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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第5章〜大罪と美徳と未知〜
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2.鍛冶王

「オい。」

「……迷子か?」



俺の目の前には俺の腰辺りの背丈の子供がいる。目つきが鋭いせいかよく分かりにくいが、多分、女性だろう。



「迷子じゃネえよ。制服着てんダろが。」

「よしよし。親はどこかな?」

「テメエ喧嘩売ってんダろ。」



まあ冗談はさておき、この背丈の低さは恐らくドワーフだからだろう。ドワーフは背が低いが、手先が物凄く器用だ。というのもドワーフは人間より関節の数が多いのだ。それでいて人間より少し頭も大きくて、体の使い方を生まれながらに完全に理解している。それに加えて魔力についての親和性も高いときたら、人間が勝てる要素なんてほとんどありゃしない。


だがまあしかし、『作ること』以外に全く興味がなく、その優秀な頭もそっち関連でしか活かされない。全世界に広がっている魔道具は全てドワーフが作ったものなんだから、それも馬鹿にできないんだがな。



「で、何の用だ。当代の『鍛治王』さんよ。」

「おうおう、なんだオレのこと知ってンじゃネえかよ。」

「知らねえ奴はいねえだろうが。歴代で初代鍛治王にしか成しえなかった『無の加工』を可能とした天才なんだってな。」



この女はとにかくヤバい。センスというものが優れているドワーフの中でも飛び抜けて優れている。ドワーフってのは最も製造に優れているドワーフを『鍛治王』と呼ぶ。それを史上最年少である十歳にて賜り、『無の加工』とか言われるとんでもないことをやっているガチの歴史に名を残す類のドワーフだ。


無の加工ってのは、水や大気さえも加工すること。まあ分かりやすく言ってしまえば何でも加工できる奴ってことだ。ちょっとしっかり説明すると長くなるし。



「よし。なら聖剣寄越せヨ。」

「……ちょっと何言ってるかわからない。」

「惚けんじゃネえよ!テメエが勇者だってのは――



俺は急いでこの女の口を塞ぐ。王様に秘密にしとけって言われてんのに、まあ容赦なくばらそうとするなあ。



「ここ。食堂。聞かれたら、ヤバい。おーけー?」



その言葉を聞いた後、面倒くさそうに俺の手を引き剥がす。



「ケッ!わざわざオレが出向いてンだゼ?説明さセんなよ。」

「知らねえよんなもん。」



なんでこう天才ってのは偉そうなんだか。エースもやたら偉そうだし。まああいつの場合は実際偉いんだが。



「オレが聖剣をうちななおしてやルって言ってンだよ!」

「うちなおすぅ?」



どういうこと。聖剣を強化するとかそんな感じ?



「はあ。これだカら急造の勇者はめんどくせエんだ。」

「しゃらくせえな。さっさと説明するならしろ。」

「形を変えれンだよ。聖剣ってのはな。」



形状を変化できるのか?正直言って形状が崩れたら聖剣の効果を失うと思うんだが。



「ついて来な。百聞は一見にしかずって言うシな。」



そうやって言われるまま、俺はこの女について行った。






==========






冬が近いというのにここは妙に暑苦しい。周りからは鉄の打つ音が響き、それが絶え間なく聞こえてくる。ここはグレゼリオン学園が誇る鍛冶場。ありとあらゆる道具が揃っており、ドワーフもたくさんここにいる。そんな中でも角の方に俺とこいつはいる。



「聖剣ってノはその時の鍛治王が、そいつに合った形にいつも変えてンだよ。」

「だけど、抜く時はいつもこういうロングソードなんだろ?どうなってんだそれ。」

「それを基本の形として形状が記憶してんのサ。台座に差し込んだら戻るようにナ。」



ほう。だがまだ色々と疑問点があるぞ。



「だが聖剣にそういうのを刻むとするなら、溶かしちまったらそれごと消えんだろうが。」

「それが聖剣が特殊な理由なンだよ。初代鍛治王が概念を加工して、植え付けたンだよ。」

「ほう。無の加工ってのはそんなのもできんのか。」



というか最近俺の周りにインフレしてる奴が増えてる気がする。このままじゃ全員に追い抜かされそうで怖いんだが。



「まア、そこらのヤツじゃあそもそもこれを望む形に変えることすらできねエだろうよ。」



そう言って金床の上に置いてある聖剣を叩く。



「先に言っとくがよ。正式な国からの依頼だから、お前に拒否権はないゼ?」

「分かってる分かってる。じゃなきゃ俺が勇者だってことも知らねえだろ。」



これは関係者を除き秘匿されている。緊急時以外、聖剣を人前で使うことは『まだ』禁止されている。だから精霊界の一件以降、聖剣を抜いたのはオセとの戦いぐらいだ。それを鍛治王とはいえ、知っているのはおかしい。つまり国直々になんらかのお願いごとをしたのは間違いない。



「それに、このタイプの剣は使いづらくて嫌なところだったんだ。」



俺は今まで木刀を使っていた。決して木剣ではない。木刀は木剣とは違い、反りがある。これだけでも武器としては大きな違いだ。更に言うなら相手を斬る際や、突き刺す時にあまりにもこれは太過ぎる。あんまり使わないとはいえ、使いにくい剣をわざわざ持つのも嫌だし。



「じゃあ、どんなのがイイんだ?」

「日本刀」

「ニホントウ。刀か?」

「いや、違う。日本刀だ。」



日本刀は日本独自の製法で作られている。だから海外の刀と一緒にはできない。そんなこだわりがないなら別に気にしなくてもいいんだが。



「……よくわかンねえけどよ、このオレに作れねえモンはねえ。どんなモンなのか知ってンだろ。」

「製造法まで一通り。」

「なら問題ねえよ。オレがテメエの望む最高のニホントウを作ってやる。」



それは頼もしい。



「なら最後に一つ聞きたいことがあるんだが。」

「なんだ。言ってミな。」

「名前、教えてくんね?」

「……しまんねえなあ。」



名乗らないお前が悪い。

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