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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第4章〜晴らせぬ罪〜
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10.4代目勇者の英雄記 中編

正義、とは。それぞれの価値観によるものだ。だからこそ決して人の正義を否定することはできない。しかし当代の勇者、ジン・アルカッセルには正義がない。正義を為すのではなく、信念を貫いているのだ。これは大き過ぎる違いだ。


正義とはその人にとっての良い行いであり、正義を為すというのはそれを全力で遂行することだ。そこに私情など一切挟む余地なく、個人の欲望は一切優先されない。


ジン・アルカッセルは、ただ自分のためにしか戦っていない。人のために戦うのではなく、負けず嫌いだから、人の上に立ちたいから。故に英雄になろうと努力する。彼は元来、人がどれだけ苦しもうが、知ったことではない。友人であるなら助けるだろう。しかし、それ以外は決して助けないだろう。


なら何故、ジン・アルカッセルという少年は人を助けるか。人に褒められたいのだ。酷く未成熟な精神であり、人間なら誰もが持つ自己顕示欲が強い。それこそが当代の勇者。



「認められない。」



道端でゴミのように倒れている子供を見ても、先に『助けた方がいいかなあ』という世間的にどうなのかを考えてから行動に移す。



「認められるはずがない。」



だからこそ、試練を課したのだ。彼の思う偽善は勇者に並び得るものなのか。覚悟を知りたい。その命を失いかねない覚悟があるのか。彼が今、打ち込んでいる『滅亡星(アクルックス)』を見ながらそう思う。



「さあ選択を迫ろうか。」



僕は遥か上空から、当代勇者のもとへ体を動かした。






==========






一面に広がる悪魔の大群。こんなのが昔の時代来ていたのか、と恐怖を感じつつも聖剣を構える。



「アクスドラ。打開策はあるか?」

『……我輩が戦えば犠牲者をほぼゼロに抑えられるであろう。もちろん、その体の何を失うかもわからんがな。』

「魂が潰れるレベルかよ。」



アクスドラはまだ実戦使用可能な範囲ではない。どの能力を使うにしても、魂がその余波で潰れかねない。さて、どうしたもんか。



「……これは試練だと言っただろう?」

「ハハ。なんとも律儀なもんで。」



世界は停止する。悪魔の動きも、大気の動きも、ありとあらゆる動きが停止する。この世界で動いているのは、たった今空から降りてきた4代目勇者と俺のみ。



「四つの選択肢が、お前にはある。」



そう言いながら俺へ4本指を立て、突き出す。そして淡々と言葉を発する。



「一つ目は実力で全てを蹴散らす。可能性は低いが、上手くいけば犠牲をゼロにできる。」



嘘つけ。隙を突かれて俺が死ぬ可能性しか見えねえよ。



「二つ目はその悪魔から魔力供給を何度も行い、さっきの魔法を連発すること。まあ廃人になるのは確実だろうな。」



悪魔の魔力を人間に垂れ流し続けたら俺が死ぬのは当たり前だ。



「三つ目は王都を捨て、住民の命を守る。幸い悪魔は王都の制圧以外を狙っていない。命は守れるだろう。」



国の中枢を悪魔に支配されてこれから上手く回る国なんてねえよ。



「最後はお前の体の一部を悪魔に捧げて、悪魔に滅ぼしてもらうかだ。」



これから先、俺の体が少しでも動かないのは困る。五体満足でないとできないことがありすぎるんだ。



「さあ、どうする?」



……ふむ。少なくとも俺は第五の選択肢など出てこない。というかあるんだったら既に行動に移している。この男が言った案以外はそもそも出てこない。



「……これだから『半端な天才』は。」



しかし、残念ながらこの程度で躓くようなら俺は『天才』と戦おうなんて思っていない。俺は一つの人生で、誰よりも近く、長い間あいつの偉業を見てきたんだ。やることは、既に決まった。



「てめえらはよく選択したがる。どんなことでもイエスとノーではっきりつけたがる。それが駄目なんだよ。だから一番になれない。だからこそ、『完璧な天才』の足元にも届かねえんだ。」



これは俺が一生涯かけて学んだこと。俺があいつを見て、一番最初に学んだこと。



()()()()()()()()()()。」



ああ、正にシンプルで一番誰もが思うことなのだ。



「昔、とある漫画にこういうことが書いてあってね。『どちらか一方しか助けられないとき、母親を助けるか恋人を助けるか』というものだ。」



どちらか一方しか助けられないと定義されていながら、俺の幼馴染はこう答えた。



「『両方助ける』俺の親友は、そう答えた。」



クククと笑う。ああ、その通り。前提条件を全部無視している。どっちかしかできないと言っているくせして、どっちも助けると言うのだ。矛盾している。しかし、だからこそあいつは成長した。



「目に見えること全部やらなくちゃあ、天才にはなれないらしいぜ?」



俺は唖然として動きを止める勇者を背にして、聖剣を再び握り直した。



「見せてやるよ。お前のしたかったことを。」



大胆不敵にそう笑みを浮かべた。

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