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楔荘 破~聖女と楽園の真実~  作者: 五月雨 禊/作者 字
11/21

第十一話 籠の中

 ある日の夜。

 禊はベッドで涎を垂らしながら眠っている。薄ら開いた視界に、ベッドの横に誰かが立っているのが見えた。

「嫌好……?」

「――またその名前かよ」

 白い髪が暗闇でよく見えた。

 要だった。

 要は禊の首根っこをつかむ。

「うわぁ何!?」

 騒ぐ禊の口を押え機密部の外に連れ出し、ビーストモードの鳥で本支部機体先端まで連れて行った。

 空中から床に落とす。

「うぎゃっ!」

――カラカラカラ……

 金属の何かを引きずる音が闇夜に響く。

 月明かりが照らす要の手には鉄パイプがあった。

「な……何?」

「I want your bone.I want your heart.I want your――」

 要がパイプを振り上げた。

「――Dream」

 禊が急いで避ける。

「夢……?」

 要がパイプを振り回し、それが禊の頭に当たった。

 紅い珠が床に散らばる。

「僕は……僕は、ずっと君が欲しかったんだ。君の夢が見たいんだ! 君の理想が見たい。君の欲が欲しい!」

 倒れた禊をパイプで何度も殴った。

「……でもね、君には邪魔してもらいたくないんだ」

 要は鉄パイプを投げだすと、ズボンのポケットからバタフライナイフを出して、禊の足首に当てがった。

「君にはしばらく、籠の中に居てもらうよ」


 傀儡なんて、どうせすぐ壊れちゃう。

 知ってる? ブラックホールの中に人間が入るとぺしゃんこになるんじゃなくて、二次元になって永遠に存在するんだって。

 小さな悪魔は高い声で笑い声をあげた。

「はッ……!」

 禊は目覚めた。

 ベッドの横で嫌好が寝ている。

「……また、寝てたんだ」

 真っ黒の天井に、金の鉄格子、乾いた白いライト。眩しいライトの光から、一枚のメモと藤色の羽が落ちる。

『幻想の美』

「……なんだこれ」

 黒いインクがべったり付いた文字。乾いてはいる。

「ん……禊……」

 嫌好が目を覚ました。

「よっ、嫌好」

 禊が声をかけると、嫌好が目を輝かせた。突然、

「パパり~~~~~~~~~~ん!!!!」

 壁を崩壊して琉子が突っ込んできた。鉄格子の隙間に胸が挟まる。

「うわ、巨乳星人!」

 嫌好が驚いて禊にしがみついた。

「え!? 何コレ! 挟まって、抜け……きゃぁ!!」

 小町が後ろからおっぱいをわしづかみにしていた。

「おい、牝牛」

「牝牛って何よ!?」

「何しに来た。スタッフに許可もらってないだろう」

「壁ぶちやぶってきたのよ!」

「一体修理にいくらコストがかかると思ってんだこの阿呆!!!!」

 小町が高速で琉子のおっぱいを揉む。

「きゃぁあぁあぁあぁ!! ちょっと! 脂肪を燃焼して小さくなったらどうすんの!?」

「いっその事しぼめ!!」

「小町って胸の事でなぜかお嬢に対立するんだよね」

 嫌好が力なく笑う。

「笑った……」

 禊は普段笑わない嫌好に少し驚いた。嫌好は首を傾げる。

「パパり~ん」

 解放された琉子が禊に頬ずりをする。

「あぁ、健気なパパりん……病衣の下は何か履いていらっしゃるのですか~?」

 琉子の手が股の間に入る。

「琉子!?」

「フッフッフ……あら?」

「琉子?」

 嫌好が話しかける。

「……履いてるの?」

「履いてる、ケド……」

 嫌好と目を合わせる。

「……無い」

「え?」

「無いの……ほら、アンタにあって私に無いモノ……」

「……それがどうしたの?」

「ほら、パパりんって男でしょ?」

「……うん……?」

「なのに、無いの」

 琉子は真顔でごそごそ手を動かす。

「ぁ……や、琉子、やめ……」

 禊は顔を赤くして琉子の肩を叩く。

「……」

「……」

 琉子と嫌好の頭に電流が走った。

「禊、結婚しよう。結婚!」

「ダメよ! パパりんは私の! いえ……パパりんではなく、ママりんね!!」

 三人がもつれる。

「禊は俺の!」

「私のママりん!」

「ちょ、二人ともやめ……! どこ触って……!!」

 嫌好と琉子の顔に水がかけられる。

「ちょっと! メイクが台無しじゃない!!」

 琉子が小町に向かって怒鳴った。その琉子の顔を見た嫌好が青ざめる。

 小町はわなわなと拳を震わせ、

「今すぐここから出ていけ!」

 嫌好と琉子を追い出した。

「まったく……」

 小町は白衣の襟を引っ張り服装を正した。そして禊の方を向き、

「気分はどうだ?」

「あ……うん。大丈夫」

「まだ傷が痛むだろうから、しばらく安静にしてなさい。アキレス腱に切れ込みが入っているからギプスで固めるぞ。それから……」

 小町は声を潜め、

「要が失踪した、それから存在も。タチキリの片方が無くなり、もう片方の姿が今までと違う。それと、榊の動きがどうも怪しい。お前も知っているだろう? 奴らの動きが予言と全く同じだ」

「『の聖女と獣人が触れたとき、花は咲き誇る。灯は天へ昇り、海月を産む。有るべき処に帰られよ――』……」

「聖女に接触した場合、何が起こるかわからない。予言研究委員からは大規模な災害が起こると言われているが、まだよくわかっていない。最悪の場合を想定して動いた方が良いかもしれない」

 小町はため息をつくと、いつも通り平然としながら、

「お前にはしばらくこの籠の中に居てもらう」

「普通の病棟じゃだめなのか?」

「色々研究したい事も山とあるし、お前の身を守るためにもある」

 禊はうつむき、

「……要を、責めないで」

「何故?」

「ちょっと、間違えちゃっただけかもしれないから」

「甘いな」

 小町はカルテに文字を書き始める。

「存在がきっと教え直してくれるから。要は本当はそういう奴じゃないんだ!」

 禊は必死だった。

「何故そう言い切れる?」

「少しだけだけど、覚えているんだ、生前の事。……本当はすごい優しい奴で、寂しがりやなんだ。存在にたぶらかされただけなんだ!」

 小町は動かしていたペンをクリップボードに置き、

「たぶらかされようが騙されようが洗脳されようが、それに翻弄された本人の責任だ。翻弄されないようにと危機感を持たなかったのが悪い。見つけ次第、取っ捕まえて始末しなければならない。奴もわかっているはずだ、存在がいかに危険で存在してはならない者かを――」

 小町はその場を立ち去った。

「……タチキリ」

「はい、何でしょう旦那様?」

 部屋に白銀姫の優しい声が響く。

「どこにいる?」

「いつもの保管場所に居ますが……」

「こっちに来てくれる? なんだか……寂しいんだ」

「了解しました」

 白銀姫がドアから入ってくる。

 禊は手を伸ばし、白銀姫を抱きしめる。

 白銀姫のねじ止めの上にある石を撫でる。

「石なんてあったんだね」

「はい。旦那様の命令により、銀を被って隠していました」

「そうだったんだ。もう、あの頃の……組織ができる前の記憶はほとんど覚えていないや」

 禊は力なく笑う。

「戦時中でしたもんね……。私も、あのような残酷な事は二度と起こってほしくないです」

 禊は白銀姫の刃の装飾を撫でる。

「白地に銀の装飾……」

「この石は翡翠と言います。貴方の目……今は、その色を宿していないようですが……このような色をしておられました」

「もう片方は?」

「はい。私は双子の聖霊。もう片方は存在様の元に就かれました」

「名は何ていうの?」

「黒地に金の装飾の、黒曜石の黒鉄彦です。そして私は、白銀姫と申します」

 禊は白銀姫を抱きしめる。

「旦那様っ……!」

 白銀姫は声を押し出す。

「もう我慢できません! 私、旦那様のそんな顔見たくありません!! そんな顔の旦那様は嫌いですし、そんな元気のない旦那様の元に就きたくありません!!」

「白銀……」

 禊はにっこり笑い、

「ありがとう、白銀姫」

「旦那様~!」

 白銀姫が頬ずりする。

「白銀姫、冷たい……! ふふっ」

 籠の口の横にあるモニターに小町の顔が映る。

「禊、来客だ。忍と嫌好だ。できれば嫌好は通したくないが……」

 小町が苦い顔をする。

「別に構わないよ」

 許可を出すと、忍と嫌好が入ってきた。

「禊さん! 大丈夫でしたか!?」

「忍、ありがとう。大丈夫だよ」

「でも、こんなに大きなガーゼをつけて……」

 忍が心配そうに額のガーゼを見る。

「大げさだって」

「……禊」

 嫌好が青い顔で話しかけた。

「うわぁ何?」

「ちょっと結婚って10回言ってみ」

「え、何急に」

「ちょ、嫌好、何言ってるの!?」

 忍は嫌好を白い目で見た。

「いいから。だまされたと思って」

 禊はためらいつつも、

「結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚……」

 嫌好は幸せそうに優しく微笑み、

「絶対幸せにするから……」

 禊の手を握った。

「なんてこと言わせるのこの人!? ちょ、嫌好!」

 忍は急いで嫌好を禊から引き離す。

「そうですよ嫌好様! 旦那様は私の旦那様です!」

 白銀姫はグリグリと柄で嫌好の頬を押す。

「いやそれも意味わかんないけど! ほら触手出てますよ!」

 忍は触手を押さえる。

「そういや今日っていつだ?」

 禊が訪ねると嫌好が、

「2月の30」

「もう3月ですよ? 今日は1日……」

 そう言いながら、忍が固まる。

「え? ウソ。もう3月? ヤバ。新学期……」

 頭を抱える。

「もうそんなか~。忍、大学進学は考えているのか?」

「もう今更ですよ。一応やめておきました。大学に行かなくても、尊が教えてくれるんで」

「アイツは暇人だからな。それに案外頭いいのが腹立つ……」

「それな!」

 嫌好はステップ良く両人差し指を向けた。

「ハックショイ!!」

 尊が大きなくしゃみを一つした。

「ズビッ! あぁ……? 誰か噂でもしてるのか?」

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