15.追いつくために
ジンに洞窟の外に運び出され、今は洞窟があった山の麓にいる。
「終わったな……」
俺は感慨深くそう呟いた。
「帰ろうぜ、ジン。母さんが待ってる。」
そう言って槍を杖代わりにして、歩いていく。しかし、ジンは着いてこない。
「アクト。」
「何だよ。もう結構体も辛いし、帰ろうぜ。」
「いや、何気ない疑問なんだよ。」
そう言いながらジンは手にある聖剣は構える。
「『極光之英雄』」
「おいどうしたジン。何でそんな……」
「取り敢えず、後で説明する。」
ジンの魔力が昂るのを感じる。
「アクスドラ。後一回はいけるか?・・・ならいい。どれだけ人が汚そうとも、星の美しさは潰えぬ、それは決して侵されぬものであるが故に『純真星』」
魔法による結界が張られる。薄い白色であり、まるで白い膜のよう。見るからに強力な魔力が籠もっていると分かる。ジンが確か言っていたはずだ。自分の魔力のほとんどを使う全天魔法。越位魔法である全天魔法は最強級の力を誇ると。
「おいアクト。」
何故ここで最強級の結界魔法を使ったのか。何故、そこまで警戒しているのか。俺がそんな疑問を呈すより先に、ジンが言葉を発する。
「レベルは上がったか?」
「ッ!!!」
そうだ。だから、だからあんなにも現実感が無かったんだッ!いつも、強敵と戦った後はその成果があったというのに!今回はなかったから!だが上がらないという風な方があり得ない。それはつまり!
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!
咆哮が響くと同時にさっきの何倍もの大きさの豹が結界にぶつかる。それは、間違い無く悪魔。『無意識の変質』のオセであった。
「絶対に許さんぞ!その肉の欠片一つも残してなるものか!」
勝てない。そう本能的に認めてしまうほどの圧力を感じる。怒りが、枷を外しているのだ。
「アクト。」
逃げなきゃ。勝てるはずがない。戦えるはずがない。その眼前に立てるはずがない。俺なんかが。
「俺が、やろうか?」
「ッ!!」
反射的に『頼む』と言いそうになるのを抑える。それは、超えてはならない一線だ。俺がやると言ったのだ。それを、ジンですら勝機が決して高くないはずなのに任せるなどとあってはならない。
だが、怖くて『俺がやる』という一言さえも、簡単に喉から出てこない。無意識に後退りしている。心が既に負けている。理性は戦えというが体は無理と大声で言っている。
「ッ!ァ!!!」
戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。俺は何のためにここにいる。自分の信念を貫き通すためだろう?なら、ここで臆しちゃいけねえんだ。汗が止まらない。怖くてたまらない。
自分の信念を貫き通せないことが嫌だ。母さんを自分の手で救ってやれないことが嫌だ。だけど、何かそうじゃない。上手くはまらない。
「今のお前じゃあ、ちょっと荷が重いだろ。」
カチッとはまる感覚があった。
そうだ、
俺は何よりも、
こいつらに置いてかれたくないんだ。
「どけッ!ジンッ!」
俺は自分でもこんなに大きな声が出るのかってぐらい大きな声で、前に出ようとするジンを止める。そして俺が前に出る。
「俺が相手だぜッ!オセ!」
ここでジンが戦えば、俺は永遠に追い付けない。ここで踏み出さなくちゃ、絶対にジンに並べない。だから、俺が、ここで前に出なくちゃいけなかった!
「やっぱ、そうだよな。」
ジンの呟きも、もう聞こえない。ここにいるのは、俺とオセの二体のみ。
「もっと飢えろ。」
もっと求めるんだ。まだ、足りない。未来見て、全てを支配してもまだ足りない。
「もっと先の!」
もっともっともっともっと!未来をッ!
「結界を外すぞ!」
その言葉と同時に結界が消え、ジンがその場から離れる。
「全知をッ!」
その動き、その力、その全てを見通す力をッ!
「全てを知り得るためにッ!」
『夢想技能を取得しました。』
こういうのが、書きたかった。ジンだけでなく、アクトも、シルフェードも、エースも、シンヤも。俺が思いを込めたキャラクターの全員が主人公になれる話。あくまでジンはその中でもメインなだけの。




