16.一つ目の夢想
俺の眼が、書き換えられる。白と黒の眼が、そのどれでもない金色の眼へと。眼の中には幾何学的な、円がいくつも組み合わさってできたような模様がついている。自分の眼なんて見えないはずなのに、分かる。そして理解できる。これが、何なのか。
「跪けッ!」
その一言と同時に悪魔はその体を下ろす。重力を完全支配で支配した。あいつの周りだけ。
「全てが、見える。」
全てが見え過ぎる。全く比喩表現でもなんでもない。今までゴーグルをつけて過ごしていたような気分だ。
GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
呻き声が聞こえる。必死に踠き、重力から逃れようとするが意味がない、その分だけ、俺が強くすればいい。
「それだけの!魔力がどこに!」
ああ、確かに普通なら足りないだろう。しかし、愚王の黒眼の能力に『視界に写る』全ての生物の力を奪い、魔力に転じる力がある。それの応用。世界そのものを視界に移せば、全生物から魔力を手に入れられる。それが例え微量だったとしても、何百億を優に超える生物から集めればそれは途方もない魔力となる。
「『人智超越せし神眼』」
夢想技能に分類されるスキル。神をも越えるスキルが伝説技能なら、夢を実現させるのがこの夢想技能。そして俺の人智超越せし神眼の効果は、全てを見通し、そして俺の能力の全てを最適化させる力。百を越える魔眼の全てを自動発動させ、霊槍『アランボルグ』の魔法発動の力とリンクさせれば自動で魔法を発動させる。
「さあ。」
俺の周りにはいくつもの宇宙の原初が小さい球状で俺の周りを回っている。
「無限に、死ね。」
そして真っ直ぐオセへと打ち込む。オセももちろん妨害しようと体を変質させ武器を飛ばしたりするが、その全てを俺の両眼が防ぐ。今までとは手数が違う。これこそが、本来の、愚王の黒眼と神帝の白眼の力。無数の魔眼と、それを扱う魔力を世界から集め、全てを支配する力で突破口を作り出し、勝利への未来を選び取る。これが俺の、俺だけに与えられた両眼の力だったのだ。
「帰ろうぜ、ジン。」
「……ああ。」
既に振り返る必要はない。勝負は決した。俺の両眼もいつもの色に戻り、ジンも聖剣を仕舞っている。後ろから爆音と化物のような叫び声が聞こえるが、決して振り返ることはない。
「やっぱアクト。お前はすげえよ。」
「勇者に言われても凄みを感じねえんだが。」
「勇者なんて、誰でもなれる。だけど、自分になれるのは自分だけだ。お前は誰よりも、自分が思う自分を貫き通したんだからな。」
こんな戦い、学園長に任せてしまえば俺らは必要なかった。その戦いを俺が選択した理由は、父親の思いを、他ならぬ自分で成就させたかったから。
「お前以上の親孝行ができる奴が他にいんのかよ。」
「これは、親孝行じゃねえよ。」
マイナスが、ゼロになっただけ。ただそれだけの事なんだ。
「これからが、親孝行なんだよ。」
ここは、ずっと昔に決意した地点。絶対に通らなくてはならない道だった。
『レベルが上がりました。』
今度は、確かに達成感を持って俺たちは王都へと帰った。
「夢想技能とは?」
人が思い続けることによって発現する、思いの結露。レベル1だろうがなんだろうが、それが本当に死ぬほど思うものなら夢想技能となる。
「人智超越せし神眼とは?」
神帝の白眼と愚王の黒眼のスキルを完全最適化させ、自動的に発動させることが出来る。例えるなら計算式を暗算ではなく、電卓でできるようにするという風な感じ。更に霊槍『アランボルグ』にリンクさせ、魔法の自動発動も可能。色々なことが同時にできるようになったので、強さとしては2、3倍ぐらいに跳ね上がるんじゃないだろうか。




