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空の器  作者: あとい
第二章 極限
13/29

12.浸透


 12


 夜通し馬を走らせ日が昇った頃、一行はイェギナ王国の国境付近までたどり着いた。幸いまだこの辺りには戦火は届いていない。馬を休ませるために立ち止まるが、ティトリーがヴィーと共に「先に道を開いてくる」と別行動をとることになった。

 驚いたのが、ヴィーがティトリーの魔法(マギエ)によって大きな黒い豹のような獣に姿を変えたことだった。元々ヴィーは「ズヴィーレ」という獣人族で、本来なら自在に獣や人型に姿を変えることが出来るそうなのだが、普段あまりにも酒浸りすぎて自分で変化する方法を忘れてしまったらしい。そこでティトリーが強制的に変身させる魔法(マギエ)をかけるようになったのだとか。アルコールが残っているとまともに走れないことから泣く泣く昨晩から禁酒させられていたヴィーを獣に変えると、ティトリーはそれに跨り颯爽と走り去った。

 残りのメンバーだけでは心許ないということでコチカは置いて行かれた。彼も特に置いて行かれたことに関して何も思っておらず、むしろ高圧的な上司から解放されたと喜んでいる。こちらとしても少しでも戦力が多い方がありがたいが、どう見ても丸腰の彼は果たして戦力になるのだろうか。

 しばらく休んだ後、一行はティトリーが向かった方向へと進んだ。南下するにつれて空気が澱んでくるのを感じる。これも闇魔法(トゥマギエ)の影響なのか、黒雲が立ち込めているので天気も悪く感じ、先ほどまで生い茂っていた木々も枯れて黒ずんでいる。

 幸広にもこれまでの経験上(ゲーム上の経験)、ダンジョンはもうすぐ近くにあることが感じ取れていた。王都を出発してからまだ一度も敵とエンカウントしていないが経験値的に大丈夫だろうか。馬に跨る疲れしか感じていない幸広はボーっとそんなことを考えていた。

 自分と王女の命がかかっていることは分かっているが、多少の時間が経過するとまるで空想の中の出来事のようにどこか楽観視してしまう。本当は大掛かりなドッキリなのではと思えてきて、気持ちに余裕が出てくることに違和感を感じられなくなっている。

 道中黒く焦げた大きなモノが転がっているのを目にするようになってきた。初めは一つ二つ程度だったが、次第にその黒い物体はそこら中に確認出来た。辺りには異臭が漂い、所どころでまだ火が燻り煙が上がっている。

(なんか焦げた臭い……)

 鼻が曲がりそうな異臭に思わず幸広は鼻を塞ぐ。一緒の馬に跨るストラッシュが背中越しに心配そうに声をかけてきた。

「ユキヒロ殿、大丈夫ですか?」

「うん……すごい臭いやな」

「そうですね……ティトリー殿も酷いことをなさる……」

 ストラッシュは改めて周りの風景を見渡す。それにつられて幸広も首を動かした。広く続く土地はもはや枯れ地と呼ぶのが相応しい。北と南でここまで環境が違うものなのかと思える程だ。幾つも転がる黒い物体がそんな西部劇に出てくるような乾燥した場所を異様な光景に変えている。

「え、ティトリーが、何?」

 ティトリーとこの酷い臭いに何の関係があるのか理解が出来なかった。

「交戦中の兵士だったのか、はたまた襲ってこようとした野盗なのか……ここまでするともはや確認のしようもありませんね……」

 ストラッシュの言葉でやっと気付く。よく見ると黒い物体には人の手や足のようなものが目に付いた。

(……これ、人……?)

 周りに転がっている黒い物体は人間の成れの果てだった。物体の近くを通りかかるとそれは明らかになる。ティトリーが「道を開く」と言っていたのはこのことだったのだ。彼が邪魔だと思ったものは全て炭になるまで燃やし尽くしてしまった。

 それが”人”だと認識してしまった幸広は一瞬で現実に引き戻され、我慢出来ず馬から身を乗り出し、体内から逆流してくるものをぶちまける。

「ユ、ユキヒロ殿!?」

「ゲホ……」

 まだ、遊び半分な気持ちが残っていた。そうだ、これは現実だ。

 ここは戦の渦中だ。そして今から自分はその中心に向かおうとしている。

 愚かだ。結局自分は何も分かっていなかった。何が敵とのエンカウントだ。何が経験値だ。

 これがリアルだということを今更実感する。

 オルヴァーハやストラッシュは幸広を守るために共に行動している。危険な状況に身を置いているのだ。「幸広」という一人の人間を守るために。

 そう考えるとこうして「ここにいること」が怖くなってきた。自分だけではない。自分を守ろうとしてくれているこの人達にも、もしかすると何か起こるかもしれない。

 怖い。

 だめだ、これ以上進んではいけない。

「か、帰ろ……」

「ユキヒロ殿?」

 幸広は馬の手綱を握るストラッシュの腕をつかんだ。

「あかん、帰ろ!死んでまう!」

「ユキヒロ殿!?どうなされたのですか!こんなところで引き返すなど……」

「えぇから!!」

 無理やり手綱を引っ張る。それに馬が驚いて前足を高く持ち上げて嘶いた。大きく立ち上がった事でストラッシュと幸広は振り落とされ、地面に叩きつけられた。咄嗟にストラッシュが幸広を抱えるように庇って落下したので、幸広はかすり傷程度で済んだ。

「ぐ……」

 ストラッシュの呻き声で幸広は自分のした事の重大さを思い知る。

「ストラッシュ……!ご、ごめ、俺……!」

 踏みつけられることはなかったが、馬はそのままどこかへ走り去ってしまった。幸広の下敷きになっているストラッシュは背中を強く打ったのかまともに呼吸出来ないようで、口を動かして何とか酸素を取り入れようとしている。

「どうした!?」

「スーちゃん!」

 先を行っていたオルヴァーハ達が引き返してきた。ストラッシュの状態を把握したラヴラフはまっすぐ飛んで行く。幸広はストラッシュに縋り付くように(うずくま)り嗚咽を漏らす。

「俺……俺が……!」

 いつもそうだ。何かが起こってから自分のしたことを後悔する。感情に身を任せて何も考えずに行動するから、いつも誰かが傷付く。

 落馬してすぐの処置だったためか、ストラッシュの容態はそこまで深刻なものではないようだ。

「ユキヒロ殿、大丈夫。もう治してもらいましたから、泣かないで」

 側で蹲る幸広の頭を撫でる。

「でも……」

「泣くとかダサいですよ」

「なんやねん!うるさいわ!」

 笑いながら治療を受けるストラッシュを見て本当に無事であることに安堵した。この世界が魔法のある世界でよかったと初めて思えた。これが元いた所だと、ストラッシュはもう二度と動けなくなっていたかもしれない。そう考えると再び気分が落ち込む。

「ほら!あんたまで落ち込んでる暇ないわよ!早く怪我見せて!」

 忘れていたがラヴラフは男だ。思ったより強い力で腕を掴まれて驚く。そこで自分が怪我をしていることに気がついた。擦り傷程度の小さな傷口にラヴラフの魔女っ子ステッキから出る光を当てるが、一向に治る気配がない。しかし幸広の体内はじんわりと暖かく感じる。

「ん?なんで治んないの」

 その一言でミシュレンカの言葉を思い出した。

「あ……ナドヴァは魔法を吸収するって……」

「あぁ、そっかナドヴァの特性か。よく知ってるわね。……最初にあんたに魔法を使ったのは誰?」

「えっと……軍師さん?」

「いや、違う。闇者(トゥーマ)だ」

 オルヴァーハはラヴラフに幸広が呪いを受けた経緯を説明した。それを受けたラヴラフは険しい顔をする。

「あんた、これ以上の大きな怪我しても治せないから覚悟してね」

「どういうことだ」

 一同がラヴラフの言葉に耳を傾ける。

「ナドヴァは初めて受けた魔法(マギエ)の属性に属すると言われている。それ以外の属性は体内に吸収されてほとんどの効果がなくなるの。だから初めが肝心なんだけど……もう時すでに遅し。あんたはもう闇魔法(トゥマギエ)しか受け入れられない体になった。だから回復も闇魔法(トゥマギエ)じゃないとできない」

「じゃぁ……」

「でも現状、闇魔法(トゥマギエ)の回復呪文は存在しない。少なくとも私は知らない。だからあんたがどうなっても私には治せない。ごめんね!」

 シヴェト全域でトップクラスの魔法師で博識なラヴラフが言うのだから本当に存在しないのかもしれない。闇以外の属性の魔法(マギエ)を受けても体内に集約されてほぼ効果はないが、闇属性はダイレクトに内外傷となる。幸広は闇魔法(トゥマギエ)を受けてはいけない。怪我をしないことが前提だが、これから向かう先は闇の巣窟だ。

 しかし、ふとあることを思い出す。

「だが、そうなると何故プーは怪我を治せたんだ……?」

 オルヴァーハが幸広と同じ疑問を持ったようだ。プロロクツヴィが複数属性の魔法(マギエ)を使えるのは出会った当初に見せてもらったが、通常一人が持てる属性は一つか二つ程度で、プロロクツヴィ程多くの属性を操れるのは稀だ。ラヴラフですら光と水、風の三つだけだ。他の属性も使おうと思えば使えるらしいがかなり魔力(マギ)の消費量が多くなるのでほとんど使わない。

「プロフが何であんたを回復できたのかは分かんないけどね。何か方法を知ってたか、あいつが闇属性も持っているか」

「しかし闇なんてどこで……」

「だから分かんないって言ってんでしょ。ほら、今回はかすり傷だったし、自力で治しなさい!早く行かなきゃクソメガネにどやされるわよ!」

 動けるようになったストラッシュが幸広の手を引き立ち上がらせ、自分たちのいなくなった馬の代わりにティトリーがラヴラフに託していった馬を借り再び二人で跨った。

 自分は恵まれている。自分がナドヴァという存在だからかもしれないが、こうして多くの人に気にかけてもらえていることが幸広には何よりも嬉しかった。

 その反面自分の心がどんどん弱くなっていっている事が気にかかる。

 つい最近までこんなことはなかった。辛い事があったとしても、これまでは『過去』に比べれば大した事ないと思えて自分を保つ事ができた。『過去』以上の出来事はないはずだったから。


 まっすぐ南下し、特に黒雲が濃い街を目指した。そこが南の独立国の中心らしい。あまりにも黒雲が濃く、今が昼なのか夜のなのかすらも分からない。雲間から紫色にも見える光が見え隠れする事から、ここで闇魔法(トゥマギエ)が使用されていると予測される。

 街へ向かうまでに数回野盗に襲われたが全てコチカが追い払ってくれた。素手で殴り飛ばすのが彼の戦闘スタイルで、その拳に魔力(マギ)を集約させて一気に打ち抜く。接近戦に強く破壊力は高いが、武器に比べてリーチが短いのが難点だ。魔力(マギ)は多少持っているがほとんど接近戦にしか使ったことがなく、殴る蹴る以外の攻撃方法は基本的に出来ない。体術に長けており、まるで猫のように身のこなしは軽く、現時点で一撃も攻撃を受けずに全ての敵を倒している。以前ティトリーから魔力(マギ)の効力アップのための拳にはめるタイプの魔具(ナラディ)をもらったらしいが、上司からの初めてのプレゼントが思いの外嬉しかったらしく、壊すと嫌だからと家に飾って置いてあるらしい。

 街は思っていたよりも小さく、イェギナの半分ほどの領地だと思われる。街の南側からは人が争うような声が聞こえてくる。幸広たちが安全に通れるようにとティトリーが道を塞ぐ兵士や野盗を排除してくれていた。その結果死体の山がそこら中に転がっているという惨劇を目の当たりにし、幸広は彼が味方で良かったと心の底から思った。

 一行は街の北側から入り込むことに成功した。街には人の気配は全くなく閑散としている。街の外には溢れるほどの死体が転がっているのに対し、街中は綺麗なものだった。

 街を少し進んだ先にある路地に黒く大きな獣が行儀よく座っている。ヴィーだ。近付こうとするとヴィーはくるりと背を向けて歩き出す。時折ちらと振り返るそぶりを見せるので、おそらくついて来いと言っているのだろう。

 後を追いかけると路地の行き止まりでティトリーが一人の兵士を壁に追い詰め話し込んでいた。慌てふためく兵士は「や、やめろ……」と訴えているが、ティトリーは何の迷いもなく拳で顔面を殴りつけた。案の定兵士は血を吐いて倒れ、気を失った。

 拳に付いた血を兵士の鎧に擦りつけるとティトリーは幸広達と合流した。

「遅かったですね。どこで道草食ってたんですか」

「お前のおかげで真っ直ぐ来られた。ありがとう」

 ティトリーの皮肉にオルヴァーハは素直に返す。方法はどうあれ、ティトリーが先行していてくれてなければもっと到着は遅れていただろう。

 街の様子はほぼ廃街と言っても過言ではなかった。街の住人は戦が始まる前にどこかへ避難したのか、人気がまったくない。ティトリーが殴り倒した兵士もおそらく数少ない情報源だったが、このメガネの男が潰してしまった。

「それで、状況は?」

「ロクな情報がありませんね。分かった事といえば、ここ数百年の間領主の様子がおかしいという事だけです」

「領主の?」

 ティトリーの集めた情報では、ある時期を境に街の雰囲気が急に変わり始めたという。元々領主はかなりの内弁慶だったらしいが、それがここ百八十年ほどで激変し、社交的になったとか。そしてそれは領主の元に不審な人物が出入りするようになったことが大きな要因となっている。おそらくそれが闇者(トゥーマ)だろうと街の人間は噂をしていたそうだ。目に見えて街に変化が出始めたのはここ二十年ほどで、街の上空に黒雲が少しずつ集まりだしたそうだ。

「激化する領主からの圧力的な搾取に耐えられずこの街を出て行く者も多くいたらしいですが、どうもそれすらも様子がおかしいようです」

「おかしいって?」

「見つからないんだそうです」

「何が」

「街人が、です」

 街から出た人が他の街に辿り着いたという話が全く流れてこないという。見た通りこの街はほぼゴーストタウンだが、戦に伴い街人はどこかへ避難したのではないのか。だが、確かにそれでもこんなにも閑散とするほど人がいないのも変な話だ。

「どういうことだ。逃げた先の街の住人が匿っているとかそういう話じゃないのか」

「この近辺の街は全てここと同じような状況だそうです。人が全くいない。戦中であってもどこかに一人二人は逃げ遅れや愛着心から街を出ない人間がいるはずですがそれすらもない。先ほどの兵士の話では、街人は”消えて無くなった”とふざけたことを言っていましたね」

 まるで煙のように人が消えるのを見たそうだ。先程の兵士がいたところに目をやるが、すでにそこにはいなかった。

「このような現象は初めてです。ラヴラフ、お前は何か知っていますか」

「お前って言うな。まぁまず間違いなく闇者(トゥーマ)の仕業と思っていいでしょうね。あいつらは人を魔力(マギ)に変えるって恐ろしい術を持っているって聞いたことがあるわ。あの雲がそれを物語ってる」

 ラヴラフは上空を見つめる。街の上部には禍々しいほどの黒雲が渦巻いている。その影響か、街の空気はどんよりと重い。

「そんな方法があるのか」

「あたしは知らないけどね。どこかで耳にしたことがある程度だから、それが本当なのかはわからない」

 人間を魔力(マギ)に変えるなど、そんなことがあっていいのか。そもそも人間が目に見えない力に変えられるという状況が幸広には理解できなかった。

 話についていけず、呆然と立ち尽くしていると背後からヴィーが幸広の腕の下に頭を入れてきた。そのまま幸広に頭を擦り付ける。撫でて欲しいようだ。それに応えるようにヴィーの額のあたりをカリカリと指先で触ると気持ちよさそうに目を瞑っている。その様子に少しだけ和んだ。

 オルヴァーハとティトリー、ラヴラフは何やら幸広には分からない話を続けている。ちらりと背後にいるストラッシュに目線を移す。彼は幸広に背を向け背後から忍び寄る敵に備えて槍を構えており、その隣にはコチカが頭の後ろで手を組んでダルそうにしている。先程からパネンカの姿が見えない。どこへ行ったのだろうか。

(あぁ……俺何やっとんやろ)

 他のメンバーは各々自分が出来ることをしている。だが、自分はどうだ。

 意識がぼんやりとしてきた。この街に入ってきた時に感じていたどんよりとした空気が今や慣れてしまったのか感じなくなってきている。すでに立っているのも面倒臭くなって、すり寄ってくるヴィーにもたれ掛かる。

 体の内側から黒い何かがぐるぐると渦巻いているのが分かる。それが何だか心地よくも感じてきた。目を閉じると黒い何かが体を包み込む感覚がする。体も軽く、宙に浮いている気さえしてきた。

『ユキヒロ!?』

 パネンカの独特な声が響いた。

 閉じていた目を開くと、幸広の体は黒いモヤに持ち上げられ実際に宙に浮いていた。

「え?うわぁ!」

 ヴィーが高く飛び上がり、唸り声と共に黒いモヤに噛み付いた。同時にモヤは晴れたが、浮いていた幸広はそのまま地面へと落下する。

「……!」

「ユキ!」

 間一髪地面に叩きつけられる前にティトリーとラヴラフが魔法(マギエ)で受け止める。ゆっくりと地面に降ろされた幸広の心臓は驚くほど早く鼓動している。

「お前は何をしているんですか!」

 ティトリーに怒鳴られた。当たり前だ。自分の置かれている状況すら把握出来ておらず、危うく大怪我をするところだった。

 幸広の怪我は魔法では治せない。

「ご、ごめん……」

「ヴィー!側に付いていろと言ったでしょう!」

 ヴィーはその大きな頭をうなだれるように下げた。彼女が急に幸広に寄り添ってきたのは幸広を守るためだったのだ。彼女はちゃんと命令を遂行していたのだ。

「いや、ヴィーは側におってくれた……」

「いるだけでは意味がないでしょう!何のための護衛ですか!馬鹿ですかお前らは!」

 その怒号は背後にいたストラッシュとコチカにも向けられている。背後ばかりを気にしており、肝心の幸広を見ていなければ何の意味もない。ティトリーの指摘にストラッシュは自分の失態に顔を伏せ、唇を噛んでいた。

 しかしそれは同時にティトリーが幸広を守ろうとしていたという姿勢が明確に見えた瞬間だった。

 その時ふと坂本を思い出した。ティトリーは口も悪いし人とは思えないような残虐なことも平気でやるような奴だが、それは全て幸広のことを思っての行動だと思うと、何となく心が暖かく感じた。それは坂本に対して抱く感情と似ていた。

「……みんな、ごめん。ありがとうございます」

 幸広は一同に向けて頭をさげる。

「そんな口だけの言葉なんぞ要らないので極力自分のことは自分でなんとかしてください」

 それだけ言うとティトリーは先に行ってしまう。その他のメンバーもそれを追うようにその場を動き出した。

 幸広は次の進路に向けて動き始めた一行を数歩後ろから見つめる。

 先程といい今回といい、あまりにもぼんやりしすぎている。それが呪いの影響なのかはわからないが確実に周りに迷惑をかけている。

 どうにも自分を保つことができない。今度またこんなことがあったら……そう考えると皆と一緒に行動すべきではないのかもしれない。

 一向に足を進めようとしない幸広の背中が何かに押される。

 振り向くとヴィーが「前に進め」と言わんばかりに何度も頭で幸広の背中を押してくる。

『お前、また余計なこと考えてるんじゃねぇだろーな』

 すぐ側でパネンカの声が響く。

『どうもお前は考え込んで溜めたモンを爆発させる癖があるみたいだからな。オレが見ててやるよ』

 黒い翼を羽ばたかせて幸広の目線の高さまでくると、その小さな手で幸広の鼻の頭をポンと触る。パネンカは慰める時など、必ず体のどこかに触れてくる。そしていつもその柔らかい感触に幸広の感情は和らいでいた。傍らには獣姿のヴィーも心配そうに見つめてくる。

「俺こんなにモテたことないわ」

『しょうがなく、だぞ』

「ユ、ユキヒロ殿!わ、私もおりますので!」

 ストラッシュも慌てて会話に混じってくる。先程の失態にかなり落ち込んでいるようだ。その表情には焦りが見える。

「ふふ、そやな。ストラッシュもある意味ペットみたいな感じするわ」

「ぺ、ぺっと……とは何でしょうか……?」

 言葉の意味が分からずあたふたするストラッシュをなだめると、幸広はパネンカを頭に乗せ、背中を押すヴィーの鼻頭を撫でると小さく笑った。そして離れたところで足を止めていたオルヴァーハ達の元へ急ぎ向かった。

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