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甘酸っぱ(溝口の仮カノ)3

 

 翌朝、みのりが教室に入るともう真っ先に窓際にいる溝口が目に飛び込んで来て、不味い、と思った。

 あまり顔を見ないようにして、先に席についていた加奈におはよう、と言う。


「おはよう、みのりちゃん。 ……どうしたの?」


 みのりと加奈はちょうど席も前後で、スクールバッグをバサっと乱暴に置いて窓側を背にして横に座るみのりの様子に、心配そうに聞く。

 みのりはさっと足を組むと、明後日の方向を向いて、んー、と、言葉にもならない声を出し、この胸の中にある思いを伝えかねていた。


 意識しすぎて、見てられない、とか。

 耳がダンボになって溝口の声を探してる、とか。


(だ、だめだ、とても言えない)


 肘をついてぐぐっとさらに明後日の方を向くと、数瞬の後、自分で自分の頰をぎゅいっとつまんで、加奈の方を向いた。


「加奈、例の件、伝えたから」

「あ!」


 みのりは加奈が顔を赤らめるかと思ったが、加奈はにこにこして、だからなんだね、と言った。


「何」

「みのりちゃんの様子が違うのが……うん、心配事じゃなくてよかった」

「何それ」

 いいから、と加奈はにこにこしている。

「それよりも英語のリスニング、予習してきた? 今日、みのりちゃん当たる日だよ?」

「うそっ! 全然やってない! やらなきゃ!」


 バタバタと準備をし出すみのりを見て、加奈はくすくすと笑う。


 結局、朝のバタバタの気分のまま午前中の授業を受け、あっという間にお昼の時間になった。加奈と一緒にお弁当を出して食べていると、ピロンとラインの着音がなった。


「ごめん、加奈」

「どぞどぞ」


 スマホを開いてタップすると溝口からだった。さっきクラスの男子達と一緒に廊下に出て行ったのは見たから、その先でラインを送っているのだろう。


『昼飯食べたら体育館裏に集合』

 &ダッシュスタンプ


 みのりは了解のスタンプだけ送り、スマホを置いて急いでお弁当を食べ始める。

 そして、あ、と加奈にごめん、と手を顔の前に出した。


「呼び出しで」

「分かってる!」


 加奈の目がまたキラキラしている。


「何かこう、いいね!」

「何が?」

「恋の始まりって感じ!」

「ばっ、しぃー!」


 うっかり加奈を相手に馬鹿と言いそうになって慌ててしぃと言った。


「え? 秘密なの?」

「だって〝仮〟だし、……迷惑かかるし」


 箸を口に入れながらもにょもにょ言ってるみのりに、でも、と加奈が身を寄せてくる。


「仮じゃなくするんでしょ?」

「ん……まあ、ね」

「いつ?」

「……加奈の件が上手くいったら」

「ええ?!」


 加奈が小さくも驚いた声を出したので、何よ、とみのりも返す。


「そんなに先でも、いいの?」

「……たぶん」

「そうなの?」

「あーもう! よく分かんないよ、私だって初めてなんだから!」

「みのりちゃん、声大きいっ」


 ちらちらと見てくる女子達の視線に首をすくめながら、加奈、ごめん、後で。とみのりはお弁当を食べるのに集中する。

 加奈も、そうだったね、ごめんね、ともぐもぐ食べ始めた。いつも思うがそんな片手程の小さなお弁当で足りるのかと思う。

 もし昼休みの呼び出し今後もあるのなら、スピード重視で自分もワンサイズ小さいお弁当にしてもらおうか……と思うのだが、すぐにぶんぶんと首を振った。


 絶対足らなくて午後お腹が鳴る。授業中、ぎゅーぎゅーと鳴ったら死ねる!


 とにかくやっつけよう、と猛然と食べて、加奈と比べてツーサイズアップのお弁当を加奈より早く食べ終えた。


「ごめん、加奈。行ってくる」

「うん、また聞かせて!」


 つぶらな瞳をキラキラとさせて言うので、聞かすような事があったらね、とだけ言って教室を飛び出した。




 体育館裏に行ってみると、溝口は数ある通気扉の前の段差に座っていて、購買で買ったであろうパンを食べていた。

 みのりを見つけると、よっと手を上げたので、みのりも同じく手を上げて隣に座る。

 一応一人分の距離を取った。

 そして座ったら座ったで自分の太腿が気になってぎゅうぎゅうと制服のスカートを伸ばす。


 溝口はちらっとその様子を見たが、何も言わず手に持っていたチョコクリームパンを食べると、とりあえず朝練の時に言っといた。とだけ言った。


「早っっ」


 驚いてずさっと体を引きながら見ると、そっかぁ? と気にも留めてない。


「あの、みんなの前で?」

「んなことするかよ! ちゃんと二人の時に言ったわ」

「あ、ああ、そっか。……柏木くん、なんて?」

「おお、って結構驚いてたな。あいつあまり表情出ない様に見えるけど、結構バレバレなんだよなー」


 柏木の様子を思い出したのか、くっくっと笑っている。メガネの奥の目がなくなって、くしゃっと笑う顔に、なんでドキドキするのか分からない。

 溝口は言っちゃあ悪いけれど決して美男子ではない。メガネはかけているけれど頭良い系でもないし、髪の毛は野球部だからイガグリだし。


 でも……笑った顔が本当に嬉しそうなんだ。


 どんな顔でも、笑ってると……。


 みのりは慌てて足を組むと肘をついて顔を明後日の方に向けた。


 ちょっと不味い。

 かなり不味い。

 顔見れないし、自分の顔も見せれない!


「んで柏木の前でイチャコラ決行の日なんだけどさー、って、どした?」

「い、いや、なんでも、ない」

「……顔、赤くね?」

「き、気にしなくていい」


 しばらく沈黙の後、ぶふぁっ と笑われた。


「な、何⁈」

「おま、あれだろー、イチャコラ想像してそんなんなってんだろー 可愛いなーおい」

「か、かわっ! かわいくなんかないっ!! あと、イチャコラ想像なんか……」


 言葉にした途端、いろんな事がよぎってぶわぁぁと顔が真っ赤になった。

 それを見てまた溝口がぶふぁ! と笑う。


「いや、ちょっと腹いてー、なに、竹内ってそんなに可愛いの? 隠してたんか?」

「か、かわいくなんかない! わ、笑うな!」

 苦し紛れに溝口の肩をばすっとパンチすると、いてーーめちゃいてーーと肩を抑えて逃げの体勢になりながら笑っている。


「わかった、わかった、ジョーダン!」


 溝口は片手をみのりの前に出して、ストップストップとすると、メガネの脇から笑い涙を拭きながら、昼休ひるきゅう、あと十分も無いから決めちまお、と言った。


「テニス部って決まった休みの日ってあんの?」

「無い。小林センセが出張の時ぐらい」

「おこんなって。うちの方がいつも練習終わんの遅いしなぁ」

「練習終わるの待つとか」

「んなことしたら部員全員にバレるぞ?」

「あ、そうか……」


 べつにバレてもいいけれど……と思ったが、シチュエーションを想像して、やっぱだめだ、恥ずかしくて死ねる!! とまたもや、ぶわっと顔が赤くなる。

 そしてはっと気がついて隣を見ると、溝口はみのりに背を向けて身体を震わせていた。

 みのりは黙って、どーーん! と今度は背中に拳を当てる。


「いってーー‼︎ 本気マジでいてーーって‼︎」

「……」

「いや、すまん。俺が悪かった。この通り」


 ふーふーと肩で息をしているみのりに顔の前で手を合わせて笑いながら謝る溝口に、もう一発殴りたい気持ちを抑えて、どうすんのよっ、と怒りながら言うと、どーすっかなー……と今度は真面目に考え始めた溝口が、ひらめいた! と顔を上げる。


「竹内、この日にしよう!」


 そう言ってスマホのカレンダーを出した溝口が言ったのは……。






こ、こんな引き許される……?

まて、次号! みたいな(笑)

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