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高校生と殺し屋を繋ぐもの

 数学の問題を解いていた手が止まる。


「はぁ……。疲れた……」


 軽く肩を回すと、ゴキッバキッボキッとすごい音が鳴った。


「人は肩こりで死ねるのかもしれないな……」


 誰もいないのにそんなことを呟く俺。なんだが虚し……いや、なんでもない。


少し休憩しよう。椅子から立ち上がって窓の方へ向かう。シャっと閉めきっていたカーテンを開ける。綺麗な月が顔を出していた。


 綺麗だなーなんてぼんやり眺めてたら、突然月が消えた。代わりに広がるじいさんの顔……。


「って、ええっ??!!」


 窓の外に何でじいさん?! ここ2階なんですけど?!!



コンコン――



 と、じいさんが窓を叩く。そして、鍵を指さすとにっこりと微笑んだ。


 鍵を開けろってか?! 突如2階に現れたじいさんを中に入れろと?! ふざけんな!!


 気づけば俺は首を横に振っていた。無理だろ、この窓ガラスは俺にとって最後の砦だから!!


 それを見たじいさんから笑みが消える。細い目がうっすらと開き、銀色の眼差しが俺を見た。



ガチャ! カラカラカラ!



「今日は綺麗な月が出てますネ!」


 目が合った瞬間、俺は窓を開けていた。


「ウム。実にそうだね」


 じいさんに笑顔が戻る。俺は自然に笑えているだろうか……?


「夜分にすまんね。勉強中だったかな?」

「いや!ちょうど休憩してたところで! ……それよりも、どちら様で?」


 駄目だ、声が震える。


「おおっ! これはすまなかった! てっきり舞から話を聞いているかと思ってな」

「園神から……?」


瞬間、俺の頭に電撃のような衝撃が走った。


「まさか……舞のおじい様?!」


 俺の回答は正しかったようで、園神のじいさんはにっこりと笑った。


「初めまして、拓斗君」


 丁寧にご挨拶いただいたが、俺は返事を返すことができない。ていうか無理だ。だっていきなり人ん家の2階の窓から「こんばんは」してくるかよ?! このぶっ飛んだ感じのどこが園神の……いや、すげぇ血の繋がり感じるわ!!


「驚かせて悪かったね。こんな時間に素性のしれないじいさんがいきなり玄関から訪ねてきたら、君の親御さんたちがビックリされると思ってね」


 なるほどそれで窓から……って納得できるかっ!


「ハハ……そうっすか…」


 当然、そんなツッコミをかますわけにもいかず、俺は何とか相槌を打つ。


「それで……本日はどういったご用件で?」


 俺は一度生唾を飲み込み、思い切って本題を口にした。相手は園神に殺しの技術を教えた人物だ。下手すれば俺なんて瞬殺である。


「そんなに身構えなくても大丈夫だよ。今日は君に謝りに来ただけだから」

「は?」


 想像もしていなかった内容に俺の口から間抜けな声が漏れた。てっきり弾丸を至急返せと言われるものと思っていた。速攻で返すけど。


「実は君が拾った弾ね。舞が落とした時も君がそれを拾った時も、わし見てたの。でも、すぐに言わなかったわけね。それで、君を巻き込んでしまったからごめんね?」

「は?」


 さっきと同じ言葉が俺の口から出る。


だが、これは仕方ないだろう。だって、あの弾丸を拾った日、このじいさんは一部始終を見ながらも放置したのだ。その場ですぐになにか適当な理由をつけて俺から弾丸を取り返していれば、園神が転校してくることも俺の平凡な日常が脅かされることもなかったはずだ。


 それに対して「ごめんね?」とか―――軽すぎるわぁ!!


「あれからね、舞が「弾が足りない」って慌ててねー。わし、君が拾ったこととか、本物の弾丸なんて珍しくてすぐには返してくれないねとか、あの弾丸をきっかけにあの少年の身に危険が迫るかもしれないねお前の不注意のせいで(シクシク)とか、舞にいろいろ吹き込んだわけ。そしたら舞ってば、君の学校に入り込むなんて言い出してね。わしが転入の手続きをしてやったのよ」


 俺があまりの事実に硬直している間もじいさんのカミングアウトは続く。ていうか、今、なにか聞き逃せない話があったような……。俺は心の中でじいさんの話を反芻する。


「園神が後先考えず転校してきたのはあんたのせいかよ!!」


 もう駄目だ。とてもじゃないがツッコミを入れずにはいられない。殺し屋なんて知ったことか。


「なんで俺が弾丸すぐには返さないなんて適当なこと吹き込んだんすか?!」


 俺はツッコミを入れた勢いのまま質問をする。


「えー。だって制服姿の舞とか、弾すぐに返されそうになって慌てるかわいい舞とか見たかったんだもん」

「なんて傍迷惑なじじ馬鹿!!!」


 俺は両手で頭を抱えた。


 目の前でじいさんは「はっはっはっはっは」なんて楽しそうに笑っているが、そんな理由で巻き込まれた俺はたまったもんじゃない。マジで。


「はー、こんなに笑ったのは久しぶりだ。ありがとう」


 ようやく笑いの収まったじいさんが呼吸を整えながら言った。俺にとっては笑い話じゃない。


「さて」

「?」

 じいさんの声のトーンが少し低くなる。なんだ?


「冗談はこれくらいにして本題だが」

「なっなにぃいいいいいい!??」


冗談だったのか?! 一体どの部分が?! 全部が?!


俺としては冗談の部分について詳しく聞きたかったのだが、じいさんの雰囲気が先程までとは違って真剣なものになっていてできなかった。


「今度の舞の仕事なんだが、少し危険でね」

「!!」


 俺は園神の話を思い出す。因縁の相手のことを。


「最悪の場合は、わしから君に連絡を入れる。その時に弾丸を返してくれるかな?」

「……」

「それじゃあ、これだけ伝えたかったからもう帰るね。勉強の邪魔をしてすまなかったね」


 そう言って窓から立ち去ろうとするじいさんを――俺は引き留めた。


「ちょっと待ってください!」


 じいさんが動きを止める。俺はすばやく動き出した。


 えーっと、なんか袋……袋。俺は机の上や引き出しの中を探る。すると、ビニール製の手の平サイズのチャック袋が1枚出てきた。いつのものか分からないがGJ俺!


すぐさま油性ペンを手に取り、しばし悩む。お守りなら普通「守」の文字だがそれだと面白味がない。例え戦場でもちょっとしたお茶目は必要だろう。俺は悩んだ末、『真・弁当!』とチャック袋に書いた。勝った時の約束だからな。これを見たら負けられないだろう。きっと、いや、たぶん。


 続いて俺はティッシュを2枚取り細長く折りたたむ。そして、くるくると巻いてチャック袋に詰めた。これで完成だ!即席お守り!


「すみません!お待たせしました!」


 俺は待っていてくれたじいさんに即席お守りを渡す。


「お守りの代わりに園神に渡してください! あ! 袋は開けないように言ってください!」


 じいさんはしばらく驚いた顔をしていたが、ふっと今まで見たことのないくらい優しい表情をしてそれを受け取ってくれた。


「たしかに。舞に必ず渡すと約束しよう」


 そして、今度こそじいさんは窓の前から文字通り消えた。


「……」



どうか、あのお守りが少しでも園神を守ってくれますように――。



 俺は柄にもなく、月にそんなことを願った。





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