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楔荘 破~聖女と楽園の真実~  作者: 五月雨 禊/作者 字
15/21

第十五話 理想郷説

 存在がギターケースを背負う。

「準備オッケーすか?」

 榊が顔を出して訪ねた。

「あぁ」

「ここともこれでお別れっすね」

 一同は外に出ると、拠点としていた廃墟のレストランを見上げた。

 存在は言葉の方を向き、

「言葉、お前は機密部をいつでも出せるようにしておけ」

「分かりました」

「次はアイスランドだ」

 月明かりの中、榊の龍の翼が大きく広がる。

 オーロラの真下、存在は人差し指と親指を立て、手でフレームを作る。その中にオーロラを覗く。

「何か良いことでもあったんですか、旦那様?」

 黒鉄彦が話しかけた。

「んー、まあ……ちょっとね」

 存在はにっこり笑う。

「fragment……見~つけた」


 小町が尊と忍の所へ走る。

「信号が解明されたぞ!」

「うわぁ何!?」

「ゴフッ!?」

 お茶を飲んでいた尊がむせる。

「急に話しかけるんじゃねぇ!」

「発信源が複数あり、そこから同時に発信されていたからわからなかったが、根本の発信源は、ここ」

 小町はパソコンの地図を見せる。

「ここって……マリアナ海溝?」

「世界一深い海溝じゃん」

「そうだ。ここの最も深い場所と言われている部分から発信があり、その発信が世界中の発信機を通り、ここまで来た」

「相当なルートですね……。どうやってハッキングしたんでしょう?」

「それが、どうやらハッキングやウイルスではなく、正常な信号として流れてきたんだ。不思議な事に、どのフィルターにも引っかからなかったようだ。それに、通って来た発信機の回路のほとんどが廃墟となった場所や使われなくなった発信機なんだ」

「不思議ですね……」

「で、信号の内容ってなんだよ」

「Zote za uzuri……watu……Nia……」

「何語ですかね……英語? イタリア語……ではなさそう」

 尊がかじりかけた煎餅から口を離し、

「……スワヒリ語……」

 とつぶやいた。

 すると小町が何かを思いついたように高速でパソコンのキーを押し始めた。

「小町さん!?」

「ちょっと待って。今元のデータを……あった! これを変換して……こう……よいしょ……!」

「なんか、火付いちゃったみたいですけど……」

「ほっとけ」

 尊は煎餅をかじる。

「タチキリ、コレ翻訳できるか?」

「私には白銀姫っていう立派な名前があります! ちゃんと名前で呼んでください!」

「タチキリって名前あったんですか?」

「お前知らなかったの? ダッセ~」

 大笑いする尊に忍は顔をムッとさせる。

「ノイズが多くて、一部しか翻訳できませんが……」

「何て?」

「『全ての美よ……矛盾よ……ニーア……』です」

「ニーア……」

 ふと忍が思い出し、

「この前、女優でその名前の人がこの前テレビで出てました。スワヒリ語で女性の名前に使われ、意味は目的、だそうです」

 小町がまたパソコンに何か打ち込む。

「話はこれだけじゃないんだ」

「まだ何かあるのかよ。俺、昼寝したいのに……」

 尊が大あくびをする。

「気になって、探査機を送ったんだ」

「マジかよ。ローコストだな」

「ギリギリのところで通信が途絶えてしまったんだが、ほら、ここ。わずかに人工物が見えるだろう?」

 小町が深海探査機のカメラ映像を見せる。

「ギリシャの古い建物の一部に見えますね」

「昔、ここらへんで沈んだ物がないか色々調べたんだが、当てはまるものがないんだ」

 尊が割り込んで画面を覗く。

「これ何だ?」

「どれですか?」

「コレ……木の根? 枝? なんだこれ」

 尊は画面の隅を指さす。

「逆再生してみるか」

 画面の端に、ずっとチラチラと木の根のようなものが映る。

「光の届くギリギリのところまであるな……」

「もう少し調べてみるか」

「俺も、古い資料から探してみます」

「マジかよ……」


 禊はノートを前に悩んでいた。

「禊、何を悩んでいるの?」

 薬と水の入ったグラスを手に、嫌好が話しかける。

「うん……なんかね、思い出せないんだよね」

「何を?」

「隠した記憶、隠された記憶」

「なにそれ」

「真実ってとこかな。小町に頼まれてさ、何でもいいから情報をよこせって」

「存在に聞いたら?」

「無理だよ。だって、あいつに隠されてんだから」

「なんか、最近の禊って難しいことばかり言う」

「そうかな。頭使わないと生きてる実感がわかないんだよね」

「ほらまた」

 嫌好は禊に薬と水を渡す。

「ねえ嫌好」

 禊は何かを思い出したように嫌好を呼んだ。

「何?」

「一つ、手伝ってもらいたいことがあるんだ」

 嫌好は首を傾げた。

 上裸になった禊がベッドの上に座禅を組む。その前に背を向けた嫌好が座る。

「いい? 絶対こっち見るなよ。絶対だぞ。見たら一生口利いてやんない」

 嫌好は生唾を飲み込み、背中から触手を出す。

 触手は禊の後頭部、額、喉笛、胸骨、鳩尾、下腹部、尾骨に当てられ、触手の先が刺さり血が少しだけ垂れた。

 禊は深呼吸をするとゆっくりと息を止める。

 鐘が七回鳴る。見知らぬ青い花。天にも届く巨木。

『いつまでも一緒だと良かったのに』『本当のあなたは何処?』『永遠なんて、無理だよ』

 言葉が、記憶が流れていく。

『夢中になってる時の君が、一番きれい。キラキラしてる』

 君は……。

『早く迎えに来てね』『ずっと寝てるのも、意外ときついんだよ』

 そうか。だからなんだ。知らぬが仏。存在が求める理由。

『君がそう望むなら』

 禊は目を覚ます。

「禊……?」

 禊は涙を拭うと服を急いで着て、

「白銀姫、小町を呼んで」

「了解しました!」

 しばらくして、小町と忍と尊がやって来た。

「何かわかったか?」

 禊はあせる小町を座らせ、その前に座る。

 真剣な顔をして、

「ユートピア」

「ん?」

「理想郷伝説を知ってるか?」

「あぁ」

「アルカディアや、ジパング、シャングリラ……ですね」

 忍が指を折りながら言う。

「忍、お前を呼んだ覚えはないが……」

「え。呼ばれてません?」

 一同がうなずく。

「まあいい、一応聞いといてくれ。思い出したんだ。本当は、思い出さない方がいいかもしれないが……」

 禊は一呼吸おいて、

「矛盾は、聖女含め25人。宝器もその数だけある。二十五の美と、二十五の石」

「25か……」

「それと、これはあくまで俺の考察でしかないけれど……」

「何だ?」

「矛盾になる人間って、やっぱり感染みたいな感じじゃない?」

「今更なんだ?」

 尊が訪ねた。

「まず、2000年前の矛盾の大量発生。その後、500年後に嫌好は中国近辺をうろついてる、その時に丁度、榊が矛盾化。嫌好を封印するのに俺の血が雨となって一部の地域に降った」

「うん。その頃に忍が矛盾化している」

「え。俺って元は何処の人間なんですか?」

「日本」

「いや、そうですけど……」

「なるほど……わかった。参考にしてみる」

 小町が禊の肩に手を置く。

 禊は深く頷いた。

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