0.全ての始まり
思いっきり王道なのが書きたかったんや。あんまりない王道の勇者が書きたかったんや。
1人の、1人の男の話をしよう。
彼は地球で生まれた努力の天才だった。
彼は人の万倍努力した。常にありとあらゆる知識、技能を集め、それを記憶し、人々から天才と呼ばれた。
彼には友がいた。唯一無二の友だ。その友は天才だった。友は完璧だった。しかし彼は完璧にはなれなかった。
故に彼は努力を続け、そして終ぞ届かなかった。彼はありとあらゆる分野にて優れた。スポーツ、勉学、商売、営業……全てにおいて一流だった。しかし友は全てにおいて頂点だった。
こうして1人の男が敗れた。
しかし話は終わらない。彼は再び立ち上がった。新たな異界にて。前世は全てを極めようとして敗北した。しかし今回は一つを極めると決めた。
ここから先は君が見るといい。他ならぬ君が見るのだ。誰よりも努力した男が、聖剣を手に入れ勇者になり、最高位の悪魔と契約し、最後には世界を救う。
そんな、『平凡な英雄記』を。
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季節は梅雨。毎日激しい雨が続く中、全てが始まった。ここはオルゼイ帝国の辺境の森。木々が生い茂り、魔物の鳴き声に紛れ赤子の泣き声が響いた。それは捨て子だった。痩せ細り、栄養が足りていない事が見るから分かる。明日になればもう鳴き声は消え、死んでいるだろうと予測できる幼い赤子。
「うん?」
子供には運命が味方していた。魔物のいる森に住むというあまりにも珍しい人間が、その森にはいたのだ。赤き唐傘を手に1人の男が赤子をしゃがみ込み見る。
「……嘆かわしいことだ。最近よく聞きはしたが、まさかこうして目にする事になるとは。」
男の持つ傘が赤子にかかる雨を遮り、男は片手で赤子を抱き抱える。しかし赤子は泣き止まず、大声で泣き続ける。
「これもまた縁、か。」
男が一言そう呟くと、そのまま歩き始める。これが始まり。全ての、これから生まれる『英雄』の根源である。これは誰よりも勇ましく、誰よりも自由で、誰よりも美しく生きた。そんな一人のちっぽけな人間の物語である。