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甘酸っぱ(仮カノは心配する)4

 

「え? Wデート?!」

「と言う名の勉強会。溝口の家で」

「わあ! すごい!」


 そんな事するの初めて! と加奈が目をキラキラさせている。

 みのりと加奈は例によって学校から少し離れた駅近くの小さな公園に来ている。

 加奈にテニス部が終わるまで待ってもらって学校から一緒に行った。加奈がいるから帰り際、フェンス越しに野球部を見るのを大っぴらにガン見出来たのはみのりにとってこの上ない喜びであったが、隣の加奈がちらちらと見てはふふっと笑うので、何よっ、と照れが出て正直なところ、見たような見てないような、と言った具合だ。


 それにしても加奈がこんなに目をキラキラさせていると言うことは、柏木くんと加奈はまだお互いの家にも上がってない、と言うこと……?


 どんな奥手よ……。


 みのりは思わず眉をハの字にして加奈を見ると、加奈は気がつかずにどんな格好で行こう? 何かお菓子持って行った方がいいよね! とにこにこ笑っている。


「ねえ、加奈。夏に初デートに行ったよね、もしかしてそれ以来どこにも二人で行ってないの?」

「あ、うん。柏木くん部活忙しいし」

「ええっ⁈ そんなんでいいの?」

「う、うん。だって柏木くん部活中心の生活なんだもの……」

「いや、だからって……まって、じゃあそもそも夏には一回しか会ってないの?」

「うん」

「いや、それで一ヶ月でキスとか」

「無理かなぁ」

「いや、無理っていうか」


 誰かと付き合った事のないみのりでも、さすがにデートして一回、二回でキス出来るとは思えない。


 加奈は、何かがズレている。


「あの、ね、加奈。例えば女同士の友達でもさ、一緒にご飯食べよ、とか、帰り一緒に帰ろうよ、とか、ある程度仲良くならないと出来ないでしょ?」

「うん」

「それと一緒で、付き合って会うのが一、二回でキスしようとは思わないと思う。あの、もっと会って、仲良くなってからだと思うのだけど」

「一ヶ月経っても?」

「一ヶ月の間に会った日が一回しかないってのが、そもそもキスまでは行かないのではと思うんだけど……あれー、私がおかしいのかな」

「だって……」

「うん?」

「この間読んだ本には会って最初でって……」

「まってまってまって、それ、キャリアが違うんじゃないの?」

「キャリア?」

「どっちも付き合った経験がある人の話じゃないの?」

「そうなの?!」

「いや、知らないけど、想像だけど」


 そうなんだ……と頷いている加奈を見て、みのりはまたさらに嫌な予感がして探る。


「あの、まさかと思うけれど、二学期に入ってからも二人で会ってないって事、ないよね……」

「あ、 大丈夫。ちゃんと会ってるよ」


 そういってニッコリ笑う加奈に、ほんと? どこで? と問い詰めると、加奈は顔を赤らめながら、たまに部活帰りに家に寄ってくれる、と言った。

 それで、家の人に断って、少し時間をもらって近くの公園で話すのだ、と。


「柏木くん、甘いもの好きなんだって。だから会える日はお菓子作って持っていくの」


 うわーーあのガタイで甘いもの好きとかーー?! 無いわーーとみのりは若干引き気味に聞いているのだが、加奈は嬉しそうにクッキーでもマフィンでも何でも食べてくれるんだ〜 とノロケている。


 みのりの中で柏木くんと言ったら、教室に入る時にドアの上にぶつかりそうなぐらい大きくて、骨太、体つきもがっしりの熊とは言わないけれど、黙っていたらちょっと引く迫力の人物なのだ。

 そんな人が公園のベンチで可愛らしいペーパーナプキンに包まれているであろうクッキーをちまちま食べている姿とか、なんの冗談、ってぐらい笑うか鳥肌モノだと思うのだが。


 恋する乙女からするとそんな事微塵も考えた事がないらしい。

 恋は盲目、恋はミステリー、恋は……。

 そんな事を考えていたらまた加奈がのけ反る事を言ってきた。


「でも、みのりちゃんもフェンス越しの恋だなんて、なんか素敵だよね〜」


 ザザッとみのりは加奈から離れると、両腕を組んで乱暴にさすった。


「や、やめてっ、なんか鳥肌立ってきた!」

「なんで?」

「に、似合わない! 似合わな過ぎるっ! そのセリフ!!」

「ええ? でも実際そう……」

「いやーーーーーーやめてやめて! あの、私はそんな甘酸っぱい事、いいから、加奈達でやって!」

「ええーーいいからって言っても、充分みのりちゃんだって甘酸っぱ……きゃーー!」


 いつまでも黙らない加奈を脇こちょこちょの刑にすると、きゃーーきゃーーといいながら加奈が逃げる。

 ふふふ、逃しはせんぞーと言いながらじゃれるのだが、じゃれながら不謹慎にも加奈の身体つきをチェック。


「加奈、着やせするタイプだね。ちゃんと付いてるとこ付いてる。Bじゃないよね。C? D?」

「きゃーーーーーー!! きゃーーーーーー!! ストップみのりちゃんっっ!!」


 両腕をいっぱいに伸ばし交差して逃げる加奈が可愛い。柏木くん、ちょっとズルいなぁ。知る人ぞ知る優良物件よね。

 みのりはどこかのすけべ親父のような事を思いながら、またきゃーきゃー言う加奈を追っかけるのであった。




 ****




 勉強会と称してのイチャコラ会は、中間テストが始まる一週間前の日曜日に決行された。

 みのり達は溝口の家を知らなかったので、柏木くんに道案内を願って最寄り駅に三人集合して行く事になったのだが。


 で、デカい。そして、ちっこい。


 みのりは待ち合わせ場所である改札出てすぐのキヨスクを目指したのだが、見間違えそうも無いシルエットの二人に笑いがこみ上げ来て、んん、と咳払いをして誤魔化しながら、お待たせ、と言った。


 実際は待ち合わせ時間の5分前には着いているのだが、加奈の性格からいって、たぶんだいぶ早く来ていただろうし、加奈の事を少しでも知った柏木なら合わせて来ただろうと、思う。


 そんなに待ってないよ、とふわっと笑う加奈の隣で、柏木がども、と会釈した。


「ええっと、今日はよろしくお願いします。案内も、ごめんね」


 加奈から話は聞いているけれど、まともに話すのは初めての柏木に、みのりは少しだけ固くなりながら言った。

 いや、問題ないっす、と言った柏木は、こっち、と左右ある通路の左に向かって歩き出した。


 一歩前を歩く柏木について加奈と二人後ろをついていく。しばらくして、ね、と加奈をつついた。


「私に気にせず二人で歩いて行っていいんだよ?」

「ん? いいよ、大丈夫」

「そう? そうゆうもん?」

「んー……よく分からないけれど、たぶん」


 こそこそと話しているといつの間にか柏木と距離が出来てしまって、やばいやばいとあわててまた金魚のなんとかのごとく後ろについていく。


「ふふっ、何だか、カルガモの親子みたいだね」


 突然言った加奈の発言に、


『いや、そんな事ないから』


 と前と横からダブルで突っ込みが入った。

 みのりはおっとなって柏木を見ると、柏木も、おお、とみのりの方を見た。

 みのりは黙ってイイね、とゼスチャーすると、柏木も黙って頷く。

 それを見た加奈がぷくっと頰をふくらませた。


「みのりちゃん、柏木くん、初対面で仲良し。ずるい!」


『いや、ずるくは無いと思う』


 また、ダブって、おお! とグイッと右手で親指を上げると、今度は柏木もグッと同じくやってきたので、なんだ、ノリいいじゃん、とみのりはホッとした。


「……」


 加奈がまたぷくーーと頰をふくらませたので、まあ、お約束のようにつついて破裂させておいた。もう! みのりちゃんたら! と怒るのだが、何だか可愛い。ああ、可愛い。

 そう思って柏木を見ると、柏木も目を細めている。


 あ、なーる。


 とみのりは思った。

 溝口の言ったとおり、よく見れば表情が分かる。そして、みのりと同じように加奈を可愛いと思っているのだろう。


 みのりは少しホッとした。


 加奈が好きになる相手だから、悪い奴ではないとは思っていたけれど、話した事もないし、夏休みはほっとかれたみたいだし、実は心配だった。


 でも、ちゃんと加奈の事、好きそうだ。


 雰囲気も良さそう。


 なによりも……加奈が嬉しそう。


 みのりはそれが一番嬉しかった。







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