13.霊槍
「覚えていきな。」
俺は槍を悪魔に向ける。俺が持つ白き槍はカタカタと震え、悪魔を射殺さんとしている。
「俺の名はアクト・ラスだ。」
「いや、覚える必要はない。」
その言葉と同時に俺の足元の岩が変質し、俺の体を貫く。内臓が抉れ、血が体から吹き出す。
「実に他愛ない。次はお前だ勇者。どうやら私の力を侮っていたのではないか?」
「いや、何も問題はない。寧ろ侮ってんのはてめえだ。」
そういう、幻術を見せた。
「らあっ!」
頭を潰し、即座に次々と連撃を喰らわせる。悪魔は魔力生命体。その魔力が尽きた時に死ぬ。しかし、逆に言うなら尽きるまでは死なない。
「くそっ!おのれ!魔眼か!?いや、その両眼見た覚えがあるぞ!」
「やっと気付いたか!クソ悪魔がよッ!」
槍を大きく振り、悪魔を洞窟の壁へと吹き飛ばす。
「なる、ほど。その槍は父のものか。覚えがあるぞ。この私に一矢報いた男だ。」
「案外覚えてるんだな。数え切れないほどこんなことを繰り返したきたくせによ。」
俺の父は、悪魔にただただ殺された。しかしそれが無駄死にだったわけがない。親父の思いは俺に勇気をくれた。誇りをくれた。そして、この槍を託してくれた。
「ああ、お前の母親は特に絶望していたからなあ。今でも覚えているぞ。愛する人を失い、自分に永遠の呪いをかけられた!あれほどまでに美しい絶望の顔はほとんど見なかったぞ!」
俺は槍を強く握る。槍は青白く発光し、魔力が満ちる。
「……もう、切れねえよ。てめえがどれだけ俺が煽ろうが、もうこれ以上腹が立つ事はねえよ。」
更に槍を強く握る。自分の手から血が出るほどに。
「もう、これ以上ないほどブチ切れてんだからよッ!」
俺の持つ槍はとあるダンジョンの最下層にて親父が手に入れたもの。膨大な魔力が何年にも渡り蓄積されたことによって変質した槍。
「穿てッ!霊槍『アランボルグ』ッ!!」
その名を叫ぶと同時に地面を蹴る。それと同時に自動で魔法が発現する。ありとあらゆる属性で形作られた槍がいくつも悪魔へと降り注ぐ。そしてその中を突っ切って悪魔へと槍を突き刺す。
「黙って喰らってやると思うなよ!」
「だろうなッ!」
潜るように悪魔は岩と一体化し、そして背後の地面から出現する。
「視えてんだよ!」
その出現ポイントへと迷わず槍を穿つ。予知の魔眼の力だ。悪魔の腕と俺の槍がぶつかり、俺と悪魔が同時に距離を取る。
「霊槍『アランボルグ』。イメージした瞬間にありとあらゆる魔法を出現させられる神器の域に存在する武器。別名『魔法神の槍』。」
「よく喋るな!」
地面から土が這い出て、悪魔の体を縛り始める。
「しかしこの武器は私の権能、『変貌』と相性が悪い。」
縛っていた土はボロボロの炭になって地面に落ちる。魔力は抜け落ち、まるで別のもの変えられたように。
「知っているか?『無意識の変質』と、人は私を呼ぶらしいぞ。」
「ッ!」
いきなり、まるで転移したかのように悪魔が目の前に現れる。土の壁を展開するが、全てが即座に炭となって崩れていく。
「誰にも認知されず、痕跡を全く残さずに全てを変質させることができる。体を地面へ変質したり、武具へと変質したりな!」
その手は気付かぬうちに大きな斧のようになって俺へと振り下ろされる。このサイズとスピード。当たれば確実に致命傷となる!未来を視て、回避を選択する。しかし斧は当たった。
「そして、それは予知させる未来と違う未来に変質させることもできる。」
俺の視る未来と全く別の動きをしてきたが故に、避けれなかった。肩から腹にかけて大きな切り傷がついている。
「ァ、ヴァッ!!」
「その黒き眼も私の変貌の力を使えば効きはしない。」
ヤバい。
「どうした。絶望したか?自慢の両眼が全く私に効かないと聞いて。その顔を私に見せてくれたまえ。」
そう言って悪魔は近付いてくる。ああ、ヤバい。笑みを抑え切れない。
「アランボルグは別に切り札でもなんでもねえ。」
「ァ?」
悪魔の頭を俺の槍が貫いている。
「確かに覚醒されてない両眼なら全く効かなかっただろうよ。」
悪魔の頭から槍を引き抜き、氷の魔法で凍らせる。まるで信じられないようなものを見るような目でこっちを見る悪魔を見て、さらに俺は笑みを深める。
「伝説技能の覚醒によって、新たに目覚めた力は。お前の権能なんざ受け付けない。」
傷なんて一切ついていない。悪魔が見ていたのは俺の幻影なのだから。
「どうだ?笑えよ。」
そう言って、俺は氷を砕いた。
ここら辺書いててすごい楽しいんだよね




