第三話 自我という次元的な空間
真っ暗な空間。
裸電球が古いパイプベッドを照らす。
「う……ん……」
ベッドから湧き上がるように、護が起き上がった。
体を伸ばして、首の骨を鳴らす。
「……ねぇ、このシチュエーション必要?」
あぐらを掻いた膝に頬杖を突き、深々とため息を溢した。
すると、護の左右、そのまた隣と次々と電球が照らしていき、七人が照らし出される。
それぞれが黒服に身を包んでいる。
「てかさー、何なの? 何で黒服?」
護は上着の裾を引っ張る。
「いーじゃん、かっこよくて」
ケイがポーズを決めた。
「空間が黒だから、我々が目立たん」
裏拏が眉間にしわを寄せた。
「そうだね。ねぇちょっと、だれか白くしてくんない?」
殺欺が仰ぎ見ると、空間が白くなり裸電球が引き上げられていく。
七人が円になってそれぞれの椅子等に座っている。
怨は座布団に座っている。レトロなデザインの無地の黒スーツ。
護は先ほどのベッドに、タートルネックのニットにチェスターコート。
表子はアンティークな椅子に、黒のフレアスカートのスーツ。
裏拏は中華椅子に、何ともマニアックな……なんだこれ。どんな格好してんの。
「そ、そのままで説明しろ!」
あ、はい。えっと、スーツのベストをシャツも着ずに着た感じで、黒のショートパンツ、白黒のニーハイ、それから黒いマフラーを巻いている。
「うむ」
殺欺は木製スツールに座っていて、黒いTシャツと、黒のジャケットに黒のカーゴパンツ。
ケイは大きめのパソコン椅子、黒のチノパン、シャツ、長い黒のリボンタイ、黒のパーカー(フードは白)。
禊子はボールチェアに、ワンピースの喪服。
禊はただ突っ立っていて、黒いロングTシャツと黒いスキニーパンツを着ていた。
「一人多くありません?」
表子が首を傾げた。
「確かに」
そう言ってケイが禊を指さす。
「何で俺がいるの?」
一同は沈黙する。
すると怨が腕を組みなおし、
「……ここは心の中みたいなもんだ。禊がいて当然だろう」
「禊はいわば本体で肉体だからねー」
ケイはイスに身をもたれる。
「ところでさー、あれ何?」
ケイが足元の“何か”に目をやる。足元といっても、床も壁も天井も見た目だけではわからない空間では、人間が浮いているような感じだった。足元の向こうに行くにつれて暗くなっている。その先に人間が鎖につながれている。
禊が底に降りていく。まるで水中にいるようだが、不思議と呼吸は出来た。恐る恐る人間に近づく。
人間は“首”とつく部分を繋がれて横たわり、鎖は地面に繋がれていた。長い黒髪が顔を覆っていて見えない。
「……存在?」
禊が声をかけると、人間は寝返りを打って禊の方を見た。
「……んだよ」
「存在、何でここにいるの? 何してるの?」
「何って、そんなんも知らねぇのかよ」
「そりゃぁ……」
「お前、俺の罪が何か知ってんのか?」
「存在?」
「だよ。だからここにいる」
「ここは?」
「心の奥底、みてぇなところだ」
存在は起き上がる。
「禊はここに来るの初めてだもんねー」
殺欺が寝転がって下を見る。
「つーか何なんだ、禊のあの格好」
「僕は何も知らないよ? ここでは全て想像で出来ているから」
殺欺はそういうと、七人の中央をじっと見つめる。すると円の中心にくぼみができる。
「これも想像」
「じゃあ表子を全裸にすることもできるのか」
ケイは良いことを思いついたかのような顔をする。
「できますけど、その時は貴方と怨でエロ同人みたいな乱暴な妄想をしてやりますわ」
表子がそう言って微笑みかけると、ケイは青い顔で身震いをした。
「あー、早くここから出てぇ」
存在がそうぼやきながら仰向けになると、
「それはならん」
いつの間にか怨が禊の横にいた。
「んだよ、ジジイ」
「貴様の方が十分年上だと思うが?」
「まあ、たかが数日の差みてぇなもんだろ。ほぼ同時だよ」
存在はひらひらと手を振る。禊は首を傾げ、
「……ねぇ、怨。怨達って何のために存在してるの?」
「唐突にどうした」
「いや、前からずっと考えていて……」
禊は申し訳なさそうに訪ねた。
「拘束だよ」
後ろから護の声がした。
「俺らは拘束具みたいなもん。存在は、存在自体が罪だから表に出さないよう俺らで拘束してるって事」
「禊が死んでから現在までのあの時間、七回生まれ変わっていたあの時間は拘束具を作るための時間でもあったんだ。僕らを作ったのは、神だよ」
殺欺がそう言いながら禊の肩に寄りかかる。
「御神?」
「ううん。御神を裁いた神、つまり、この世の神」
殺欺はそう言って上を指さした。
禊は存在の方を見る。髪の隙間から不気味な笑顔が覗いた。
「つまり、感情とは理性の拘束である……」
禊は顎に手を添えて問いかけるように言うと、
「そう……とも言えるのかな?」
存在が乾いた笑顔を向けた。
アラーム音がする。
禊は目を開けた。
「うん……?」
見慣れた天井と照明。楔荘の自分の部屋の天井だった。
上体を起こし、目を擦る。
「なんだこれ……」
腰のあたりにある、もそもそしたものを手探りで感知する。
嫌好だと分かった。
「あ……おはよう。禊と寝るとあったかいねー」
寝起きの嫌好は開かない目を向けて微笑んだ。
「何でいるの!?」
「いや、同じ屋根の下に居るんだし……」
「部屋に鍵かけといたはず……!」
「あぁ、それね。安い鍵だからすぐ開いた」
「誇らしげに言うな! 俺はお前みたいな男と寝たくないわ!」
「え、じゃあどんな男が……」
「女の子がいい。男は嫌だ」
「うん。そっか」
「嫌こ……」
「じゃあ俺、女の子になるね」
「そういう問題じゃない!!」
「禊さーん? 朝からどうしたん……」
眠い目を擦りながら榊が顔を出す。
「榊……!」
「……あ! 失礼しました」
「待って! 違うの! そんな趣味無いの!」
「あるくせに……」
嫌好は口をとがらせながらも、嬉しそうに禊に抱き着いた。




