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旅に出て、助けるのさ!

 自分のことを、わかろうとしてくれる人が世界に1人でもいるだけで変わる。

 大袈裟(おおげさ)だと思う?


 でも、それで困ってる人の未来が決まったり変わってくるんだ。

 こんな小さな僕が言うことでも、今まで、体と心で感じてきたことだからね。

 なんて不思議なことなんだろう。


 それは「普通の人」でも同じなんじゃないかな。自分のことを支えてくれる人がいると、困った時に話せるし、聴いてもらえるだけでも安心できるよね。いないと淋しくなっていく。


 ***


 人のことを理解するってのは、無理なことだと思ってる。

 理解するのを諦めるのとは反対の意味のつもり。


「理解できない」から、相手に近づいていくために話して聴いて、相手のことも聴いて話すんだと思う。

 思ってることは自分から出さないと伝わらない。よく聴かないとわからない。


 相手も自分も口からがいいけれど、無理ならメールや手紙、身振りや絵を描いたり。

「Yes」なら1回うなずいて「No」なら2回うなずくとか。それを目を閉じたり開いたりする仕草しぐさで表現する人もいるよね。


 そういうこともコミュニケーションの1つだと僕は思ってきた。

 誤解があったら「ごめんね」と言って、また始めればいいよね。

 わからなかったら、もう1度聞けばいいじゃないか。

 それが、すぐに出来ない時もあるけれど、後からでも遅くないことだって僕は感じてきた。


 ***


 性格や人柄もあるんだと思うけれど、テクニックというの関係してくるのかもしれない。


 メガネ先生だと弱い人を助けるって気持ちがあるのと、その気持ちをどんな風に表したら良いのかっていうテクニックを良く知っている。

 大人でも子供でも、どんな立場の人でも、その2つがあると「すごく相手に近づける」んじゃないのかな。


 僕は良かったと思うよ、メガネ先生に会えて。中には検査だけして応援のアイデア持たない医者もいるって聞いた。


 だから、理解に近づこうとする人って、医者も「普通の人」も大人も子供も関係ないんだろうね。


 ***


「大きくなったら、何をしたい?」

 将来の夢を話したことがあった。


 僕は、

「旅に行く」

 って言ったんだ。


「旅に行って、そこで困ってる人を助けるんだよ」


「旅に?」って、笑われた。きっと、ふざけてると思われたんだね。


 漫画の影響もあったのかもしれない。

 そこには、悪人と悪人にやられてしまう人達が出てくるけれど、必ず助ける人が登場する。僕の今までの人生と重なったのかな。


 旅に行くんだと冗談のように言った僕。

 

 時々、見えない未来のことを考えていたから。

 不安な時って泣くだけじゃなくてさ。

 冗談言ったり、ふざけることしか出来ないことがあるっていうのかな。


 ***


 あの夏は暑かったかどうか覚えていない。


 それまでは行きたくなかったんだけど、その年はラジオ体操に殆ど毎朝行った。

 子供は殆ど来てなくて、だから、おばあさん達が「おはよう」って頭をなでてくれたりしてね。

 行くとスタンプを押してもらえるし、毎日だったかな、ジュースや飲み物をもらえた。飲まずに持って帰って、コレクションにしたんだよ。


 スタンプを押してもらったカードは、近所のお豆腐屋さんで豆腐と交換してもらえた。僕が交換しに行くと「がんばったね」って、2(ちょう)もらえたんだよ。

 本当は1丁なんだけどね。



 夏祭りはゴチャゴチャしてるけれど、好きなゲームや見るものに「入り込む」と楽しい。

 いつもとは違う、非日常の時間だしね。


 金魚すくいがあったら、僕はしていたかな、わからないけれど。

 ボールすくいしたんだよ。3センチ位のボールも1センチ位のボールも目の前に流れてきて。失敗をして、ボールが少なかったんだけど、おじさんが袋に沢山入れてくれた。

 お風呂では浮かべて楽しんだ。ぷかぷかと浮いて面白かったよ。


 お祭りは、お兄ちゃん達と行っていたこともあるけれど、大きくなると友達と行くからね。僕はあの日はママと行ったよ。


 *** 


 いつもよりも興奮していた。何度も何度も「まだかな?」って言って、準備出来たのかを見に行ってしまったんだよ。


 ママも浴衣を着てお洒落をして楽しみだったみたいだ。お小遣い決まっていたから、自分が貯めておいたものと、お祭り用のお小遣いをもらって行った。


 欲しいものや食べたいものを見て計算する。全部買うことは出来ないから、すごく迷うんだ。

 帰る前に、ママが焼きそばを食べたいと言ったから僕が買ってあげようとした。

 でも、お金は足りなくて1人分になってしまったよ。ゲームしてウインナーも食べたしね。


「ごめん。1つしか買えなかった。」

「どうもありがとう。半分っこ、しようね。」


 はしは2人分もらってきて、一緒に食べたんだ。


「楽しいことを一緒にすると、2倍になるね。」


 抽象的な言い回しは、僕は苦手だったけれど、言われたことは聞かなくても意味がわかったよ。

 2人でニコニコして美味しく食べたから。その「時間」の共有ってことだね。


 良かったよ、こんなに楽しくてワクワクする夏祭りになって、ママとの時間を持つことが出来て。

 これが僕の最後の夏祭りになったんだから。


 ***


 僕は眠るのが少ない。少しの電気や物音でハッと目が覚めてしまうことがとても多かったし、睡眠が少ないっていうアスペルガーの個性の1つかもしれない。

 てんかんが関係していたのかもしれないけれど、頭の中のことって、わからないんだね。

 子供なのに続けて眠るってことは少ないんだ。

 

 ベッドから落ちた時、ゴトンって音がしたみたいだけど僕は珍しく眠っていた。そんなことがあれば、起きてしまうはずなんだけど。


 音に気がついてママは抱き上げようとしたらしいけれど、ずいぶんベッドに戻すのに時間がかかっていたらしい。体も大きくなっていたけれど、熟睡していたからか意外と重かったようだ。



 大きくなっていくことは、僕にとって楽しいことが多くなっていくのか、それとも反対なのかわからない時があった。


 ラジオ体操したり、フリースクール行ったり、おまわりさんと話せたり。

 ママがいない場所でも僕は楽しみを見つけたり応援してくれる人がいた。


 僕には力があるかっていうと、ない。

 今は大丈夫。応援してくれたり、子供だってことで許してもらえることもあるから。


 これから先は? 

 どうなるんだろうって思ったけれど、未来のことは想像がつかない。


 今を楽しく過ごして、自分に自信を持つことってメガネ先生は言ってた・・・そうだな、不安もあったんだけど。


 僕が僕だけで考えたり。人と話したり可愛がって助けられて。


 たくさんの「気持ち」をもらえたんだから、この先も良いことはあるって思うようにしていた。


 僕も旅に出て、困ってる人を助けるんだからね。

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