9.4代目勇者の英雄記 前編
聖剣は2代目勇者から9代目勇者の全ての魂を、その剣に封じ込めている。魂には部屋があるというのなら、その中には九つの部屋があるというわけだ。その中でも会議室は聖剣の擬似魂魄となっている。人工的に作り出された勇者が物事を決定するための特別な部屋。唯一全員が自由に出入りできる部屋である。
そして、生者である当代の勇者。つまり今回でいうなら10代目勇者であるジン・アルカッセルは一つの特権を持っている。それは、全ての部屋に自由に入れる権利だ。といっても入れるというだけで、その先は保証できない。他人の魂の部屋に入れば、それは殺されても文句が言えないだろう。魂の部屋というのはそれほど、人の全てに関わるものなのだ。
「やはり、来たか。」
そしてここは4代目勇者の部屋。ジン・アルカッセルと、椅子に座っている4代目勇者が相対している。
「聖剣の中から外は覗けるからね。来るのはなんとなく分かっていた。」
「なら、要件も分かるだろ?」
「そりゃね。」
ジンは4代目勇者の名を使う権利を得に来たのだ。真名を使えれば、その勇者の力を限定的に行使できる。4代目勇者は立ち上がり、懐から銃を取り出してジンに向ける。その銃は体の色と反して、真っ黒に染まっている。
「だけど、それとこれとは話が別だ。僕がお前に名前の使用許可を出すには、お前を心の底から認めなくちゃならない。正直言って、僕はお前が嫌いだからね。」
「まあ、そうだろうな。」
「だからこそ、試練を出そう。お前が僕に認められるだけの正義を持っているか。」
4代目勇者は躊躇いなくジンの眉間へと引き金を引いた。静かな部屋に、銃声が響く。
「歴史にも残っていない僕の名を知ろうとするんだから、それぐらいの代償はつきものだろう?」
==========
4代目勇者は勇者の中でも異端と言うに相応しいだろう。歴史上から全ての自分に関するデータを消し、名前も、出身も、顔すらも現在まで残っていない。残っているのは勇者としての活躍と、その行使していた能力。その能力が今回必要だった。まあそしたら銃で撃ち抜かれたんだが。どうやら、死んだわけじゃなさそうだ。
「森の中、か。」
試練を出す、と言っていた。ならば恐らくこれが試練であるはずだが、俺は何をすれば良いんだろうか。
「……悪魔?」
俺は空から羽音が聞こえるのに気付き、上を見上げる。するとそこには何体もの悪魔がいた。こんなに沢山の悪魔が魔界ではなく、この世界にいるのか?おかしい。それにこの魔力反応は、まさか!
「なるほど!そう言うことかよ!」
勇者と悪魔は対になっている。今まで9代目までの勇者がいたように、9代目までの魔王が存在するわけだ。そして4代目魔王こそが、悪魔の魔王。七十二柱でないというのに、それに匹敵する力を身につけた最強クラスの悪魔。そして、その悪魔の軍勢はもちろん悪魔だった!
「こんなの、どうすりゃいいんだよ。」
俺が見たのは王都バースを襲う悪魔の大群。全て上級悪魔以上。これは4代目勇者の物語の追憶。過去の大戦を俺ならどうやって解決するかを問うているのだ。しかし、どう考えても一人で打倒した数ではない。たしかに文献にもこの戦いは残っている。しかし、肝心な4代目勇者がどうやってこの戦いを打開したかは一切述べられていない!
「無理ゲー過ぎるだろっ!」
これで、死者を千名以下に抑えたっていうんだからな!
「無名流奥義六ノ型」
取り敢えず走り、悪魔を斬る。打開策は殺しながら考えたらいい。
「『絶剣』」
法則を無視したその刃は、いくつもの悪魔に刃が当たったという結果だけを生み出す。
「チッ!手刀じゃあ思うように斬れねえな!」
あんまり頼りたくはねえが仕方ねえ。木刀がないんじゃあどうしようもない。
「顕現せよ!『希望へと続く一振りの星』」
虚空に光が集まり、迷いなくその光を掴み取る。するとそこには一振りの剣が握られていた。
「『極光之英雄』」
それが悪しき行いでない事。
「幾万もの星よ!我が敵を葬るがよい!『滅亡星』」
極光属性最上級魔法、全天魔法の一つ。天空に極大の魔法陣が形成され、そこから発生する数多の強力な光線が対象を絶滅させる。対団体において強力な力を持つ魔法。
「ッ!カァッ!」
俺は口から血を吐く。魔力が足りるはずがない。そのツケが体に回ってきたのだ。取り敢えず、今の大群は全部吹き飛ばした。しかし、しかしだ。どうやってその次を倒す。
「勘弁、してくれよ。」
俺の視線の先には、更に万を超える悪魔の大群がいた。
どうも意図せずテンポがクソ早くなる。やっぱ文才ないんだなあ。




