出会いは1発の弾丸から
受験ってめんどくさいよな。いや、何を急にって感じだけど、実際そうだろ?
別の言い方をするなら、「変化って疲れる」ってこと。小・中・高と成長するにつれて、受験はあるし、環境は変わるし、ルールが増える。人間関係、先輩後輩とかさ。
俺的に「現状維持」が理想。変わるのってエネルギーがいる。だから、できるだけ変わりたくない。
と、思ってるんだけどな……。
現実、そうはいかない。俺は今年受験生だ。高3。7月。つまりはもうすぐ夏休み。嫌な感じだ。夏季講習とかあるじゃん。というか、すでに塾通いなんだけどさ。もちろん、親の命令。
つーわけで、受験ってめんどくさい。
現時刻午前0時。
塾の帰りですよ。勉強熱心にもほどがあるな、俺。偉すぎる。馬鹿ってわけじゃないけど、できるだけ上の大学に行って欲しいって親が。厳密にいうと、国立。授業料安いもんな。仕方ない。
ぐだぐだと愚痴ってきたが、俺こと麻川拓斗は現在高3の受験生。国立目指して午前0時に塾帰りの途中っていう偉い子だ。
「あーー。ダリぃ……」
やべ、今おっさんみたいな声が出た。
空は厚い雲が覆っており、星さえ見えない。灯りは等間隔に並ぶ街灯だけが頼りだ。
「今日は満月とか言ってたのにな。どんよりしてらー。まるで俺の心の中のようだ」
一人不敵に笑ってみる。と――。
カッ、カッ、カラカラ……コツン……
「?」
金属が地面に落ちて転がる音。足元を見ると、長さ3㎝弱ほどの細長い物体が落ちていた。拾ってみると、それはテレビドラマなどでよく見る「弾丸」によく似ていた。
「いやいやいや……偽物だよな?」
子供がなんとかゴッコとかで遊んでたやつが風で飛ばされて来たんだな、きっと。かなりのクオリティーだが、気にしない。俺は日常を愛す。
俺は弾丸らしきものから視線を外して前を見た。
「!」
月が顔を出した。
けれど、俺に月を見る余裕なんてなかった。
女が立っていたのだ。まるで月のスポットライトを浴びるかのように。いや、月がこの女を照らすために出てきたのかもしれない。
そう思わされるほどに、それは美しかった。
例え、女の全身が血に塗れ、その手に銃を握っていたとしても――。
女は俺に気付かず消えるように去ってしまった。
何だったんだ……。あれは……?
俺はぼんやりとそんなことを思いながら、拾ったモノをポケットへ入れた。
否――入れてしまった。