11.4代目勇者の英雄記 後編
「アクスドラ。どれくらいまでなら魂を削れる?」
『魔力補充なら21回分ほどだな。』
歩き始めると同時に、停止した世界が動き始める。4代目勇者の姿は気付けば掻き消えていた。
「なら10回分残して、部分的に出てこい。」
『了解した。』
アクスドラが俺の体から出てくる。苦痛が走るが、我慢するしかない。初めて出てきた時とは遥かに小さい、具体的に言うなら一軒家の家より少し小さい程度の黒い竜が出てくる。
「好きに暴れろ!俺も暴れるからよ!」
アクスドラが飛び立つと同時に駆ける。加速を使い、即座に王都の王城の天辺に着く。
「全国民に告ぐ!」
そして叫ぶ。魔法を使って、より響くようにして。
「勇者の権限を持って王城内に避難することを許可する!また、腕のある人間は王城のみの警備に当たれ!逃げ遅れた奴は俺が拾う!国王は王城を中心とした緊急結界を発動せよ!」
こう言う場で必要なのは迅速で的確な指示。ゆっくりと素早く、確実に聞こえるように話しながら。
「繰り返す!勇者の権限を持って王城内に避難することを許可する!また、腕のある人間は王城のみの警備に当たれ!逃げ遅れた奴は俺が拾う!国王は王城を中心とした緊急結界を発動せよ!」
その言葉を最後に、地面に降り立つ。一歩、二歩と歩く度に速くなる。そして戸惑う住人を全員王城の土地内に運んでいく。王都内に入ろうとする悪魔はアクスドラと俺で対応する。
「魔力補充ッ!」
『把握した。』
悶えたくなる激痛と共に体に魔力が満ちる。後、9回。
「我こそが星を束ねるもの!その総ての力を余さず我に捧げよ!『究極星』」
再び全天魔法を使う。体を光が覆い、薄く体を纏う。体に力が満ちるのを感じる。
「遅過ぎるぜ!」
一太刀で一、十、百、千。その数を超える悪魔を薙ぎ払う。
「幾万もの星よ!我が敵を葬るがよい!『滅亡星』」
天空に形成される魔法陣を見ながら走る。
「さあ、蹂躙しようか!」
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信じられない。そんなこと、できたのか?ああ、確かに確認すらしてなかった。何故なら僕は今まで、選択しかしてこなかった。何かから一つ選ぶことだけをやってきた。選ばないという選択肢なんて存在しないし、全部やるなんていうのもあり得なかった。
だが、どちらにせよ。地獄のような苦痛であるはずなのに、何故あれほど平然に走っていられるのだ。何を、何が、彼を動かしているというのだ。
「あ」
そこでフッと気付いた。そうだ。彼は友人のために命を賭けているのだ。友のために。この戦いは民を救うための戦いだと彼は捉えていないのだ。友を救うために、僕に認めてもらうための戦い。
そりゃあそうだ。友を守るためには、人間の敵は滅ぼす対象になる。彼は間接的に世界を救うだけなのだ。友を守るためには魔王を倒すつもりなのだ!
「これも、正義なのか。」
自分が見つけられなかった正義の姿。それが目の前にあった。世界を救うために親友を生贄に捧げた僕とは違って、彼は友を守るために世界を救っている。
ああ、
もしかしたら僕は、
こういう風になりたかったのかもしれない。
『全天魔法』
極光属性で使うことができる最高位魔法。階位魔法を超えた越位魔法に分類される。
多分、これが今年最後の投稿だと思いますので
良いお年を




