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楔荘 破~聖女と楽園の真実~  作者: 五月雨 禊/作者 字
4/21

第四話 幻想の葛藤

 ……最近……。

「あ゛ぁぁ~」

 禊がお疲れの様だ。

「もういやだぁ~」

「何があったの?」

「ドイツの上司が怖いぃぃロシアの上司が堅物すぎるぅぅアメリカの上司とはなぜか会話にならないぃぃ」

 色々大変なんだね。よし、じゃあ俺の胸を貸すから。

「やぁめろぉ嫌好ぉ。抱き付くなぁ」

 ……拒否された。

「やけ酒じゃい!」

 禊は酒を取りに台所へ行く。

「成則さーん、お酒どこぉ?」

「飲むんですか? 珍しいですね」

「成則さんも付き合ってくれ」

「いいですよ。あ、嫌好さんもどうですか?」

 とりあえず頷いておいた。

 最近の禊はお疲れ気味。咳とかよくするし、この前は頭痛いって。なんか具合悪そう。

 成則さんが禊のお猪口に酒を注ぎ、俺のにも注ぐ。

「それでさぁー!」

 盃に口をつけながら愚痴る禊を横目で見る。

 ……なんか暇。

 そうだ、忍の部屋で見つけたエロ同人みたいな妄想を禊でしてやろう。酔ってる禊を縄で縛りあげて、トイレに行きたくてもがいて泣いてる禊を眺める。

 ……うん。良いな。我ながら実に悪趣味な妄想だ。

 禊の話題がお嬢になった。そういや、あのけしからんおっぱい星人はどうしたんだろう。散々俺を殴りやがって……。

 まあ、禊の一番の愛娘みたいなもんだから、大目に見てやるか。禊の娘だったことを感謝するんだな! フハハハハァ!!

 ……らしくもないな。

「――嫌好さん!」

 成則さんに呼ばれて現実に帰る。

「あまり自分の世界に入り込まないでくださいね」

「あ、あぁ」

「禊さん寝てしまったんで、部屋まで運んでもらえますか?」

 了解した。

 禊は机に突っ伏し涎を垂らして眠っていた。ぐでんぐでんの禊を抱え、部屋まで引きずる。

「どっこいしょ……」

 禊をベッドに放り投げ、布団をかける。

 スーツにしわがついちゃうけど……まあいいか。

 なぜそうなったかわからないけど、禊の上に馬乗りになって首に触手を絡めていた。

 そうだ……。コイツが、コイツが村のヤツ、言葉も小町も要も尊も婆様も……みんなみんな殺したんだ。笑いながら、人間じゃない力でみんなぶった切って。

 触手に力を入れ、禊の首をゆっくり絞める。

((殺したのは[[rb:禊 > それ]]じゃない))

((犯人は偽物だ))

 そんな声が俺の中からした。

 違う、そんなはずない。

((お前は禊を裏切った))

 そんなこと絶対しない!

((本当に? じゃあ何でこうなった?))

 すべての元凶はコイツが……!

((愚かな))

 はっとして力を緩める。

 禊の事は大っ嫌い。でもその分大っ好き。

 禊の胸に額を当てた。どうしたらわからなくて、涙が出てきた。そうだ……偽物を殺せばいいんだ。そうすればずっと禊と一緒だし、こんな嫌な記憶も和らぐ。

 眠気に負けて、禊の横で眠りの海に落ちた。


 ノンレム睡眠か?

 いや、こうして意識があるってことはさっきまではノンレム睡眠だったって事か?

 まあいいや。

 ここは何だろう。真っ暗で何も見えない。足元に手を着いたら床らしい感触がした。コンクリート? その割には冷たくない、ぬるい感じ。しばらく空間をうろついてみる。何も障害物は無く、とにかく広い空間のようだ。

 気づけば、さっきより暗さがマシになって明るくなった気がする。目が慣れたのだろうか。

 空間は徐々に明るくなっていって、立ったままでも足元がはっきり見えるくらいになった。やはりコンクリートだったか、灰色の滑らかな床が見えた。薄暗さはあるけど、天井も見える。何もない距離感もつかめない白い天井。壁の上の方の終わりが見えない、どんなに歩いても壁に到達できない。

 ……変な空間、気持ち悪い。

 ふと、背後から鎖の音がした。正確な距離がわからないが、遠くなのはわかった。

 向こうの方に黒い何かが見えてきた。俺は少し駆け出した。あと少しではっきり見えるのに、何かに顔面を思いっきりぶつけた。

「いって……!」

 足元に血が滴る。あ、鼻血……。

 鼻血をすすりながら手を前に出してゆっくり近づく。すると見えない壁に手が触れ、手についていた血が付く。壁は不思議にも質感も温度も感じれず、空気が壁を作っているような感じだった。

 黒い何かと俺の間にある金属の柱に目が行く。大きくて視界に入れるのに少し時間がかかったが、これは紛れもなく籠だ。鈍色がかった、くすんだような金の丸い鳥籠だ。その中に黒い何かは鎖で繋がれていた。

 黒い何かは息を荒げる動物のように全身で息をしていて、その時に黒い鎖が音を立てていた。

 じっと見つめていると、それと目が合った。黒い黒い、闇よりも黒いんじゃないかと思うほど黒い黒曜石の目。体を少しでも動かしたら殺されるんじゃないかって思い、一切動けなかった。

 そしてそれは笑ったように見えた。

 壁に置いた手にゆっくり力を込めて爪を立てる。

 黒い何かが口を開いたように見えた。

「……くウ、きょ……ナ……ぅ、そう……――ゲンソ……、ノ……――」

 もっと見ていたいという好奇心と今すぐ逃げ出したい恐怖が葛藤する。

 ふと、温かい手が俺の目を後ろから覆った。

((それ以上見てはなりません))

 文字が頭の中に流れてきて、光が俺をさらって行った。


 何の苦も無く自然と瞼が開いた。

 もそもそとベッドから降りてダイニングに入る。

「あ、おはようございます、嫌好さん」

 成則さんはさっぱりした顔で挨拶する。

「禊は?」

「もうお仕事に行かれましたよ。また出張が重なったようで……」

 成則さんはいたわるような顔をした。

 時間的には昼と朝の間くらい。朝食はとらずにお茶だけ飲んだ。不思議な夢を見た気がするんだけど、一切覚えていない。

 リビングに置かれた、琉子の飼っているインコの鳥籠が目に入る。

「さ、ご飯ですよ~」

 成則さんがインコに小松菜を与える。

「鳥籠……」

 ふと、あの鈍く輝く金の鳥籠を思い出した。本支部にも似たようなのがあって、捕らえられて最初はその中に押し込まれたのを覚えている。ドーム型の大きな鳥籠。

「……変なの」

 頭の中を振り払うようにお茶を持って中庭に出た。

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