾りに百を越える効果を付与させる事に成功。その首飾りは億を優に超えて取引された。
八歳にて魔導王の称号を賜った。無論、その技術は全てが製作に関するものである。
九歳にて当時の鍛治王と肩を並べる実力を発揮。しかし、この時点で作業効率ならクラウスターが上回っていた。
十歳にて『無の加工』を可能とした。この出来事が切っ掛けとなり、幼いという理由で候補から外されていたクラウスターが第百二十代目鍛治王となった。
そこから先、クラウスター・グリルは何の挫折もしない生活を送ってきた。いくつもの武具や装飾品を作り出し、無条件で称賛されてきた。
しかし、しかしだ。それは果たして彼女にとって幸せだったのだろうか。生まれついた瞬間に、頂点に立った少女。そこに切磋琢磨などなく、努力などなく、できない人の苦しみは永遠に分からない。
傲慢不遜なエース・フォン・グレゼリオンとは違い、あまりにも一般人の感性を持っていたクラウスターにはそれは辛い事だったのだろう。
何の苦しみもなく成長したクラウスターは次第に言動が荒んだ。それはまるで、自分の弱い心を守るかのように。確かに、家族だけは彼女を純粋に愛してくれるだろう。しかし、少なくとも他人は自分を普通の女の子とは認識してくれない。その思いを、ずっと片隅に抱えてやってきた。
「んだ、これ。」
今回も、聖剣を少し改造するだけだ。今まで何度もやってきた事の繰り返し。簡単だと、確信していた。今まで彼女がやった事に失敗はなかった。しかし、彼女は誤認していた。それは何でもできるわけではなく、ただ出来ない事に挑戦していなかっただけなのだと。
彼女の目には概念がいくつものコードになって見えている。そのコードは全て緻密で、繊細で、それでいて完璧だった。完成品だと、これ以上の出来は存在しないと思えるほどに。そして、直ぐに理解した。自分に、ゼロからこれを作るほどの技量が存在しないことにも。
「なんで……」
この才能は、クラウスターへ天才故の苦しみを与えた。しかし初代鍛冶王の最高傑作は、彼女へ耐えがたい絶望も同時に与えた。彼女を唯一支えていた才能からの自信。それを呆気なく打ち砕いた。
「ぁあ、いや、だけどよ。」
しかし、クラウスターは強かった。迷いなく選択した。挑むという選択をだ。完璧でない自分に価値などないと、そう思って。
「最高の聖剣を作ってやろうじゃねえか。」
自分に不可能などない。聖剣以上の神器を作る逸材と、世間に呼ばれているクラウスターにとってこれは乗り越えねばならない壁だった。
クラウスターは自分の声が震えていたのに気付いていない。
クラウスターは絶望を押し殺している。
クラウスターは期待に殺されそうになっている。
地球でも結果を求められ続けたスポーツ選手が、期待のせいで押し潰された事が幾度もあるように。彼女も、きっと。
……いや、これはここで語るべき事ではない。
彼女は世間に作られたクラウスターを演じている。何でもできる鍛治王という姿を。だから気軽に聖剣をグレードアップさせると言ってしまった。世間から思われている自分はきっとこう言うのだろうと思って。
最後に、確かな真実を言えるとするならば、クラウスター・グリルの心は折れる手前まで来てしまっていたのだ。
iPadってあるじゃないですか。それが最近アプデが来たんですよ。そしたらですね、ブラウザのタブがですね、定期的に消えるんですよ。ちょっとたまにキレそうになりますね。




