本編2
食堂に慌ただしく男性が入ってきた。
桔梗はその音にビクッと体を震わせてしまった。
「おいおい!!聞いたか!?
20年前滅んだ海藍国の悪魔が生きてたってよ!!」
その大声に人々が驚きの声をあげる。
「海藍国の悪魔って、海藍国を一夜にして滅ぼしたって言うやつだろ!?ウソだろ!?」
「今そいつが現れたって言う虎王国じゃあ大騒ぎだってよ!」
「虎王国ってここからそんな遠くないじゃないか!こっちにきたらどうすんだよ!」
「守人はなにしてんだい!?本当に私たちを守ってくれるのかい!?」
「今守人が挙って捜しているらしい!海藍国の悪魔“月草”を!」
その名を聞いたとたん桔梗は目を見開いた。
目の前の少女は笑って静かに、とジェスチャーを送ってきた。
月草の隣の美少年はつまらなさそうに欠伸をしている。
「つ‥さん」
桔梗が月草の名を呼ぼうとしたが憚られ、どもってしまった。
「そうだね、つーさんでいいよ。
私も桔梗も二日も寝てしまったから、噂が流れてきても不思議じゃないか。」
「本当‥のこと、なんですか??」
「‥どうかな‥。滅ぼしたってところは、正直私にはそんな力はないから否定しておくよ。」
月草は曖昧に悲しそうに答えた。
桔梗はそれでも、否定の言葉にほっとしていた。
「私の世間での評判はこんな感じだ。説明する手間が省けて良かった。」
「いや、あんまり良くないです‥」
月草のあっけらかんな言葉に桔梗はついつっこんでしまった。
20年前の話。しかし目の前の少女はどう見てもま20才行くかいかないか。それはつまり、
「つーさんも、守人ってことですか?」
「そうだよ。そして、葵も、‥忍は、」
「俺のことはいい」
忍はとっさに割って入った。
「そうか。まぁ男だから隠したいことの一つや二つあるか」
「変な言い方しないでくれよ‥」
「私も桔梗の身に起きた全ての事を知っている訳ではないんだが、エウルの村が襲われたときいたよ。その後、謎の男に殺されかけて、虎王国の友達で守人の人物に助けられたが、またそこで、別の守人に変な言いがかりをつけられて殺されかけた、ぐらいしか聞いてない。」
「だいたいそんな感じです‥。
つーさん。
何故‥村は、襲われたんでしょうか‥?」
桔梗が目を伏せ俯いて尋ねる。
「それは‥、エウルの民が、神と敵対する民だったからだろうね‥」
「‥え‥?」
「エウルの民は昔からその存在を狙われていた。
だから隠れ里をつくり、結界をはり、見つからないよう忍び生きていた。その様子だと、君はしらなかったんだね」
「‥知りませんでした‥」
「城の書斎で読んだことがあってね。
あまりに存在が見つからないから、エウルの民自体が伝説のような扱いになっていたけどね。」
「神‥って神様のことですか??」
「いないと思ってるのかい??まぁ、伝説の中の話ではあるんだが、伝説だと思っていたエウルの里が存在した。ならば、昔神と呼ばれた存在も確かに存在したんだろう?」
「‥そう、ですね‥」
「守人というのは、神がつくったと言われている。そして、色んな憶測があってね。どれもはっきりしたものは載っていなかったんだが、昔、エウルの民が神を滅ぼそうとし、その武器を持っていたために、神の怒りをかい、滅ぼされかけて、逃げ延びた先に神に見つからないよう里を作り、隠れ住んだと。」
「それが、伝説‥」
「そう、そして。君を殺そうとしたのもおそらく皆守人だ。神の、作った、ね」
「それは、私がエウルの民だから」
「おそらくは、ね」
「じゃあ、同じ守人のつーさんと葵さんは何故私を助けてくれたんですか?」
「俺は助けてないし。つーがそこの忍に泣きつかれて助けに行っただけ。」
桔梗の質問に気だるそうに葵が答える。
「おいおいおい泣きついてないっての!」
忍が慌てて否定する。
「撫子っていう守人は、私を世界に害をなすものって‥。」
桔梗が茫然と尋ねると、月草は少し皮肉を込めた笑みを浮かべた。
「それは彼女の常套文句だ。」
「‥‥‥」
「気にするな、といっても気にしないほうが無理そうだな。桔梗、これから君はエウルの民というだけで常に命を狙われることになる。
そこで、だ。
私は君を生かしたいと思うんだが、どうだろう?」
「それは、ありがたいんですが‥どうして‥?」
「いろいろ思惑はあるんだが、今は、君を殺させたくないからだよ」
「‥‥‥」
「桔梗。」
月草という人物を信じるかどうか決めかねていると、隣に座っている忍が声をかけてきた。
「悔しいけど俺だけの力じゃまた桔梗を危険な目にあわせちまうかもしれない。だから、俺が強くなって、ひとりで桔梗を守れるようになるまで、二人を信じてやってくれないか」
これまた男前な台詞に桔梗は腰が抜けそうになる。
「忍はホントにいい男だね」
月草が軽く笑う。
「わかった。つーさん、葵さん、宜しくお願いします!私も守れるだけは嫌なんで強くなりたいとおもいますのでご指導の方もお願いします!」
桔梗のセリフに一瞬呆気にとられた月草だったが、すぐに優しく微笑んだ。
「こちらこそ」
(美少女の微笑みの破壊力すごいわ‥)