本編3
世界に海藍国を滅ぼした悪魔、月草の復活の噂が流れ初めてから早3ヶ月がたった。
初めはいつ追っ手が来るのか、いつ月草の正体がばれてしまうかと気が気じゃない数日を過ごしていたが、あえて堂々としている三人をみて、自分だけビクビクしているのも馬鹿らしくなり、気にしなくなった。
今日も今日とて、堂々と立ち寄った食堂で目の前でいちゃついてくれてる月草と葵を遠い目で見る。
「どうした?桔梗。朝から死んだ魚の目して」
忍が桔梗の分のお膳を持って隣に座り顔をのぞき込んできた。
「まだぎりぎり乙女になんて残酷な一言を‥!」
桔梗は、忍にお膳を持ってきてくれたお礼をいい受け取りながら器用にテーブルを叩いて嘆く。
「?俺なんか悪いこと言ったか?」
解せぬ、という顔をしながら桔梗の奇行の意味を問うように月草に目をやる。
「女の子に死んだ魚の目はよくないだろう」
月草はくすりと笑って言った。
月草と葵の前には昼食時だが、お膳を持ってくる気配も食べる気配も全くない。
二人が何かを食べている姿を見たことがない。
水を飲んでいるのも。
それはしばらく一緒にいて気づいたことで、守人が皆そうなのかと思ったこともあったが、思い返せば、蘇芳はそうではなかった。
となると、この二人が特別なのだろうか。
二人は常に一緒にいる。
常に手をつなぎ(しかも恋人つなぎ。羨ましい)で寄り添っている。
まるで二人でいないといけないかのように。
「桔梗」
ぼうっとしていることに気づかれたのだろう。
月草に呼ばれてはっとして返事をする。
「は、はい!」
「今日は二人でちょっと出かけたいところがある。どうかな?」
「私と、つーさんで?」
「そう。」
「それは全然かまいませんが、、いいんですか?」
「あぁ。葵と忍も今日はやらなきゃいけないことがあってね」
「?」
男二人で出かけるのか?どこに?
という目で忍の方を見る。
「別に変なとこじゃないって、
ただ女人禁制なんだよ。」
「ハレンチ!」
「なんでだよ」
桔梗の奇行にも慣れきった忍は不満そうな桔梗の額を小突いて笑う。
桔梗は忍のその行動に萌え殺されかける。
「本当は3ヶ月前のあの日に終わらせてしまうべきことだったんだけど、タイミングが悪かった。今はもう気持ちも落ち着いただろうし、桔梗は強くなった。だからね」
月草は曖昧に言うと、桔梗と忍が食事を食べ終わるのを待って皆で外にでた。
「ではここで、気をつけて。」
月草が葵と忍にいう。
「そっちこそ」
葵が返事をする。
あ、葵さんの声二日ぶりに聞いた。
「桔梗も頑張れよ」
忍くんに頭をなでられる。
もう殺す気かこのイケショタ‥!
葵さんと忍くんと別れ、月草と2人で道を歩く。
意外とこの3ヶ月でもあまりなかったことなので少し緊張する。
そんな桔梗の姿に気づいたのかふと月草は笑った。
「この町外れからもっと森の方に進んだところに美しい滅びた神殿があってね。」
「はぁ‥」
滅びたから美しい神殿なのか?美しい神殿で滅びてひどいことになっているのか?
「古代の神殿で、エウルの民と信仰を同じにしていたから滅ぼされたんだ。」
「!」
月草はさっさっと歩きながら、説明をしていく。
「そこには昔、神を滅ぼしうる力を封じてあると言われていた。」
「‥神を滅ぼしうる力‥」
「しかし、どんなにそこを人が探し尽くしても誰も何も見つけることは出来なかった。」
「‥なかったって事ですか?」
「いいや、見つけきれなかっただけさ。
適応者じゃなかったから。」
「適応者‥?」
話をしているうちに随分と奥まったところにきた。
その滅んだ神殿に向かっていることはわかった。
そしてそこが近くなっていることも。
「印は適応者の前にしか現れない。」
月草は強く言う。
森を抜け神殿にたどり着いた。
本当に荘厳で美しい神殿が風化して滅ぼされている。人の気配などない。鳥と野生の動物の気配しかしない。
「あの印は君の前に現れるだろう。
むしろ君の前にしか現れない。」
そういって月草は自分がいるとそれは現れないと言わんばかりに桔梗だけを神殿の中に押し込む。
桔梗は訳の分からないまま神殿の奥に進む。
すると目の前に何かが現れた。
それが何かすぐにわかった。
(‥守人の印‥!?)
何故、守人の印が、、だって自分は神に相対する存在だ。
なのに神が作った守人の印が自分の前に現れるのか?
何かが頭の中に呼びかけてくる。
なにを言っているのか正直分からない。
要は力を与える代わりに使命を果たせといっている気がする。
(‥でもなぁ‥簡単に手を出して良いものじゃない気がするんだよなぁ‥)
手を出そうとしたり、引っ込めたり、それを五分ぐらいしてたら、守人の印がしびれをきらしたのか早くしろ!的なことを言ってきた気がする。
(いや、はやくしろって言われてもなぁ‥これで人生変わってしまうし‥)
正直なところ、3ヶ月前ならすぐにてを出していただろう。憎しみと悲しみと混乱から。
しかし、今はまだ考える力がある。
(‥止めとくか(笑))
と冗談で思った瞬間、印が怒ったみたいな感じにいい光り無理やり胸に入ってきた。
「うっきゃあぁぁ!うら若き女性の胸になに勝手に入ってくれてんの!!」
印はうるせぇ!的な事を言ったあと少しさまよった後左の鎖骨辺りに吸い込まれた。
「結局選ばせる気なんかハナからなかったんじゃないか!」
鎖骨に守人の印が刻まれる。
その瞬間自分の身を囲い光が溢れ出し、光の柱が空高く現れた。
それは新しい守人が現れたサインだった。