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世界が終わるとしたら、どうしますか?

それは、肌寒い冬の風がほのかに温かみを含むようになった春先のことだった。


『おまえら、明日世界が終わるならどうする?』


と、そんな書き込みがグループにあった。

僕はその質問を見や否や、キーボードをカタカタと言わせながら回答を打ち込む。


『彼女と一緒にいたい』


高校という社会に馴染むことができなかった僕は、今日もバイトとアニメとネットに時間を費やしていた。

そしていつものようにネットサーフィンを楽しんでいると、気になるサイトを見つけた。

サイトじたいは掲示板のようなコミュニティサイトで、グループを作れるらしく個人的な話をすることもできるらしい。

なにもやることがなかった僕は、そのサイトでグループを作り何人が集まるかなんて、ただ意味もなくやってみたのだった。


それから3年後、高校はなんとか卒業することができた。

が、いまだに大学生という自覚がない。

高校生の頃と何一つ変わらない生活……、とまでは言わないが、代わり映えのない生活ではあった。

そんな僕にも楽しみと呼べるようなものができた。

それは、コミュニティサイトのグループで開和をすることだ。

結局、あのグループに集まったのは僕を含めて五人だった。

今日もバイトを終え、ネットを見ていると、コミュニティに書き込みがあった。


『おまえら、明日世界が終わるならどうする?』


そう書き込んだのはプロフィール上21歳の男の人、きつつき茜さんだった。


明日世界が終わるなら、ねぇ?

リアルではみんな知らない人だし、嘘ついてもいいか。


『彼女と一緒にいたい』


「ふーん、大夢ひろむ彼女いるんだ」


突然後ろから聞こえた声に、僕は飲んでいた飲み物を勢いよく吹き出す。


「ね、ねーちゃん勝手にみんなよ!」

「別に大夢がどんな友達作ろうが関係ないんどけどさ。 せめて正直でいなよ? ただでさえひねくれてるんだから」

「うるせぇ! とっととでてけ!」


姉を追い出してからグループに目をやると、きつつきさんがまた書き込みしていた。


『嘘乙 お前に彼女いるわけない』


こいつ僕のなにを知っていってやがる!!!

……あってるけど。


すると別の人から書き込みがあがる。


『私は巨人になる』


それは、多分この中で唯一プロフィールが女の子の卯月うづき五月さつきさんからだった。


『どうして?』ときつつきさん。

『私身長が低いから(T△T)』と五月さん。

『そういや、俺も身体的コンプレックスあるわ』


きつつきさんと五月さんの会話に入ってきたのは亮さんだった。

亮さんは20代前半の男性|(プロフィール通りなら)だ。


僕たちが会話をしているのを見ていながら、ただ一人書き込みをしない人がいる。

その人はかなり世界に不満を持っているらしく、気づかないうちに書き込みをして、すぐにそれを消すというようなことを繰り返している。


『そろそろ寝るzzz』ときつつきさん。

『俺も、いまからバイトだわノシ』と亮さん。

『それでは、さようなら(^ー^)』と五月さん。

『それでは』と僕。


パソコンの電源を落とす……と見せかけてもう一度グループを覗く。

そこには、新しい書き込みが書いてあった。


『世界から消えたい』


書き込みした人は、先ほどまで一言すら書き込まなかった人で、名前をヒガミ射雨いうさん。

この人にはなぜか変な親近感が沸いて仕方がなくなる。

世界から消えたい、ねぇ。

世界が終わるのに、消えたいって、つまりなにもしたくないのか?

グループにある更新ボタンを押すと、その書き込みは消える。


「世界には、世界が終わるときに消えようとする人もいるんだなぁ」


なんて一人で呟きながら考える。

自分もこの世界にいたのか、いてよかったのか。

そんなことを考えながら目を瞑ってそのまま寝るのだった。



バイトをするのは苦じゃなかった。

学校や他の人と関わることと違って、自分じゃない自分を作ってられる時間が決められているから。

それに、お金を稼ぐことはとても大切だと学べたし。

姉が基本家賃を払ってくれてはいるが、僕が払わなくていい道義にはならない。

そう思ってからバイトを始めたのだが、いまだに姉は僕のバイト代を受け取ってくれない。


「これは姉たる私の役目なんだから、あんたはあんたのためにお金使いな」


そう言って突っぱねて帰って来たお金が、最近五十万円を越えた。

もちろん一円だってそこから使ってはない。

そして今日も僕はバイトに向かうのだった。


「いらっしゃいませ」


僕がバイトしているのは、高級マンションの真ん前にあるファミリーレストランである。


「お客様、二名様でよろしかったですか? 禁煙席と喫煙席がございますが……。 ではこちらの席に案内させていただきます」


教えられた通りの台詞を吐きながら、店にくるお客さんを席に着かせる。

次に注文をとって、それが厨房に伝わって、出来上がったら料理を持っていく。

たまにクレームがあったりするけど、それも時間が立てば収まる。

バイトである僕には押し付けられる責任もないし、そもそも言われたことしかやらない僕に、誰も期待などしてくれていないのだ。

本当にいいバイトを見つけたと、つくづく自分の中で思う。


「いらっしゃいませ」


うお、なんかデカいのきた。


「お客様一名様でよろしかったですか?」


僕がそう聞くと、そのデカい男は慌てて低い声で否定してくる。


「いえ、二名で」


男がそう言うと、その巨体の後ろから小さな女の子が出てくる。


「に、二名様ですね。 禁煙席と喫煙席がございますが」

「タバコ吸う?」


男が女の子に聞く。

え? その子中学生じゃないの? なんでそれ聞く?


「いえ、タバコは吸いません」


か細い返事が帰って来たところで、男は禁煙席を指定してきた。


「では、こちらの席に案内させていただきます」


なんか、はじめて出勤したときの気分が蘇ったような。

しばらく働いていると、他の店員から休憩入りなと言われその言葉に甘えることにした。


「お疲れ様です」


そう言って休憩室に入ると、中には筒木つつきさんがタバコを吸っていた。


「おう」


目があって挨拶をしてくれる筒木さんは、僕がこの店に入ったときに仕事を教えてくれた人であり、仕事の上手なサボりかたを教えてくれた人でもある。


「筒木さんまだタバコ吸ってるんですか? こないだ仕事辞めるから金貯めるって言ってませんでしたっけ?」

「最後の一箱だよ。 これ吸い終わったらやめる」

「それ、絶対やめれない人の言い訳ですよ」

「うっせぇな」


そんな他愛ない話をしながら、ふと思い出したかのように筒木さんが話題を振ってくる。


「そういえばさっきでけぇのとちいせぇの入ってきたろ?」

「入ってきましたね」

「あれ、向こうのマンションの下にあるコンビニで働いてる人達だぜ」

「そうなんすか? てか、筒木さんなんでそんなこと知ってるんすか?」

「そりゃ、俺が住んでんのあのマンションだし。 安いとこだけど」


なんかこの人のイメージに合わないな。

見た目からしたら、六、七万くらいで借りれるアパートに住んでそうなのに。

って、偏見過ぎるか。


「いま、かなり酷いこと考えなかったか?」

「いえ、なにもっ!?」

「まあいいさ。 よく言われることだし」


よく言われるのかよ。


「あともう一個聞こうと思ってたんだけど、お前って彼女いるの?」

「なんすか急に? 別にいないっすけど」

「いや、俺がやってるコミュニティサイト? だかにお前にそっくりのやつがいてさ。 もしかしたらお前かもって思ってな」

「へぇ、奇遇ですね。 僕もコミュニティサイトやってますよ」

「そうなのか。 でもお前とは違うよっぽいぞ。 そいつ彼女いるらしいし」

「どんな名前の人ですか?」

「ん? 確か……、『龍田たつた広夢こうむ』だったかな」


それは、僕がコミュニティサイトで使っている名前と一文字たりとも欠かさず同じ名前だった。


「……それ、僕だと思います」

「あ?」

「『龍田広夢』って、僕です」

「あーやっぱり。 この間のあれは嘘」


この間のあれとは、やはり彼女といたいと言ってしまったことに対してだろうか。

いやまてよ? そもそも筒木さんが僕のグループに入ってるとしたら、いったい誰なんだ?

亮さんは太っているとか自分で言っていたし、五月さんは小さいって言ってた……。

とすると。


「もしかして、『きつつき』さん、ですか?」

「なんだ、誰かわかってなくて話していたのか」

「そりゃ! だって、そんな……!」


だってプロフィール男って書いてるじゃん!

なのに、なのに!


「筒木さん女性じゃないですか!!」


そう、筒木さんは女性なのである。

それもかなりの巨乳で美人。

口調こそ男と変わらずとも、黙っていればかなりの綺麗所なのだ。


「俺は俺の中では男なんだよ。 文句あんのかよ」

「ないですけど」

「ちょうどいい。 お前に少しだけ頼みたいことがあるんだ。 バイト終わったらうちにこいよ」

「はあ」


筒木さんが僕に頼みたいことってなんだろうか。

いや、というか同じコミュニティサイトのグループで話してた人がバイト先の先輩だったってどんな確率だよ。

歩いてたら鼻にミツバチが入るよりもっと低いだろ。


「そろそろ働くわ。 お前はどうする? もう少し休んどくか?」

「いえ、自分も行きます」


そうして、今日の営業用自分を終えた僕は、筒木さんに先導される形でマンションに向かっていくのだった。



「悪い、ちょっと小腹が空いたからコンビニよってもいいか?」


筒木さんはそう言って登ろうと階段にかけた足を地面に戻す。


「いいですけど。 ていうか、高級マンションなのにエレベーターないんですか?」

「なめんなよ。 ちゃんとついてるっつーの。 ちょっと早いんだよ」


なにが早いのか気にはなったが、あえてそこは突っ込まずにスルーしよう。

コンビニに入ると、先ほど来店してきた巨体の男がレジに立っていた。


「な? いただろ?」

「本当だったんすね。 そう言えば、なに買うんすか?」

「ん? まあいろいろだな。 とりあえず酒かねぇ」


店内はそれほど広くなく、入り口からでもお酒が売っているところが見えた。

頻りに時計を気にしている様子の筒木さんを横目に、菓子類を手にとって重さを比較していく。

すると、入り口に先ほどまではなかった段ボールが置いてあった。

あんな段ボール邪魔になるんじゃないか?

そう思った次の瞬間。

段ボールはまるで意思があるかのように店内に入ってくる。


「っ!?」


やべぇ。 心霊現象? オカルティックなこと? やめろよ、今日寝れなくなるじゃん。


「お、きたか」


筒木さんもそれを確認したのか、まるで待っていたかのようにその段ボールに近づいていく。


「よっ、大佐は元気かい?」


段ボールに話しかける筒木さん。

段ボールもなにか話しているのか、左右にモゾモゾと動く。

すると段ボールは菓子類が並ぶ棚に素早くやってくる。

そして僕の目の前までくると、段ボールと地面の隙間から一枚の紙がでてきた。

僕はそれをとると、裏には文字が書かれており。


「『左から三番目の棚の上から二段目の右から五番目のお菓子を乗っけてください』?」


なんなんだ?

と、僕が困っていると、段ボールは僕の足を攻撃しはじめる。


「わかった! 取るからいったん攻撃やめろ!」


そう言うと段ボールは素直に攻撃をやめてくれる。

どうやら日本語が伝わる段ボールらしい。


「えーっと、これかな?」


手に取ったお菓子を段ボールの上に乗せる。

すると段ボールはものすごい早さでレジに向かっていく。

そしてそのスピードを利用し、急停止した反動でお菓子を投げると同時に、お金を弾丸のように弾き、巨体の男性に渡す。

男性はお菓子にシールを貼り、また段ボールの上に置いてあげる。

満足したのか、段ボールはご機嫌な様子でコンビニを出ていく。


「お前に頼みたいことあるっていったよな?」


突然、筒木さんが耳元でささやく。


「なんですか急に! びっくりした」

「いや、むしろそこまでびっくりされると逆に清々しいな。 で、なんだがな?」

「僕に頼みたいことって?」

「あの子を尾行しろ」

「はあ?」

「いいから」

「いや、潜入捜査のプロみたいな段ボールを備考とかゲーム本編なら意味わかんなくなりますよ!?」

「ゲームとか知らねぇよ。 いいから、ついていけ。 あの子、段ボールに入ってるからボタン押せねぇんだよ。 最上階押して部屋まで案内してあげればいいから」

「わかりましたよ」


僕が引き受ければめんどくさいことにはならないみたいだし。

ここはいっちょかっこつけますかね。

そう思った僕は出ていった段ボールを追いかけ、エレベーターに乗る。

最上階を押して、エレベーターが昇っている最中に気がつくことがあった。

部屋ってどこなんだ? このマンション結構広いよな。

とか考えていたらエレベーターは最上階について扉が開く。

すると、通路はあるが扉は一つしかなく、段ボールもそこを目指すように歩きだす。

おそるおそる段ボールについていくと、突如として段ボールから伸びる触手(手)が素早く鍵を開き中に入る。

扉が開きっぱなしになってしまい、なんて不用心な、なんて思いながら扉を閉めてあげる。

そのあと下の階に戻ると、筒木さんが腕組みをしながら待っていた。


「……いったいなんのための頼み事だったんですか?」

「ライトノベルてきな感覚なら、もう素顔の一つや二つ見てると思ってたんだがな……。 まあいいや。 とりあえず、バイトがある日はよろしく頼むわ」

「なんでですか!」

「いいから。 頼むわ」


こうして、半ば強引に僕の日課が増えたのだった。

ゲーム風に言えば、『大夢は、新しい日課を手に入れた』

たまたま読んでくださった方ありがとうございます_(._.)_

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