第九話 桔梗9
桔梗は予感があった。
急いでこの場を離れなければ、大変なことになる。
撫子と蘇芳とわかれ、蘇芳の部屋に戻って急いで支度を始めた。
今回もほぼ荷ほどきをしていなかったのが幸いだ。
蘇芳にはなんと伝えよう?
行くあてがあるわけではない。
撫子から離れなければと本能が言っていると言ったところで、あの蘇芳の撫子への心酔をみれば無駄な事だとわかる。
焦りながら考えを巡らせていると、ふいに扉を叩かれる音がした。
ビクリと心臓が飛び跳ねる。
「‥はい」
桔梗が恐る恐る返事をすると、蘇芳だった。
「桔梗?まだ休んでない??
今の今で悪いんだけど、撫子が伝え忘れたことがあるから話がしたいっていってるんだけど」
冷や汗が流れる。
桔梗は断る口実を考えていた。
すると蘇芳とは別に荒々しい足音が聞こえてきた。
「撫子先生の兵??何故ここに?」
扉の向こうで蘇芳の声がする。
「賊に逃げられては困ります、我々が連行します」
「賊??何のことだ?」
「撫子様はその中の者を、世界に害をなす者と仰られました」
「なっ!?」
蘇芳のその声を最後に扉が荒々しく開けられ、桔梗は戸惑いのなか、兵に連れられ、虎王国玉座に連れて行かれた。
虎王国玉座の間に連行され、桔梗は兵たちに跪かされた。
後ろからついて来る蘇芳にも戸惑いの表情だ。
玉座には王が座っている。
なんという虚ろな目の王だろう。
その横に妖艶に微笑む撫子の姿がある。
しかしすぐに悲しそうな表情に切り替えた。
「撫子様。この者が、世界に害を成し、世界を滅ぼす者なのか。」
王が撫子に問う。
「ええ、悲しいことに私の占いにそうでました。
そのものは、滅ぼさなければなりません。
でなければ世界が滅んでしまう。
わかりますね?蘇芳?」
蘇芳は撫子の問いに肩をビクつかせた。
そして桔梗をみる。
おいおいおい。まさか、なんだその顔は。
桔梗は蘇芳に怒りを覚え始めた。
「先生‥本当に、桔梗が‥」
蘇芳が撫子の方をむき直して聞き直そうとしたが、撫子は悲しい表情で蘇芳を制した。
「私の言うことが信じられませんか‥?蘇芳?」
まるで涙を流しそうな顔を見せる。
その表情に王も兵も蘇芳も一気に動揺する。
「蘇芳!撫子様になんて顔をさせる!」
王が蘇芳を叱責する。
「申し訳ありません!撫子先生‥!」
ヤバい、この流れはヤバい。
どうにか逃げ出さなくては、
私はこんなところでは死ねない‥!
「蘇芳‥!」
最後の希望を込めて蘇芳のなを呼ぶ。
「桔梗‥」
悲しそうな表情で蘇芳がこちらをみる。
これは‥ダメなパターンだ。
蘇芳には期待できない。
なんとか‥なんとか逃げ出さなくては!
撫子がゆっくりと玉座から降りてくる。
そして剣を蘇芳に渡す。
「!?」
桔梗と蘇芳の驚きが重なった。
まさか‥!
「せめて、あなたの手で終わらせて差し上げなさい。蘇芳。
せめてもの救いです。」
蘇芳は茫然とその剣を受け取った。
「世界を救うためです。
世界を守ることが、守人の使命でしょう?蘇芳?」
「はい‥先生」
はいじゃないよ!!
桔梗は冗談じゃないと逃げ出そうとしたが、兵に押さえつけられては動けない。
このままじゃ殺される。
一体なんなんだ!!この間から!
こちとら善良に平凡に生きてた一般ピープルだっていうのに!!
「ごめん…桔梗‥、好きだったよ」
そういって、蘇芳の剣を握る手に力が入る。
もーもーもー!どさくさに紛れて告白とかやめてくれよ!!
桔梗はいろいろがピークになった。
そして撫子を睨みつけて叫んだ。
「ふざけるな!!全部が全部自分の思い通りになると思うなよ!!この若作り年増!!」
この瞬間、場が凍った。