6.正体判明
夜中、図書室の中。紙をめくる音が微かに聞こえる。三人だけが図書室におり、俺以外は全員寝ている。
『疲れんのか、契約者よ。』
「愚問だな。元々何のためにお前と契約したか忘れたのか?寝る時間が勿体無かったからだぞ。」
睡眠欲を一時的アクスドラに預けることによって睡眠をせずに物事を進めることができる。体の疲れは回復魔法でどうとでもなる。本当に便利な世界だ。
「それに、友人のために全力でやんのは当たり前だろ。」
『フフフ。それを昔の契約者に聞かせたいものだな。』
「ぬかせ。」
昔の俺も友人は大切だった。ただ進むべき道を見失っていただけ。
「まあ、ここらが限界だとはそろそろ思ってたし、次やるか。」
俺の体から光が溢れ、意識が少しずつ遠くなっていくのを感じる。
「これは、俺にだけ出来ることだしな。」
意識はプツンと一度切れた。
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俺は再びあの場所に来ていた。白い大地が地平線まで続き、円卓を囲む九の椅子がある。今日は俺を含め、四人の人がいる。
「悪魔、ねえ。悪魔は俺の英雄記にはいない。悪魔とは見たことすらないからな。」
そういうのは2代目勇者ヴァザグレイ。唯一俺に姿を見せ、名前の使用許可を与えている勇者。
「見たことがあったとしても、悪魔の性格など覚えておらんよ!全て全力で戦い、叩き潰してきたのみだからな!」
そう返すのはとても大柄な男。身長は2mはあり、光で明確な姿は見えないが相当たくましい筋肉を持っていることがわかる。
「……しかし今回のは分かりやすいタイプだな。」
フードを被った勇者がそう呟く。
「僕は一度魔界に行った時、オセ、ビフロンス、ハウレス全員に会ったことがある。」
フードを外し、それと同時にその勇者に色が付いていく。真っ黒なローブを羽織っている白い目と白い髪の男。顔は若々しく、全盛期の頃の姿なのだろう。しかしその左目を包帯で巻いている。魂だけの存在であるはずなのに傷が存在するという事実に驚きを覚えつつも、次の言葉を待つ。
「ハウレスは契約をする際、呪うのではなく奪う。この左目のようにね。」
つまり、左目を魂ごと奪われたという事か?確かに魂を奪われたらその部分はもう戻らない。しかしその分魂を奪うというのは容易ではないはずなのだ。
「ビフロンスは怖がりだからね。人気が多いところで契約はやらない。」
「つまり、オセだと?」
「それしか有り得ない。やり口があいつらしい。」
そう言いながら男は少し笑う。
「誓ってもいい。四代目勇者の名においてね。」
「なら、信じよう。」
経緯がどうであれ、勇者の言葉は信用できる。俺がたとえ嫌いだったとしても、自分の信じる事を為す人間だ。
「おや、四代目。君が姿を見せるのかい?早かったね。」
「説明するのに都合が良かっただけだ。」
そう言って四代目勇者はフードを再び被り、また姿が白に染まった。
「正義を為すためならどんな嫌な事でもやるさ。正義は絶対的に執行されなければならないからね。」
「ハハハ!やっぱり君は嫌われているねえ。」
「まあ、正規じゃないからな。」
無理矢理聖剣をぶん取り、勇者になったのだ。多少恨みを買うこともあるだろう。
「それは関係ない。元より勇者という称号自体に価値はないからね。」
「じゃあ、なにが気に入らないと?」
「その考え方が嫌いだ。確か九代目が言っていたか?お前は偽善者ってね。正にその通りさ。しかし一番気に入らないのはそこじゃない。」
「随分と回りくどい言い方をするな。」
俺の考え方は一般人としてはいたって普通だ。周りの人が一番大切で、人として正しい存在でありたいから人助けをする。
「中途半端なんだよ。お前のそれはね。偽善者であるなら全力で偽善を貫き通すべきだ。そうじゃなきゃただのナルシストと変わらない。」
「それは失礼。なんせ忙しいもんで。」
要はもっと全力でより多くの人を救えってことだろう?嫌だね。確かに目の前にいる人は全員助けよう。大切な人なら死んでも助けよう。しかしその規模を全人類と欲張ったらきりがない。それは絶望を知るだけだ。
「だけど、俺は俺の生き方を後悔したことはないもんですから。」
そうやって再び意識がプツンと切れた。
気付けば百話。ちょっと百話記念に少し軽い設定を垂れ流しておきます。この世界において10というのを起点として全ての設定を作っています。
最大レベルも10、最大危険度も10、階位魔法最高階位も10。その他にも色々な設定は全て10という数字に統一しています。全てというには作者の技量が足りないのでできませんが、多くの部分を10という要素で作っているのです。




