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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第4章〜晴らせぬ罪〜
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8.アクトの信念

人の魂の中には『部屋』がある。己の性格やスキルなどを具現化した部屋が。そして、己が成長するためにはその心の部屋の全容を理解する必要がある。それこそが伝説技能レジェンドスキルを覚醒させる方法。それが戦いの中で理解するのか、修行や研鑽の日々でふと目覚めるのかは分からない。しかし確実に言えることは、己と向き合わねば強者には成り得ないということである。


そして、少なくともアクトが選んだのは後者であった。


アクトがその心の部屋を見渡す。その部屋はとても綺麗で、いくつかの家具と槍があった。唯一普通ではないことは部屋の半分を境に、床や壁の色が黒と白に分けられているという点だ。それはアクト・ラスという人間を色濃く表していることは安易に想像できた。



「……この部屋か。」



そして、アクトが向かうのはその先。二つの扉の前。黒一色で染まった扉と白一色で染まった扉の二つがある。アクトはまるでその二つの扉が見えないかのように、あまりにも自然にその間にある壁を触れた。するとそこに扉が形成される。ここは心の空間である。二つ扉があるということは自分の中でそれを分けてしまっているということ。自分を受け入れる上で、それら全てをまとめて自分個人であるということを常に意識せねばならない。これから戦うのは決してて敵ではなく、いわば自分自身なのだから。



『よお。随分と久々に俺たちを見たなあ。』



その扉の先は、歪だった。天井には白い眼が、床には黒い眼がある。黒と白が入り乱れ、見てるだけで気持ち悪くなりそうな部屋。そしてそこには全身が黒く染まった男と、全身が白く染まった女がいた。両者とも冠を被り、マントを身につけている。



『好き勝手に俺たちを使うくせして、てめえは俺たちが嫌いだからなあ。』

「だから、ここに来たんだろうが。」



アクトは槍を構える。否、正確に言うなら槍の構えをとった瞬間に手元に槍が現れる。



『ここのルールを誰かに教わったようね。』

『ああ、できれば自分で気付いてくれんのがパーフェクトなんだがよ。』



女が手をアクトに向けると同時に光の刃がいくつも形成され、アクトを襲う。アクトは悠然とそれを弾く。



「俺は確かにお前らが嫌いだぜ。お前らさえいなければ、両親も死ななかった。力こそなかったけどよ、幸せな生活を送れただろうよ。」

『キハハッ!それも含めててめえらの努力不足さ!この世界に不条理なんていう概念は存在しねえ!てめえらが勝手にそう思い込むだけでよ!』



男はその拳で槍を掴み、顎を蹴り抜く。しかし吹っ飛ぶことはなく、そこでアクトの体は宙で停止する、



『『悠然たる一撃ディスティニースマッシュ』』



そして腹を貫くように男の手がアクトに突き刺さり、そしてそのスピードからは有り得ないスピードでアクトは吹き飛ぶ。壁にぶつかり床に落ちるが、壁は相当丈夫なのか傷一つつかない。アクトは槍の柄を下に、杖代わりにして立ち上がる。



「んなこと、もうとっくに知ってんだよ。俺は自分の心に折り合いをつけにここに来たんだからな。」

『なら、口を使いなさいよ。なんで腕っ節で全部示そうするのかしら。』

「なら、黙ってお前ら俺に従ってくれんのか?」

『……フフッ!確かにそうね!』



女は両手を再びアクトに向け、いくつもの光の刃を放つ。



「うぐっ!」

『だけど、仕方ないじゃない?私たちを手に入れたのは偶然。貴方の自己研鑽の果てではないのよ。私たちがいなかったら、貴方はただの槍が上手いだけの人間なんだから。』



まるで吸い込まれるかのように光の刃は次々とアクトに突き刺さる。その動きの全てを知り得ているかのように。



『諦めようぜ?正直言っててめえじゃ俺らにゃかなわねえ。』

『いくら急いでいても、まだ全然足りないわ。貴方じゃまだ私たちの所有者として認められない。』



本来、伝説技能レジェンドスキルの覚醒はそう難しい話ではない。人によっては取得した時には既に覚醒したということもよくある。その理由は覚醒への条件が『スキル』に資格者として認められることなのだ。ジンの英雄剣術グラングレイルであったのなら、そこまで苦労はしなかっただろう。果てしなき研鑽の果て、聖剣を手にしてようやく至った武の境地。スキルは呆気なく認めたはずだ。


しかしアクトは違う。生まれつき持った力であり、生まれつき憎んでいた力。アクト個人をスキルは認めない。何故なら他者とは違い、なにも労せず得た力だからだ。その弱さを知っている。事実、彼からその眼を取ったらきっとそこらの冒険者にも負けるぐらいでしかない。



「けど、よ。」



アクトの体を貫く光を無視し、アクトは体を動かす。



「確かに、俺は弱いかもしれねえが。」



血が流れる。体は震える。全身は耐え難い苦痛に襲われているだろう。



「それでも、守りてえもんがあるんだ。」



彼の脳裏には常に母の顔がチラついている。そして意識すればそこには今まで会ってきた友人達の顔や、世話になった優しい人々の顔が出てくる。それらに支えられて、ここまで惨たらしくしがみついて来たのだ。



「この思いは誰にも汚せねえ。この想いは誰にも否定できねえ。この念いの美しさは、強さは、確かさは、誰もが知り得てることなんだよ。」



家族を守りたい。その一心で、全ての絶望に耐えよう。苦痛に耐えよう。その果てに幸せな世界(ハッピーエンド)があると言うなら。



「だから、頼む。」



そのためだったら、俺の誇りなんてものは石ころに過ぎない。だって家族ってのはどんな宝石よりも美しいもんなんだから。



「力を貸してくれ。」



アクトは地面に膝で立ち、深く頭を下げた。スキルに頭を下げるなど、普通は有り得ない。何故ならスキルとは使うものであり、人類はそれを扱うものなのだ。更に言うならば、心のどこかで憎んでいるものであるというのに。一体ここまで至るのに、どれほどの葛藤があっただろう。どれだけ自分を殺したのだろう。しかしここへ辿り着けたのはアクトの信念を象徴している。彼の美しく、純粋で直向きな念いが。



『……面を上げなさい。』



そしてその念いを、二人は誰よりも理解している。



『てめえの念いはしかと受け取った。』

『その信念は誰にも侵せない。美しいものだと思っちゃった時点で私たちの負けよ。貴方を認めちゃったんだもん。』



アクトを貫く光の刃は自然と消え、傷は癒える。



『ここもやっと綺麗になりそうね。』



気付けば一番最初の部屋に戻り、扉なんて元々なかったかのように消えていた。白と黒ではっきり分かれていた部屋も、今はその色が混じり、新たな色を生み出そうとしている。



『喜べ。愚王が認めたんだ。全ての美しさを知らぬはずの愚王が、てめえの美しさだけを認めたんだ。』



黒い男がそう言う。



『感謝なさい。神帝が認めたのよ。全ての美しさを知り尽くしたはずの神帝が、貴方の美しさはそのどれにも勝ると認めたんだから。』



白い女がそう言う。



『未来を勝ち取りなさい。』

『全てを支配しな。』






『『汝の行く先は既に示された。』』

いつも通りっ!小説を投稿しようとしたらっ!101話以降から分割されてたんだっ!なんか凄い感動したっ!

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